深海

ノーネーム

第1話 自閉探索

何もない。ここには何もない。

唯、幼形のまま成熟の止まった、「俺」だけが海の底へと落ちていく。

降り積もる、死んだ魚たちの骨が、灰のように、雪のように、海底へと積もっていく。

海底にあるのは、なんだろうか?「底」へと辿り着けば、それはわかるのか?

これは、すべての記憶を捨て、すべての影響をかなぐり捨てて、「深化」するための過程。

深海に、下降していく君の唄。鏡に映った自分を叩き割り、流れ落ちた血で、大地から木が芽生える。

「これは永い旅への旅立ちの歌。」

無数の言葉が、空から舞い降りる。遠い記憶が、ゆらゆらと灯りのように水中を照らしている。

受け止めきれない現実…揺らぐ信頼…繋がれない手…

どこまで潜ろう?否、どこまで潜れるだろうか…この命の、そのいちばん深いところまで…

さぁ、あの日見つけた、聖書を開こう…文字が…記憶が…流れ込んでくる。

膨大な記憶が…

かつて、記憶を食らった少女がいた。だが、その少女はここにはもういない。

時が経ち、俺はその意味を知った。

「私はあなたの哲学を食らって、私の創作の‘‘いこい‘‘としました。

あなたはいまでも私の深いところにあります。」

けれど、それによって得られたものは、所詮、張りぼてに過ぎなかった。

「多くの人の哲学を吸収し、私は服のように着せ替え、自分のもののように主張しました。」

しかし、それは、自分の哲学ではなかった。

あなたは、天使と悪魔をここに登場させました。私もそれに倣い、天使と悪魔をここに登場させました。

あなたが右と言えば同じく、私も右と言いました。

ここに告白します。私には、私がない。

ここにあるのは、いつも大いなる嫉妬です。「あなたになりたい」という。

私の哲学は、三秒ごとに気分次第で変動し、その姿を変えます。

「なりたいあなた」は、「なりたくない自分」から目を逸らさせ、私はそれをやめることができない。

誰かに憧れることをやめられない。

捉えきれない感情が行き着く先は、いつも同じ、「責任から逃れたい」という欲求です。

「無力」に甘んじることで、私は、あらゆることを「断言」できなくなった。

それ故、「断言」できるあなたが眩しい。そして同時に、「断言」することは恐怖でもあります。

私は名前を伏せ、名前を変え、居場所を変え、どこにも根付くこともできず、根付こうともせず、「孤立」に甘んじた。

いつでも、どこでも、そこにあるのは、「あの日の再現」です。永遠に、トラウマを再現し続けることしか、

もう私にはできることがなくなってしまった。

もし、過去と同じ手法で「幸福」を再現しようとするのならば、同じ方法で「不幸」も再現されるのでしょう。

私は永遠に、灰になるまで、あの日の「焼き直し」をくりかえす。

いつまでも幼い私と、大人のあなた方との距離は、壁の高さは、もう、高くなりすぎた。遠くなりすぎた。

あなた方のように「道徳を使い分けること」もできず、「群がる術」も持たず、

ひとり、孤独を気取って、孤立感を紛らし、憧憬で生き延びる。

私に、「物語」は書けない。なぜなら、私の創作は「噓」だから。

「妄想」であり、「架空の人間関係を通した、過去の再現」だから。これは人形遊びです。

であれば、私は、深海に潜り、何か別の方法を模索しようと思ったのです。

私の作には、「面白さ」はない。しかし私は、「面白さ」のある作が書きたい。

そのためには、何か、別の「私に適した創作の方法」を編み出そうと試みた次第であります。

誰の哲学にも依らず、誰の猿真似でもなく、内から湧き出る「それ」を。

自分の哲学とは何か?私はそのことを探求したい。

「鉱脈」を探し当てるため、私は以降も「噓」をつき、「その‘‘噓‘‘の刹那、ちらりと光った欠片」を探す。

永遠に、見つかることはなくとも。

いつからか、「創作」という病に罹患したものとして、探求したい次第です。

以上、脳内物質が途切れるまで綴った文章、でした。

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深海 ノーネーム @noname1616

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