2代目の相棒は最強の竜でした。 ~最愛の相棒を亡くした竜使い、よく似た竜をお迎えする~
川中島ケイ
第1話 僕と2代目の出会い
この物語を、大好きだった先代の僕の相棒と
よく似た姿の今の相棒に捧げる。
彼と出会ったのは、先代ピートと同じで緑竜の森の奥の方だった。
アーモンド形の大きな目、ウサギのようにピンと伸びた耳、白い身体に鼻筋には柔らかそうなモフモフした真っ白な毛並み。
後ろ足で立ち上がって首をかしげるような仕草までもが先代の姿に瓜二つだった。
「お前……ピートだろ? なんでこんな所に」
思わずそう声を掛けたがそんな筈はないという事に自分で気付く。
そう、彼はもう、居ないんだ。この世界の何処を探しても、永遠に。
だから他人の、いや、他竜の空似だって言い聞かせて踵を返して森の外へと足を向けたんだけど、どういうわけかその他竜は四つ足で僕の後ろをついてこようとする。
「キュルルルィ?」
立ち止まって振り返るとまた後ろ足で立ち上がって首をかしげる。
まるで「なんで置いてくの?」とでも言いたそうに。
いや、違う! コイツはピートじゃないんだ。僕の大好きだったピートじゃ。
心を鬼にして早足で立ち去ろうとするけど、竜も急ぎ足で追いかけてくるのが草をかき分ける足音で分かる。
何だよ!! もうこれ以上僕の心をかき乱さないでくれよ!!
って振り返って叫びたい衝動に駆られておもわず振り返った瞬間だった。
ガコンッ!!
後頭部の辺り、ヘルムの後ろ側に強い衝撃が走った! 振り返ると森の木々の奥の方で数人が僕を囲んで笑っているのが見える。いや、笑い声からして人間ではない。
この森に棲む集団で岩を投げて敵を狩る猿、ロックブロスだ!
それも冷静になって周りを見回してみると2、3匹じゃなくて10匹以上いる! 完全に囲まれてる感じだ。普段ならこんな状況になるまで気づかないハズが無いのに、彼の事を考えていて頭が回っていなかった所為だ。
「グルルルルルルル……」
そう思って彼の方を見るとなんと、僕に向かって岩を投げつけたロックブロスの方に向かって飛び掛かろうとしている! いくら竜とは言っても
事実、ロックブロスに嚙みつくが大してダメージを与えられず、逆にロックブロスの拳を食らって身体がゴム鞠のように宙を舞う。
「ギャオォォォォン」
「ケケケケケケケッ!! 」
性格の悪いロックブロスはそこにさらにとどめを刺そうと、数方向から岩を投げつける。このままじゃ殺されてしまう、ピートが! いや、ピートじゃないにしても僕の為に怒ってくれた幼竜が!!
咄嗟に僕は走り出していた。剣を振るい、飛んできた幾つかの岩を弾き返す。宙を舞った竜を抱きかかえ、守るように地面を転がる。飛んできた岩のうちの幾つかは僕の身体に直撃し、防具で守られていない部分は何カ所かざっくりと切れていたけど大した問題じゃなかった。彼をもう一度、失う事に比べたら。
「大丈夫だったか?」
「グルルルル……」
「お前、僕を守ろうとしてくれたんだね? 今度は僕がお前を守る番だ」
僕は彼にそう声を掛けると冒険者カバンに彼を入れ、大地を蹴った。その勢いで正面の一体を斬り飛ばし、数歩ダッシュしてすぐ近くの一体も斬り倒す。
ロックブロスは仲間を殺されたことで当然怒り狂い、こちらに向けて岩を雨あられのように投げつける。だがそんなのは何回も経験してきた場面だ、当然対処法も分かっている。
木の後ろに隠れるようにして少しずつ移動し、間合いに入った奴を倒す。そうやって少しずつ確実に数を減らしていく。何度か繰り返すうちにロックブロスたちは勝てないと察したのか逃げていった。
「キュルルルルイ?」
「もう大丈夫だよ……痛ッ」
危険はもう無いと確認して、冒険者カバンから顔を出した幼竜に声を掛ける。だが緊張が解けたせいか、彼を守った時に付けた切り傷が痛み始めた。
「キュウウウン」
僕を心配するような目で見つめる彼。おずおずとカバンから這い出して僕の腕に乗り、そのまま肩当てで守られてない腕に付いた切り傷をぺロペロと舐めてくれる。
「くすぐったいよ。そんな心配してくれなくて大丈夫だから。町に戻ったら手当もしてもらうからさ、行こう」
「キュルイー♪」
僕の言ってることが分かるのか、それとも不安そうではない声のトーンに安心したのか、彼は僕の冒険者カバンにガサゴソと戻り、首から上だけをカバンから出した。
どうやら気に入ってくれたらしい。
「仕方ないなあ、もう……わかったよ。君は今日からウチの子になるんだね」
「キュルルルイ♪」
最愛の相棒を亡くしてから3カ月。こうして予期せずも僕は2代目の相棒になる竜をお迎えすることになった。
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