第3話 決断と誤断
北岳稜線に上がり裏側に入ると風はさらに強くなった。
巻き上がる氷の粒がマツゲにもついて視界を悪くする。
そんな中、登れるルートを見つけた。
急ではないが堅く、決して良くはない。
ピッケルとアイゼンをしっかり利かせて慎重に登るとほぼ視線の高さに山頂が見えた。
そこから少し歩くと尾根が細くなってきた。
残り100mほどだろうか。
ナイフリッジとまではいかないが強風の中ここを進むのは神経を使う。
往復30分くらいかかってしまうかもしれない。
体も疲れていた。
天候は悪化する一方で八本歯のコルを抜けなければいけない。
今日降りなくてはいけない。
ミユも待っている・・・。
ここまでにした。
北岳を登るチャンスなんていくらでもある。
山は逃げない。
また来れば良い。
以前の自分なら行ったと思うが、怪しげな天気予報の中で運良くモンブランを登らせてもらったからそう思うことができた。
いろいろ述べたが撤退を決めた一番の理由は視界の悪い強風の中、登ることに集中しすぎて振り返ったときに登ってきた場所がわからなくなってしまっていた。
ここだろうと思うところを降り始めたが思ったより堅くて悪いように感じ、すぐに登り返す。
後で考えるとおそらくそこで間違えなかったと思われる。
そのときは視界が悪く先がよく見えなかったため、間違っていて登り返すのを嫌ってしまったことと、間違った危険なルートに入ってしまうことが最も危険だと思った。
他にルートがないか探すと夏道らしいルートが見えた。
ミユに夏道は使えないと聞いてはいたが、確実に降りる方向へ行けると思い、そのルートをたどるがすぐに道がわからなくなってしまう。
再び行けそうなルートを探すとまあまあの雪壁をトラバース(横断)するとまた先へ行くことができるとわかり、慎重に壁をトラバースしていく。
振り返り、よく行ったなと一息ついて少し歩くと再び行き詰まる。
再びルートを探す。
70度位の雪壁をトラバースすれば再び道がつながるとわかる・・・
行くことにした。
雪壁に付いたふかふかのパウダースノーにできるだけアイゼン、ピック、左手を利かせて慎重にトラバース(横断)していく。
下はガスって見えないがここで落ちたら壁を転がり落ちると言うより、岩とかにぶつかりながら奈落まで落下して終了って感じだな。
人生が・・・。
運良く止まれたとしても、どこまで落ちるかによるけど復帰は相当困難だろうな。
この悪天候でヘリが来るわけないし。
このパターンだと比較的綺麗かな。
遺体が・・・。
暑くなる前に発見されればの話だけど・・・。
しかしこの斜度でこんなふかふかの雪が付くわけ無いんだからきっと夏道の上には立ってはいるんだろうな。
多分・・・。
稜線からわずか数メートル下とは言え、ここで雪崩れたら耐えられないだろうな。
それが一番確率の高い危険と思われて緊張した。
まったく。
人の言うことを聞かないからこういうことになるんだ。
無事通過して歩ける道へと着く。
振り返り
「あり得ないな」
と、単独で行くとこじゃない。
次があったらどうすると思いながら少し歩くと完全な夏道へと出ることができて、稜線の反対側へ戻ると、登ったときのルートより10分ほどの遠回りになってしまっていたことに気づいた。
しかし無事難所を突破できてようやく一息つけた。
一息つけたが、まだ八本歯のコルが残っていた。
風は大丈夫だろうなとコルに着くと予想とは違って風は大分弱まっており、悪い核心部も上りだったため難なく抜けることができた。
あとは強風でたびたび悪くなる視界に気をつけながら降りる尾根を間違えないように進んでミユの待つテントに着いた。
「ただいま」
というとミユはテントから飛び出して俺に抱きついた。
冬の北岳で死にかける short ver 最時 @ryggdrasil
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます