神社

 いまから四年前。

 十二歳の志鶴しづるは神社に少し遅い初詣に来ていた。三が日は過ぎ去り、静けさと厳かさだけがそこにあった。

 二礼二拍手一礼をしっかりと覚えていない志弦は(神さま、作法のなってない自分をお許しください)と前置きしてから祈った。

 おみくじを引いた。大吉。病気の欄は『信心し、療養せよ』。今年も健康祈願のお守りを買って帰ろうとお辞儀をした。

 見たことがない金髪の子。年は志弦と同じくらいか。

「きみ、ここで何をしてるんだ?」

 志弦は思わず声をかけた。見たところ、齢は大して変わらない。ならば、一人でも帰れるだろう。しかし、その少女はいま目を離したら消えてしまいそうな儚さを纏っていた。

 参拝客、という様子でも誰かと待ち合わせをしている、という感じでもない。儚さと同時に、不気味さまでありそうだ。曇天、大樹のある神社にて金髪の少女。かなり良い絵にはなる。晴天であればなおよし。曇天といっても雪が降っていれば、それはそれで良い。

 怯えた目で志弦を見る。

「僕はここらへんの住人だ。別に怪しいやつじゃねぇぞ?んで、帰れるか?」

「怪しい人はみんな『自分は怪しくない』って言うんだよ」

 それはご尤もだ。だが、志弦には尽くせる言葉がなかった。

「大丈夫、帰れる。私もここらへんの人」

 そう言って少女は歩き出した。足取りからして雪国の人だ。雪慣れした歩き方。少し歩いたところで立ち止まり振り返る。

「気にかけてくれてありがとう。君の名前は?私は瑠永るな

「僕は志弦。降瑞ふるみ小」

「降瑞、同じだね」

 神社降りてどっち?右?と話し、瑠永の警戒心も解けたところでいろいろ話した。

「へ〜!ルナってゆかりちゃんの友達なんだな!」

「うん。一緒にかるたやってる」

「かるたって百人一首のか?」

「そうそう!」

(そういえばそんな映画が上映されていたな)

 と志弦は思い出す。劇場グッズでそのアニメの百人一首が販売されていたような。志弦は別の映画目的で劇場に向かったため、確かではないが。

「ふっくからに〜」

 大した前触れもなく上機嫌で歌い出す(?)ものだから下の句を返す。

「むべ山風を嵐といふらむ」

「え、知ってるの⁈」

「道民は下の句かるた、なんて認識は古いと思うぞ?あんな繋げまくった字、見るだけでやる気失せるわ」

「じゃなくて、百人一首の知識を持ってる小学生ってなかなかいないから」

「まぁ、確かに」

 視聴率が高いアニメで取り上げたわけでもない。そこの界隈の人が熱くなっても周りの人にはあまり響かない、そういう狭く深くのアニメだ。劇場に三桁回数足を運んだ猛者もいるとかいないとか。

「僕はただ、坊主めくりが好きなだけだ」

「あ〜!良いよね!坊主出された直後に姫を引くの!」

「お前、性格悪い?」

「初対面に『性格悪い?』って聞く君もなかなかだと思うよ」

「確かにな」

 百段階段と呼ばれる、実際は七十八段の階段を降り、広い道路に出る。

「この後は?」

 右、と瑠永が答える。

「じゃあ僕はこっちだから」

 信号を境に左右に別れる。

「また会うことがあったら話そうね」

「あぁ」

 信号の先、二十分ほど歩いて自宅前。

「ただいまー」

「おかえり〜」

 鞄を置いてジャンパーを脱ぎ、暖房前のハンガーにかける。

「どら焼きあるよ〜」

「食べるー!」

 母が買ってきたどら焼きの袋を開ける。

「そういえばね、さっき、降瑞の子と会ったんだぁ」

「お〜!」

 と瑠永のことで盛り上がり、食べ終わった志弦は自室に籠った。

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