魔王討伐を命じられた勇者(魔王)

こなひじきβ

第1話 二大引くに引けない使命

 新たな魔王が決まった。これを人類は危機的状況であると判断し、勇者を筆頭としたパーティを結成させて討伐に向かわせる事となった。今はその就任式兼旅立ちの儀である。


「我が国の希望として、ユージ! 勇者となりパーティを率いて魔王カリストを討伐してくれ!」

「……」


 勇者としての任を任された青年ユージ。彼は王の前で跪き、大量の冷や汗をかきながら思い悩んでいた。


(何故だ……何故こんな事になっちまったんだ……)


 同じくして勇者パーティに任命された男剣士、女魔法使い、女賢者が勇者の後ろから小声で語り掛ける。


「おいおい!緊張してるのはわかるけど早く誓いを立てろよ!」

「そうですよ!これまでひたむきに努力を重ねてきた貴方ならきっと大丈夫です!」

「パーティとして共に行く私たちの力もあります、信じてください」

(その……違くてぇ……)


 ユージは……これから始まる旅の意味をひっくり返してしまう程の大きな悩みを抱えていた。

 その悩みとは……。


(……!?)


 この男、実は人間のふりをして過ごしていた魔王だったのである。どうして彼が魔王でありながら勇者に選ばれてしまったのか。その経緯を簡単に振り返ってみよう。

 

「次期魔王となる前に、これから宿敵となるであろう人類を観察しておけ」

「はい、父上」

 

「皆さんの暮らしには魔法が欠かせません。日常生活にも自衛の手段にもなり得るのです」

(人間たちって結構面白い技術を持ってるな……学校とやらに入学して学んでみるか)


「魔族から村を救っていただきありがとうございます! 貴方のそのお力は一体……?」

(今のは誇り高き魔族にあるまじき外道な振舞いを行っていた奴を倒しただけ。……村を助けたのは偶然だ)


「騎士団への入団志願者諸君! 我々は君たちの将来性に期待する!」

「騎士団全員に勝ってしまったな……だがこれでは物足りない。皆をもっと鍛えてやるとするか」

 

「時が来たな……これより魔王の座は、息子カリストに継承する!」

「父上より賜りし命により、使命を全うさせていただきます」

 

「新たな魔王が誕生したと王国に知らせがあった! 何としても討伐せねばならぬ!」

(えっ、もう人間たちに伝わったの? 早くない?)


「王国一の力と技巧を持ち合わせた逸材! お主こそ勇者に相応しい!」

(勇者? 国で一番強い者の称号か何かなのか?)


 勇者という称号が与えられた数日後に、勇者は魔王討伐の命を与えられるという事を知った。こうして、王国からの勇者任命と魔王からの玉座継承というとんでもないバッティングが発生したのであった。


「ど、ど、どーすんだよこれ!?」


 この世界は、どうなってしまうのだろうか。

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