第三話 ルイ様とワクワクピクニック 2
マルディラムさんは合計四つのバスケットを用意していた。
みんなで分担して運んでいたが、今は敷物の上にずらりと並べられている。
「初回なのでな、無難にサンドイッチとホットドッグを用意した」
「へぇ、楽しみです……って、ホットドッグの中身間違っていませんか⁉︎」
サンドイッチはハムとレタス、厚焼き卵、トマトと蒸し鶏、ポテトサラダなどなど、いろんな具材が挟まれていて見るからに美味しそう。
けれど、ホットドッグのバスケットに入っていたのは、縦に切り込みが入ったパンに、保冷用の魔石が乗せられた調理前のソーセージ、それにケチャップやマスタードといった調味料である。
つまり材料一式が綺麗に詰められていたのだ。
疑問符が浮かぶ私に対し、マルディラムさんは得意げに鼻を鳴らすと(鼻ついてないんだけど)、背負っていた大きなリュックを下ろしてゴソゴソと中を漁り始めた。取り出されたのは一枚の金網とスキレット。地面が土の部分を選んで手早く石を積んで簡易的なかまどを作ると、その上に金網とスキレットを乗せた。そしてソーセージをスキレットに放り込む。
「やはり出来立てに勝るものはない。ホットドッグはこの場で調理する」
「えっ⁉︎」
「なにそれ、最高じゃなあい」
マルディラムさんが急に色々と組み立て始めたため、なんだなんだと全員が集まってきた。ミーシャお姉様は既に涎を垂らしている。
「さて、あとは火だが……」
チラリとマルディラムさんが私を見る。ん? と首をもたげるが、すぐにピーンと閃いた。
「ルイ様、やってみましょうか」
「なっ⁉︎ 余が着火するのか?」
ささっ、とルイ様の背を押して、かまどの前に連れていく。
急な指名に慌てふためくルイ様だけれど、他のみんなはその様子を温かな目で見つめている。
魔法の特訓は私が受け持っている。普段、みんなは各々の仕事を抱えていて、ルイ様の様子は夜な夜な寝静まってから愛らしい寝顔を眺めるばかり。日頃の特訓の成果を見せる機会はなかなか訪れなかったが、今がその時なのだ。
「大丈夫です。いつもやっていることを思い出してください。誰かを傷つけるわけではありません。みんなのご飯のために火が必要なだけです。イメージしましょう。カリカリに焼けたジューシーなソーセージを」
「やだあ、お酒が飲みたくなっちゃうじゃない」
ミーシャお姉様が何やら言ってマルディラムさんに「黙れ」と嗜められている。
肝心のルイ様は、私以外の前で魔法を使う機会がないため、緊張により身体が強張っている。
幼いながらに膨大な魔力を有するルイ様。
これで全盛期のほんの一部だというのだから、大人になって覚醒したらどれほど強力な魔法を使うことができるのやら。それこそ新しい異空間を作り出せるほどの魔力を秘めているのだ。その過大な力を使うことには恐怖も伴うだろう。
溢れ出る力を制御できるのか、万一力加減を見誤って、大切な人たちを傷つけたら……きっと、ルイ様はそんなことを考えているのだろう。
「恐れなくて大丈夫。ほら、みんなの顔を見てください。誰も不安な顔はしていないでしょう? ルイ様を信じています。もちろん私だって。ほら、手を握っています。心を落ち着けて、穏やかな火を思い浮かべて……」
ルイ様を安心させるようにそっと手を握る。僅かに手が震えたけれど、ぎゅっと握り返してくれた。
「よ、よし。やってみよう」
ルイ様はゴクリと唾を飲み込むと、徐に手をかまどに翳した。
「……燃えよ」
ルイ様が小さく呟いたと同時に、マルディラムさんが用意していた木屑に火花が起こり、ボッと炎が上がった。温かで優しい炎だ。
「ふふ、ルイ様お上手です」
「ああ」
ふう、と息を吐いたルイ様だけれど、その表情はどこか晴れやかだった。
「いつの間にか細やかな魔力操作を身につけていらしたのですね」
「ルイス様、すごおい」
「ワシも感激ですじゃ」
「お、おい。火ひとつで大袈裟だぞ」
ふい、とそっぽを向くけれど、それが照れ隠しなのは周知のことで。みんなニコニコと嬉しそうに笑みを深めていた。
やがてパチパチと油が弾ける音がして、香ばしい香りが立ち上ってくる。
「ねぇ、まだなのお?」
「ええい、もうすぐだ。パンを開いて待っていろ」
「はあい」
ミーシャお姉様がウロウロとマルディラムさんにまとわりついている。鬱陶しそうに手で追い払いつつもちゃっかり手伝わせているマルディラムさんは強い。焼き上がったソーセージをパンに挟んでお好みでケチャップとマスタードを添える。
「よし、完成だ」
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