ジョシュアの魔法陣

Koyura

第1話

「おや、ジョシュアじゃないか!久しぶりだね」

「アル師匠!いえ、ハウパー室長」

ジョシュアは非常に驚いて、ぎこちなく言った。

「こんにちは、ご無沙汰してます」

「3年振りか?何故こんなところに?」

「南門の警備隊に所属しています」

馬車の窓から顔を出したのは、見習い時期に付いていたアベル・ハウパー室長だった。

肩を過ぎる長さの黒い髪が風でふわりとなびく。

切れ長の紫の瞳がきらりと輝いた様に見えた。実際40代後半には見えず、いつも精力的で若々しい様子は変わっていない。


「アル師匠か、懐かしいな。もう君からしか呼ばれないからね」

「他のお弟子さん達は、いらっしゃらないのですか?」

「君が最後だよ。室長になってから忙しくてな」


「そうですか。ご健勝のようで何よりです。検問すぐ済ませますから」

「いや、エコ贔屓はいかん。ちゃんと調べてくれ」

「わかってます。そんなに時間は取らせません」


ジョシュアは目の前で魔法陣を構築すると馬車の上に移動させ、同じくらいの幅にすると、上から下まで通した。


「うん、相変わらず綺麗な円陣だ。君は弟子の中で一番陣を基本に忠実に構築できていたからな」


「ありがとうございます。基本しか習得できませんでしたけれど、こうして職に就くことができました。アル師匠、あー、ハウパー室長の」

「アルでいいよ」

「…アル師匠のお陰です」

ジョシュアは決まる悪そうに応えた。

「ところで横に置いてある木箱に反応があるんですけど何ですか、それ?」

「ああ、ギャスト森林の遺跡にあった古い短剣だよ」


ギャスト森林は五年前に旧文明の遺跡が発見されて、研究者がたまに調査に行く。

片道1ヶ月以上かかる場所で、中は鬱蒼と繁る森林で覆われている。遺跡も木に埋れかかっており、早急な調査が望まれるところだ。

ジョシュアは知らなかったが、調査の責任者がハウパーに代わってから色々成果を上げていた。


ハウパーは木箱をずらして中から乾燥させた草とボロボロの短剣を取り出した。

「この草は短剣を守るためにその辺のを抜いて詰めたんだ」

「成る程、新種の物だから異物と判断したのか。わざわざすみません。通って頂いて結構です」


「そうだ、久しぶりに私の家へ来ないか?ご馳走するよ」

ご馳走。ジョシュアはその言葉に身体をビクッと震わせた。何でもないようにハウパーに微笑む。


「それが、最近治安が悪化してて、他国の間者が入っているとか、違法薬物の密輸とかで門の警備を念入りにやらされて、遅くまで働かされているので」

嘘ではないが、言うほど忙しくは無い。このまま、招待を有耶無耶にして忘れて欲しかった。


「そうか、警備も大変だな。気が向いたら連絡をくれ。ではまたな」


馬車は通り過ぎて行った。すぐ次の馬車が来る。

ジョシュアは首を振って気持ちを切り替えると、再び魔法陣を構築した。

これは対象物を通過させると怪しいものを検知して見せるものだ。

検知すると密かに門兵に伝達され、一斉に数人がかりで検問する。密入国する者が隠れていてもすぐ分かるので、この場で大捕物が始まる時もある。


南門は外国との国境からも近いので、物流も人の往来も多く、特別にジョシュアと後2人の魔法士が配置され、それでも昼休憩もそこそこに忙しく働いていた。



アル師匠、アベル・ハウパーは14歳に入学した魔法学校時代の先生で、16歳で卒業してから見習いとして師事していた。庶民で何の伝手も無いジョシュアは弟子として働き、いずれ頭角を現して先生の紹介で良い仕事を貰おうと目論んでいた。


師匠の元に残る事もできたのだが、マイペースな行動に振り回される事も多く、他の弟子と同様で、表向きは2年で根を上げたとして、今の仕事を探して就いたのだ。


師匠はその後魔法庁の魔法研究室室長に就任したが、相変わらず自由に生きているようだ。


閉門時間を1時間ほど過ぎてようやく終わった検問に、ジョシュアはいい加減疲れてため息をつくと、両肩をぐるぐる回した。片腕ずつ上げ下げしているだけなのだが回数を増すと流石にだるくなってくる。

今日はまだ早い方だ。


沈みつつある太陽からの最後の光に目を細めつつ帰路についていると

「ジョシュア!」

呼ぶ声がした。


ハウパーとの過去を思い出していたジョシュアは、咄嗟に逃げ出したい気持ちになり、聴こえない振りをして、速度を緩めずに歩いて行く。

「ジョシュア!待ってくれ!」バタバタと駆け寄ってくる足音に、漸く歩みを止めた。


振り返ると少し息の上がった男が走って近付いた。

「僕も終わったんだ、一緒に帰ろう」


襟付きの白シャツの上に簡単な皮の胸当をして、腰に下げた古い長剣、スラックスを無理矢理詰め込んだ皮の膝下ブーツ、上衣は手に持って肩に引っ掛けている。同じ南門を守る門兵ミカエルだ。


褐色の肌に少しクセのある銀髪と赤目のミカエルは親子揃って似た容貌の異国の出身だ。背が高く、かっちりと均整の取れた筋肉のついた体格をしている。


親の行商についてこの街へ来た際、父親が亡くなり、母子で定住して、屋台で今や名物となったシチューと2、3種類の惣菜やパンを売って生計を立てていた。


ミカエルは手伝いで門兵の詰所にシチュー(鍋ごと)を配達している時に、逃走しかけた破落戸達を、父から習っていた異国の闘技で次々組み伏せた。

それが警備隊の隊長に気に入られ、見習いとして採用、その後正式に門兵になった。



真っ直ぐな金髪、青い目と日に焼けない白い肌のジョシュアは背がとりわけ低い訳ではないが、長身のミカエルの横だと肩までしかない。


魔術師のショートマントを着けているジョシュアにちょっかいをかけてくる輩はいないが、ミカエルに横に並ばれると女っぽい外見と合わせてコンプレックスが疼く。

あまり並んで歩きたくはない。


ミカエルはそんな事を思われているとは知らず、単純にジョシュアと帰れるのを喜んでいた。

「母さんがシチュー残してないか、寄ってみるよ」

「無理矢理貰わなくてもいいよ」

「気を使わなくていいよ、大丈夫だから」

と微笑まれる。


元々ミカエルは母マリアと一緒に住んでいたが、マリアはヨセフと言う大工と再婚した。二階建てだが個室が二つしかない小さな家だったので、たまたま空いた隣の同じ作りの家を借りて、ミカエルはそこで生活をしていた。


そこにやって来たのがジョシュアだ。前にハウパーに師事していた同輩とアパートメントに住んでいたが、同輩は別の仕事に転職して出て行ってしまった。

1人で生活するには広すぎるし、高い家賃に弟子の手当てでは心許なく、ハウパーに紹介状に書いてもらい、あちこち面接に行った挙句、やっと通ったのが今の職場だ。


それでも、門の警備の手伝いも思ったより安い給料だったので、転居を考えていた時に、同じ南門の門兵のミカエルと知り合い、上の一室を安くで貸してもらうことになった。


年渡りの祭で、ミカエルが酔っ払いに捕まって外見を揶揄われた時に、通りかかったジョシュアが相手を魔法で牽制して連れ出してくれた。


ミカエルは典型的な異国人の風貌なので、慣れない人から一歩引かれることが多いが、ジョシュアは全く気にしていなかった。


意気投合した二人は飲み歩き、終いにミカエルの母マリアの店に行ってシチューを食べて絶賛した。気を良くしたミカエルは、話の流れで部屋の話になり、貸す事を申し出てくれた。


ミカエルは母親譲りの料理を作るのが上手い。その上、度々ミカエルの母が作るシチューやパンを持ってくるので自然と一緒にご飯を食べる様になった。

時に夫妻達の好意にも甘えて、食費も減って助かっている。


ミカエルはジョシュアに次第に友情以上の感情を持って接しだしている。

同居人にしては細々と世話を焼き、何かとジョシュアの行動を気に掛けているが、奥手で本人の前では想いを打ち明けられない。態度はバレバレでマリアにまで気付かれているが、未だ踏み込んでいけない。


ジョシュアはミカエルの気持ちに既に気付いているし、ミカエルの優しさや控えめな態度にも惹かれているが、自分の過去の行いに引け目を感じて、応えることができない。



ジョシュアはハウパーと過去に肉体関係が有った。


少ない手当を魔法書に注ぎ込む弟子の粗食を見かねて何回か食事に招いた際に、ジョシュアはハウパーから遠慮がちに求められて、少し好感を抱いていただけなのに深く考えずに初めての身体を差し出した。

ジョシュアは基本的な魔法は完璧だが、応用になると途端に構築できなくなる平凡な能力だ。

それを補うには論文を書いてハウパーに認めてもらわなければならない。

親しくなれば、少し手心を加えてくれるかも、と打算があった。男同士、やり方は知っていたが少しの間我慢すれば済む。


「大丈夫、優しくするよ、脱いで?」

ハウパーはジョシュアが戸惑いながら服を脱ぎ落としていくのを最後まで眺めた後、自らも裸になった。

月の光が部屋に差し込み、2人の裸体をほんのり照らす。

「ジョシュア、君の身体は美しい」ハウパーが感嘆する。

「師匠こそ」ジョシュアは恥ずかしがった。


風呂場へ手を繋いで連れて行かれ、体を洗われた。ハウパーが出入りする中も念入りに広げられ、解された。

後悔し始めたが、止めてと言えず、ジョシュアの前が扱かれると快感に逃げた。


一回イかされると後は為されるがままだった。

濡れたままベッドに倒されて、初めての口付けは深く口内を荒らされ、流れ込む唾液を溢しながらジョシュアもハウパーに舌を絡ませた。

ハウパーはジョシュアの全身を舐めて可愛がった後、優しく、少しずつジョシュアの中に入ってきた。

最初は異物感しか感じなかったが、ハウパーが動き出すと思わず身体が震えた。

「僕に任せて、身体の力抜いて、そう、いいよ、どの辺りが気持ち良いかわかる?」


分からない、と言おうとして

「あ、そこがい、い」

急に中のハウパーが突いた所に声が漏れた。

「ここ?」

ハウパーはジョシュアに伸し掛かると、腰の動きを早めて何度も責めた。

「やあ、あ、あん、あ、あ、」

急激な快感が訪れて声が勝手に出る。

「気持ち良いんだね」

「アル師匠、そこばっかり、やめ、ああ、駄目」

「アル、だ、言って?」

「そんな、だって、あ、ああっ」

ハウパーは身体を起こすと中を突きながらジョシュアの半立ちのモノを扱いた。

「アル、アル!」

「何だい?」

「あ、アル止めて、んん、ん、イキそう、」

ハウパーはグッと奥へ入り込んだ。


「ああー!」ジョシュアは絶頂して精液をハウパーの手と腹の上に出した。

「どうだい?初めてのSEXは?」ハウパーは動きを止めると、指で精液を掬って広げながら優しく尋ねた。

ジョシュアはそれにも感じ、あえぎながら言った。

「アル師匠とで良かったです。こんなに気持ちいい?えっあっ」


ハウパーが再び動き出したので、焦って止めようと手を伸ばすと絡められてシーツの上に抑えこまれた。

「アル、だ。次は僕も一緒にイかせて」

「アル、待って、待ってまだ、あん、あ、あ」

快感が収まらず涙が自然に出てきた。

広げられた精液がぬるねると2人の間で滑り、淫猥な刺激が堪らなくて、声を上げ続けた。


ハウパーは巧みにジョシュアの身体に快感を植え付けた。

ジョシュアはそのまま惰性で関係を重ね、次第にハウパーへ打算より愛情を感じる様にもなった。



ハウパーは常に来る者は拒まず、去る者は追わずのスタンスの持ち主だった。

奔放なハウパーがジョシュアだけでは無く、他の弟子にも手を出していたのを知り、嫉妬で耐えきれなくなった。


こちらから別れようと決めて、仕事を探したいとハウパーに言うと快く紹介状を書いて渡してくれた。

ジョシュアはそれで完全に別れを告げられたのだと思って何も言わずに去ってしまった。

魔法の研究も、途中のまま止めてしまった。



そして、3年後再会したハウパーはまた、ジョシュアを食事に誘った。

正式な招待状を南門までジョシュア宛に送ってきたので断りにくい。

単に食事だけか、あの時と同じように、その後身体の関係を求められるのか。

ジョシュアは大いに悩んだ。ハウパーと寝た時のことも思い出して体が疼き、そんな自分にも落ち込んだ。


「ミカエル、3年振りに会った師匠の家に夕食の招待を受けたんだが、行ってもいいだろうか?」

ミカエルはジョシュアの様子がおかしい事に気付くが、いつもの様に接した。


「師匠だろ?久しぶりなんだから行けばいいじゃないか。僕の許可は要らないよ?夕飯の用意があるから、何時か教えてくれるだけでいいよ」

「そうか、明後日なんだ、ごめんね、ミカエルのご飯も毎日の楽しみなんだけど」

「そう言ってくれると作ってる甲斐があるよ。積もる話もあるだろうから、遅くなっても気にしないでいいよ」


ミカエルは表情が少し硬くなったジョシュアに気付かず、過去のハウパーとの関係も知らないので会食も心良く送り出した。



緊張しながらジョシュアは三年振りのハウパーの屋敷を訪れた。

会ってみると、以前と同じ豪華な食事を堪能した後、デザートと紅茶を頂きながら、魔法研究室への転職の誘いの話をし始めた。

ギャスト森林の遺跡の前回の試掘から、本格的に調査をしていて、ハウパーが責任者として赴く際、同行して現地調査する助手としてジョシュアを採用したい、時々こちらに戻った時も、手伝いをして欲しいので考えてくれないか、との事だった。



今の警備隊より遥かに良い条件を示され、マイペースなハウパーに振り回されるだろうが、中途に終わった魔法研究が活かせる、とかなり心が傾く。


即答できなかったのは現地で三年という契約と、ハウパーは何も言わないが、ミカエルに悪いと思いながらも、万が一身体を求められると、拒めないのではという懸念が拭えないからだ。


少し考える時間が欲しいと言って帰ったジョシュアは、

直ぐにミカエルに遺跡行きと魔法研究室の就職を相談する。

「ジョシュアは門番なんかより、研究室で働く方がずっといいよ!絶対向いていると思うよ」

是非引き受けろと言われた。


「僕がいなくなったら寂しくないのかい?」

少し意地悪に尋ねると、ミカエルはしばらく少し俯いて口を引き結んだ。

ジョシュアが声をかけようとしたら、頭を起こしてはっきり言った。

「寂しいよ、せっかく友達になって、こうやって一緒に暮らしていたんだから。でも、ジョシュアの人生の充実と幸せが一番だ。もし、この街へ戻って来たら、部屋は空けておくから、また一緒に住もう」


健気に微笑むミカエルを思わず抱きしめた。

「手紙を書くし、遠いけど偶には戻ってくるよ」額をぐりぐり押し付けた。

「楽しみに待ってるよ」

ミカエルは嬉しそうに抱きしめ返し、こっそり唇をジョシュアのつむじにそっと押し当てた。

ジョシュアは気付かない振りをしたが、心の中までしっとりとミカエルの愛を受け止めた。


南門の警備隊の隊長に仕事を辞めて、ハウパーに付いて行く事を告げる。

隊長は少し心配気だった。

「遺跡に近い街で行方不明者が何人か出てるんだ。今時人買いとかは無いだろうが、気をつけた方がいい」


それを聞いたミカエルは、心配の余りジョシュアに裏通りは歩かない事と、暗くなったら絶対に外に出ないでと懇願し、皆の失笑を買っていた。



出発の日の朝、身の回りの荷物をカバンに入れたジョシュアはハウパーからの迎えの馬車に乗った。

ミカエルは夜勤の為不在だったが、その前に別れを済ませていた。

それでもやはり寂しくて、涙をグッと堪えた。


ハウパーの従者と馬車の席に座っていると、一瞬刺激臭がして咳き込んだ。

「大丈夫ですか、よければお飲み物を」

ボトルからコップに液体を注いで従者が差し出した。「はちみつと果汁が入ってます」


せっかくなので礼を言うと半ばまで飲んだ。喉が潤い、咳が治まってホッと一息付いた。

「ちょっと甘いけど、美味しいです」


意識があったのはそこまでだった。




漸く気付いた時は知らない部屋で両手に魔封じの枷を嵌められベッドの枠に片足を鎖で括り付けられていた。


ジョシュアは訳が分からず、助けを求めて叫んだが、答える者はいない。

部屋には窓がないのでランプの灯りだけで今が何時ごろなのか分からない。


一度だけ戸が開いたので急いで近くまで行ったが鎖で引っ張られて転んだ。ドアの閉まる音がしてぎりぎり届くところに、コップと食事の乗ったトレイと水差しが置いてあった。


殺す気は無さそうだと少し安心して、お腹は空いて無かったが食事をした。水は前例があるので避けたかったが、喉が渇いて仕方ないのでやむを得ず少しだけ飲んでしまった。


食べ終わるとトレイを出入り口付近に置き、傍に座り込んで見張ることにした。また誰か来たら、どういう状況か尋ねようと思ったのだ。


ところが、30分位すると意識がぼんやりしてきた。眠い、とは違うし、気を失う、でも無い。

ただ、体を動かすとふらつくので、立ち上がるのが億劫になってしまった。

ベッドに戻って横になりたいのだが、身体にあまり力が入らない。



「そろそろかな、待たせてしまったね、ジョシュア」

急に耳元で声がした。フッと意識が上がる。

「アル師匠?」視界が定まらない目で見上げると、いつの間にかハウパーが横にいて身を屈めている。


「ここは、何処?」口も回りにくい。

「私の家だ。ここはジョシュア専用の部屋だ」

「部屋?いつ遺跡へ?」

「遺跡には行かない。此処に居るんだ」

「え?何故?」

話が違う、と思ったがそれ以上は考えられない。


「遺跡には別の研究員が既に居る。ジョシュアは此処で私の手助けをするんだ。いいね?」

「ここで、助手?」

「そうだ、部屋から出ては駄目だぞ」

「はあ、出ては駄目」

「うん、良い子だ、ジョシュア。ベッドに戻ろう」


ハウパーに手を添えられると、普通にスッと立ち上がれた。そのままベッドへ戻る。

「ジョシュア、この三年間探したぞ?まさか、あんな仕事の為に私の元を離れたとはな」

ハウパーは言いながらジョシュアの服を脱がしていく。

「服、脱がない」

ジョシュアは脱ぎたく無いのだが、ちゃんと言えないし、逆らえない。

「ジョシュアの身体が見たい。三年ぶりにお前を堪能したいんだ。お前も私と寝たいだろう?」

「寝たい?」

「そうだ、でも久しぶりだからな。また慣らすところから始めないといけないな」

「でも、僕は」

「恋人はいなかったんだろう?優しくしてやるからな」

「はあ、それは…」嫌だ、と思いながらも意識が遠のいた。


次に目を覚ますと、裸になって足を広げられて既に上からハウパーに貫かれていた。

「目が覚めたか?まるで処女のようだったぞ?広げるのに苦労した。さ、また愛してやるからな」

ジョシュアは訳が分からないまま、そのまま身体を揺さぶられた。

『どうして、僕は、ハウパーに抱かれてるんだ?』


騙されたんだ!!意識が元に戻った。

「あ、嫌!止めて、アル師匠!」

ジョシュアは逃げようとしたが力が入らない。

「どうした?この体勢は嫌か?」

「師匠は僕を助手として雇ったんじゃないんですか?何の為に、こんな枷までして」


ハウパーは動きを止めた。

「ふーん、最初は効きにくいのか」


「何を飲ませたんですか?僕はこんな事望んでません」「ああ、少ししか飲まなかったのか、さあ、もっと飲んで」


少し離れたところに、召使らしき人が待機していて、先程の水差しからコップに水を注いで持って来た。


ジョシュアは恐怖で抵抗したつもりだったが、やはり身体が思うように動かず、二人がかりで押さえつけられて飲まされた。


直ぐにぼんやりしてきて、逆らえなくなった。

ハウパーは召使を下げると、再びジョシュアを犯し始めた。

そして、本当の話をした。


遺跡研究のための魔法研究室への紹介は最初からジョシュアをハウパー邸に監禁する為の架空話だった。

他の弟子達も、ジョシュアと一緒に住んでいた同輩も同様の話で騙されて此処に監禁された後、薬の副作用で使い物にならなくなったら、別の場所で働かされていたのだ。


ハウパーは弟子時代からジョシュアとの付き合いを止めるつもりは無く、単に別のところで働きたくなっただけと思って請われるまま紹介状を書いて渡した。

就職先も転居先も教えずに去ったジョシュアにハウパーはショックを受け、ジョシュアを愛していたことを自覚したと言う。


それは三年の間に歪んだ愛となって、ジョシュアは最後の愛弟子としてハウパーの屋敷の地下に囚われることになった。


前回の遺跡近くで発見したとされる薬草は、抽出して服用すると意識の混濁とそれに伴い抵抗を奪い、他人の言いなりになる作用があった。


定期的に投与されるジョシュアは服用中は自らハウパーに求められて身体の相手をし、作用が少し抜ける時間は殆ど休む間もなく、ハウパーが発表する論文の下地を書かされる。


夜ベッドでハウパーのねっとりした愛撫に、淫らに反応を返して身体をくねらすジョシュアにうっとりと言葉を返す。

「君は素晴らしい!全てを僕に捧げてくれる。僕も全力で君を愛するよ。他の弟子など、問題にもならん役立たずだ」

後ろからジョシュアの中を激しく突きながらの言葉に、与えられた快感で頷くことしかできず、「ジョシュア、愛してるよ、ジョシュアだけだ」と言い続けるハウパーに促されるまま

「アル、僕も愛してます、ああ、もっと、」

と喘ぎながら言い、腰を合わせて動かす。

ジョシュアの中は忘れていたハウパーのモノをすぐに覚えてすっかり慣らされ、ハウパーを更に喜ばせ執着させた。


漸く体を離される夜半過ぎから、朝日が昇るまでの間、僅かに戻る意識に我に返る。

「ミカエル、許して、御免なさい、助けて、ミカエル助けて」罪悪感で泣きながらミカエルに謝り、疲れて寝落ちする。


薬を入れられる朝食後、二人で風呂に入りハウパーの身体を洗う。時間があればそこでも抱かれた。

日中はハウパーの仕事を手伝い、夜はハウパーの身体の相手。


ジョシュアは自分が前からハウパーのことが好きだったから、薬は必要無いと必死でアピールして量を減らしてもらえた。

そうすると生き残る為には仕方ないと思いつつ、自分の意思でハウパーに従い、抱かれなければならない。


心の唯一の支えになっているミカエルの事を想い、必死に自我を保とうとするが、依存性も有る薬の服用を完全には止められず、次第に身も心も衰弱していく。


契約にあった3年間の期限は、服用できる限界の月日で、それ以降は完全に精神が壊れるか、身体がそこまで持たないからだ。


二年経ったジョシュアの精神はすでに限界で、実際の助手としては働けなくなった。

薬を服用してなくても朧げながら記憶に残るのは、ハウパーの相手をする夜だけになってしまった。

「もう駄目か、早かったな。ジョシュアの代わりは中々居ないのに」

抱かれても反応できなくなり、人形のようにぐったりしているだけのジョシュアは、次第にハウパーの性欲を満たすことができずに、昼夜放置されることが多くなった。



放置されるようになって、ジョシュアは意識がある時は、魔法陣を構築する試みをしだした。魔法封じの枷は弟子を監禁し始めた当初からずっと使用されていたので封じる力が多少弱くなってきていた。

それに気付いたジョシュアは、ひたすら魔封じの無力化と魔法陣の構築を繰り返した。そのため、弱った脳に負担がかかり、度々意識を失い、混濁が益々進んだが、万が一の可能性にかけて、根気よく続けた。



「もうすぐ二年か」

ミカエルはジョシュアが旅立ったとされた前日を思い出していた。

夕日の沈む家の前で、ジョシュアは仕事に行くミカエルを見送る為に出てきた。自分を見上げた不安と期待でキラキラと輝くジョシュアの青い目と赤い光で照らされた金色の髪を片時も忘れた事はない。


毎晩ジョシュアが元気で過ごせる事を祈る。


手紙を書くと言っていたが、結局1通も来なかった。こちらから送っていたのは帰ってこないので、忙しいのだろうと諦めていた。

それでも、夏休みや年越し休みにも帰ってこないジョシュアに、不安になって来た。


ついに我慢できなくなって、「ちょっとだけ」とジョシュアの様子を知るべく行動し始めたが、それはミカエルの不安を助長するだけだった。


まず、職場に尋ねてみると、気紛れなハウパーの助手は出入りが激しく、研究室も諦めており、今の助手がジョシュアなのも把握していなかった。


ただ、以前短期間弟子をしていたと言う職員から、ジョシュアとハウパーが弟子時代、過度に親しく付き合っていたと教えられる。

単にジョシュアとは師弟関係だとずっと思っていたから

胸が痛んだ。

久しぶりの会食に気が進まなさそうだったのは、そう言う関係だったからかもしれない。


一年半の間に、なんの便りも無く、ハウパーは変わらず時々帰ってくるものの、助手のはずのジョシュアを連れずに魔法室に出勤している。

ミカエルはハウパーの行動に疑問を感じた。

どうしてもっと早く問い合わせなかったのか。ジョシュアの事を信じ過ぎていた。


全く連絡が無いジョシュアに、ハウパーと再び恋人同士になって、敢えて帰らなくなったのかと邪推した。


結局、色々心配の余り、夜も満足に寝られなくなった。

そんなミカエルに、察した警備隊隊長は長らく取っていなかった休みを使い、ジョシュアに会いに行くように命令する。


「母さん、僕はジョシュアに会いに行ってもいいのだろうか?職場に押しかける迷惑なヤツだと思われはしないだろうか?」

母は笑って言った。

「ジョシュアが、あなたにそんなこと言う訳無いでしょ?早く行ってあげなさい」

シチューを持たせられないのが残念だと呟く母にも背を押され、ギャスト森林の遺跡に向かう決意をした。



乗合馬車を何度も乗り継ぎ、最後は徒歩で、1ヶ月近くかけて漸く遺跡近くの街にある現地研究室に辿り着いた。

「ジョシュアに会いに来たのですがどこにいますか?」

一刻も早く会いたくて前のめり気味に尋ねたミカエルに、研究室職員はみな一様に首を振った。


ジョシュアを誰も知らず、姿すら見かけてない、と。


ミカエルは驚いて何度も尋ねたが、無理言って見せてもらった職員名簿にも載っていなかった。

混乱するミカエルに、ある職員は言った。

「ハウパー室長は気紛れだから、助手に取ると言って結局来なかったり、すぐ辞めてしまったりする人が多いんだ。君の友人も、弟子だからと甘えたものの、結局採用されなかったのでは?」

「来なかったり、すぐ辞めてしまった人は、その後どうしたんですか?」

「知らないよ、名簿にも載らない内に、いなくなるからね」

それでも、と食い下がると、すぐ辞めてしまったが名前と住所が載っている人が何人かいて、教えてもらえた。


念の為に、遺跡から近い町の宿を調べてジョシュアが来ていない事を確認して、他の弟子達の行方を調べる為、急いで引き返した。


帰りながらそれぞれの家に寄ったが、誰も帰っていなかった。中には玄関も開けっ放しで慌ただしく出て行っただろう者もいた。

詳しく調べると、かつての弟子達も行方不明や死んでいる者がやたら多い。


益々不安を感じたミカエルは、帰宅するとすぐに隊長に相談した。

「気紛れなハウパーの弟子だから仕様が無いと言われれば、それまでだし、証拠も何も無い」と一蹴された。

「もしかして、既に死んでしまったのかも知れない」


ジョシュアには身寄りの者がいない。死んだ場合でも単なる友人のミカエルに連絡が有ろう筈もない。

最悪の予感に打ちのめされた。そんな可能性まで全く考えていなかった。



ミカエルは居ても立っても居られず、最終的にハウパーの屋敷を訪ねた。

ハウパーも、ジョシュアも出て来なかった。

召使のみ出て来て、ジョシュアなる弟子は知らないし、今は弟子も取っていない。嫌そうに言われたが更に食い下がると警備兵を呼ばれ、外の門まで締め出された。


「ジョシュア!何処へ行ってしまったんだ?生きてるのか?」門の外から叫んだ。


万策は尽きた。ジョシュアは行方不明のままだ。

諦めきれず、門の柵に沿って中を伺いながら歩き出した。



「ミカエル…」


唐突にジョシュアは目を覚ました。

ミカエルの存在を感じたのだ。少しずつ無効化させていた魔封じをついに壊せたのだ。


「お願いだ、気付いて…」

祈りと共に最後の力を振り絞ると、魔法陣を作り、打ち上げた。


諦めきれず、屋敷を柵越しに虚しく見ていたミカエルは、金色の小さな円陣が屋敷の隅から出てきて上に上がっていくのを見た。

忘れもしない、南門で何十回も見たジョシュアの美しい魔法陣だ。


「ジョシュア!」


ミカエルは閉められた門扉を剣でこじ開けると、玄関も同じようにして入り込んだ。

召使達が剣を構えて向かってくるのを見て叫び声を上げて逃げる中、先ほど見た場所を目指してひたすら走った。


やっと辿り着いたものの、角の両方にには部屋が無かった。

ただ、不自然に太い柱があった。

ミカエルは真ん中に剣を突き刺した。

柱の表面は薄い木でできており、向こうまで容易く貫通した。

見えにくいが隠し戸だった。

それを壊すと下へ続く階段が有り、ミカエルは躊躇無く降りて行った。

突き当たりに普通の扉があって、鍵が掛かっていたが、それも無理矢理力任せに壊して中に踏み込んだ。


突き当たりの左にやたら大きなベッドが有り、何かが動いた。


「ジョシュア!!」


ミカエルは叫んで急いで近付いた。そして息を呑んだ。


虚な目をして、痩せ衰えたジョシュアが横たわっていた。


「ジョシュア、どうしてこんな、僕だ、ミカエルだ!助けに来たんだ!」

ミカエルが抱き起こすと、ジョシュアは瞬きしたが、何も見えていないようだった。

「ミカエル?夢?声がする」

「夢じゃない!僕だ!本物のミカエルだ!ジョシュア、しっかりして!」

「ああ、ミカエル、最後に、会えて、良かった」ジョシュアは目を閉じた。

「ジョシュア!」

死んでしまったかと思ったが、確かめると意識を失っただけで弱いながらも息をしていた。

ミカエルは痩せ細ったジョシュアの手を硬く握りしめた。


召使の通報で駆けつけた警備兵二人だったが、異様な殺気を放つ異国の男と、抱かれた男の凄惨な様子に手を出せず、後退していく。



ドタドタと騒々しい音が近付いてきて、集団で動く音がした。

ミカエルは覚悟を決めてジョシュアを丁寧に下に置くとボロボロになった剣を構えた。


「待てって言っただろ!我慢のできん奴め!」

ドーン、と警備兵が前につんのめって倒れてきた。


南門の警備隊隊長と同僚達が集団で押しかけたのだ。その後ろには街中の警備隊員もいた。


「突っ走りやがって!お前は兎も角、ジョシュアが怪我でもしたらどうすんだ!」

隊長は顔を真っ赤にして怒っていた。


「本当に来てくれたんですね!」

ミカエルは驚いて剣を落としていた。

拾う前にジョシュアを見てはっとした。

「医者を!ジョシュアが死にそうなんです!」

「早く言え!連れてくぞ!お前らどけ!」


ワーワー言いながら南門兵はジョシュアを抱いたミカエルと共に屋敷を後にする。

街中の警備兵はそのままジョシュアが囚われていた部屋に入り、ジョシュアを苦しめた薬草が隅に山積みになっているのを発見した。


ハウパーは発見した薬草を密かに遺跡近くで栽培、屋敷で精製し、売り捌いていた。行方不明になっていた弟子達の一部は薬草で洗脳され、自ら進んでそこで働かされて弱って死んでいた。

全ての罪が明らかになり、死刑の執行を待つ檻の中からハウパーは逃亡し、今も行方不明だ。



ジョシュアは直ぐに病院に担ぎ込まれ、薬に詳しい医者に診てもらった。

薬の飲用は既にしていなかったが、副作用で心身共に極度に衰弱していた。

ミカエルは病院に泊まり込んで必死に看病した。


1週間後、漸く目を開けたがジョシュアはミカエルを不思議そうに見上げるだけだった。

「ジョシュア!やっと気がついた!もう大丈夫だ、よ…?」

「君は誰?僕はどうしてここに?」

「僕だよ!ミカエルだよ!ジョシュア、君はハウパーに捕まって薬を使って監禁されてたんだ!」

「わからない。ミカエル?僕は、ジョシュアと言うのか」

「そんな、ジョシュア、助けた時僕の名前を呼んでくれたじゃないか!どうして今になって…」

ミカエルはショックを受けて涙ぐんだ。せっかく助け出されたのに、またどうしてジョシュアがこんな目に遭うんだ。


ジョシュアは薬の作用に逆らって無理に魔法を使った為、自身の記憶を失ってしまい、ミカエルさえわからなくなっていた。


身体の状態が少し回復したジョシュアは1ヶ月後に退院したが、記憶は戻らないままだった。魔法も使えず、使い方も忘れていた。

ミカエルは本調子には程遠いジョシュアを引取り、家に連れて戻った。


ジョシュアは2階の部屋への階段を登ることもできず、ミカエルが抱いて上がり、静かに寝かせた。

疲れたのか直ぐに寝息を立てるジョシュアを、しばらくじっと見ていた。

不甲斐ない自分に自然と涙が溢れてきた。


どうしてハウパーにジョシュアを渡してしまったんだろう。

よく考えれば、三年も音信不通だった者が大した職についてるわけでも無く、実績も無いのに大役を任せられるのはおかしい。

ジョシュアが、ミカエルにハウパーとの関わりを話してくれていれば、決して薦めなかった。


いや、話せなかったのだろう。

しても仕方ない後悔が後から後から湧いてくる。


「ミカエル」

寝ているはずのジョシュアが名前を呼んだ。

近付くと、意識はないようだが、何か言っている。

「ごめんね、ミカエル。ミカエルに会いたい、助けてミカエル」


言葉がわかったミカエルは更に泣きながらジョシュアに抱きついて額にキスした。

「ジョシュア、必ず助ける!謝らなくて良いんだ!必ず助けるから!」


次の日、ジョシュアは目を覚ましたが、相変わらず何も思い出せないようだった。

まだ歩けず、食事も薄いスープに千切った柔らかなパンを少し入れただけなのに食べきれなかった。

食事やトイレに行くだけで疲れて寝てしまう。


根を詰めて看病するミカエルに、マリアは毅然とした態度で仕事に行くように言った。

「いつまでも、休んでちゃダメ!ジョシュアはまだまだ元気になるのに時間がかかるんだから、そんなペースじゃミカエルが倒れちゃう!私も頼ってちょうだい!」


ミカエルは驚いて母を見た。

「母さんに迷惑かけられないよ」

「何言ってるの!ミカエルは職場に迷惑かけてるんだから!ジョシュアはもう私の息子なんだから、迷惑とか思わない!看病するのは当たり前よ、わかった?」


キッとミカエルを鋭い目つきで眺めた後、マリアはにっこり笑った。

「みんなでジョシュアを助けるのよ!」

ミカエルは嬉しくて胸が一杯になり、何も言えずに頷いた。


ミカエルはマリアやヨセフの助けも借りジョシュアを献身的に看病する。


更に2ヶ月が経ち、ジョシュアは奇跡的な回復を見せ、漸く普通に動けるようになった。

なんと、回復してマリアのシチューを食べられたのがキッカケで、自分や周囲の事を思い出していったのだ。


また、南門の仕事をしたいと言うと隊長にはいつからでも戻って来いと快く受け入れてくれた。

猛反対したのがミカエルだ。

「まだ、本調子じゃない!魔法も安定してない!」

「ミカエルは過保護だなあ」

ジョシュアは呆れて言った。


「駄目なんだよ」ミカエルは静かに言った。

「夜中にうなされてる」

ジョシュアは目を見開いた。

「なんて?」


「とにかく、もう少し元気になってからだ」


毎晩、ミカエルは夜中にジョシュアの呻き声で目を覚ます。


「アル、やめて、許して、もう、嫌だ」

「愛してます、アル、愛してます、だからお願い、薬もう止めて」


何をされている夢なのかわかってしまう。ハウパーに殺意を覚えるほどの憎しみが湧く。

ミカエルは荒ぶる心を沈め、ジョシュアを抱いて安心させる様に言う。


「ジョシュア、もうハウパーは居ない。僕だけが、ミカエルがここにいて君を抱いてるんだよ、ほら、ミカエルって言って?」


汗をびっしょりとかいたジョシュアは目を覚まして

「ああ、ミカエルか、良かった」

と言って再び眠るのだ。

ミカエルはジョシュアの汗を拭いて、時にはすがってくるジョシュアを朝になるまで抱いていた。

どうすればいいかわからない。時間が経てば悪夢を見なくなるのだろうか?自分にできることは多く無い。


ジョシュアは何もかも記憶が戻ってきたが、監禁されていた最中や、弟子入り時代の自分の行動も思い出してしまった。

やっと外に出られるようになったのに、また部屋に篭ってしまった。


「僕はずるくて汚い奴なんだ。昔ハウパーに打算で積極的に抱かれた。それどころかハウパーと相思相愛だと思おうとした。純粋なミカエルといる資格は僕にはない」


「資格なんていらない」

ミカエルは静かに言った。

「僕は君とハウパーの仲を疑ったこともあった。なのにジョシュアはずっと心の中で僕を想っていてくれた。ジョシュアの方が純粋なんだよ。過去にどんな目に遭ったとしても、ジョシュアは僕の知っているジョシュアだ」


ジョシュアは更に告白する。

「薬で逆らえない時もだけど、そうじゃ無い時も、生きるためだって誤魔化して、ハウパーの言う通り、仕事をして、身体をあけ渡して、もう、死にたい」


「そんな事言わないで。僕の為に生き延びてくれてありがとう。本当に嬉しい。ジョシュアにまた会えた」


「こんな僕で、嬉しいの?」

焦燥しているジョシュアの両手を合わせて包む。


「全ての過去を知っても、やっぱりジョシュアを好きだ。ずっとそばにいて欲しい」


ジョシュアは震え出した。

「僕は、あなたに抱いてもらえるの?」


ミカエルは心を込めて言った。

「あなたが許してくれるなら抱きたい。ジョシュア、愛してる。本当は初めて会った時から好きだったんだ」

「知ってたよ、ミカエル」ジョシュアは両手を差し出した。「僕も大好きだ」

二人はしっかりと抱き合った。


「別に今すぐって事じゃ無い。もっとジョシュアが落ち着いてからでいい。僕はジョシュアに関しては気が長いんだ」

「扉を剣でこじ開けてまで探しに来たくせに」

「それは別だ。ジョシュアの意思じゃなかった。剣がボロボロに刃こぼれして研ぎに出したら怒られたよ、何切ったんだって」


二人は顔を見合わせてふふっと笑った。

そのまま唇を重ねた。

「大丈夫?」ミカエルが心配そうに尋ねた。

「大丈夫、今僕はミカエルとキスしてる。そしてまたキスする」

ジョシュアは言った通りミカエルにキスした。

その後二人は何回もキスした。




漸くミカエルの許可が出て、再び南門の警備につく事になった。

その頃には二人は同じベッドで寝ていて、ジョシュアがうなされることは減り、ミカエルもジョシュアがすぐ横に居るので安心して眠れるようになった。


但しsexはまだしていない。ジョシュアはもう大丈夫だと言ってるがミカエルが承知しないからだ。

大事にしてくれてるのは嬉しいが少し不安もある。

やはりミカエルはジョシュアの身体に嫌悪感があるのかもと思ってしまうのだ。


そんなことは無いと否定するだろうがこちらは薄暗い過去持ちだ。どうしても考えてしまう。


ミカエルは自分の行為でジョシュアが過去を思い出してパニックになったり、拒絶されたらと思うと、安易な気持ちで誘えない。初体験なので余計自信が無い。


ミカエルは思いあぐねて、ついにマリアの夫ヨセフに相談した。

「キッカケだよ」ヨセフは真面目に聞いてくれた。

「何かキッカケさえあれば、乗り越えられる。僕もそうだった」

ヨセフは赤くなって照れていた。

いつも静かで滅多に感情を現す事のない義父がそんな反応をするとは意外だった。

「聞きたい?」

「勿論!母さんとのことでしょう?参考にしたい」

「駄目だよ!キッカケは自分で考えてみて?」

今となっては恥ずかしいから、とヨセフは赤い顔のまま言った。



それから一ヶ月後、ミカエルとジョシュアは同じ時間に仕事を終える日があった。

隊長に挨拶をして帰ろうとするとミカエルが呼び止めた。


「ジョシュア」

前を歩き出そうとしていたジョシュアは振り返ると深刻そうな顔をしたミカエルと目が合った。

「お願いがある」

ジョシュアはミカエルの唯ならぬ様子に少しドキッとしたが、なるべく気軽に言った。

「何?何処か寄りたいの?」

「いや、違う」ミカエルは下げている両腕の拳をグッと握った。


「どうしたの?なんか変だよ」

ジョシュアの非難めいた口調に、慌てて言った。

「すまない、そうじゃないんだ」

「じゃ、何?はっきり言って?」

「うん、実は」

ミカエルの顔が赤くなった。


「僕に魔法陣を通して欲しいんだ」

「え⁈」

ジョシュアは唐突なお願いとミカエルの赤い顔に驚いた。

「その、前からジョシュアの魔法陣が綺麗だと思ってて、近くで見たらもっとよく見えるのになっていつも思ってたんだ。だから、できたらやってくれないか?」

一気に捲し立てるミカエルに、益々謎が深まった。


「単に検査用の魔法陣をミカエルに?」

「うん、いつものがいい。是非頼む」

「仕事以外で使って良いのかなあ」


「うん、いいぞ、ここでなら許可する」

隊長が離れた所から言った。

「わ、何聞いてるんですか隊長!!」ミカエルが怒って返した。

「まあまあ、ジョシュア、ミカエルの頼みきいてやれ!」

「何なんですか隊長まで。まあ良いですけど」


ジョシュアは軽くため息をついて魔法陣を構築した。

「行くよう」

いつものように円陣を上げてからミカエルの真上から下ろす。


ミカエルの頭を通るとの銀色の髪が艶やかに光り、ジョシュアはそっちの方がもっと綺麗だと思った。

次に胸を通り過ぎた時違和感があった。


「あれ、反応がある」ジョシュアは言ってからしまった、と思った。

円陣はそのまま地面まで到達すると消えた。

「反応あったんだ?」

ミカエルは微笑んだ。

まさかミカエルが探知に引っかかる物を持っているとは思ってなかったので動揺した。


「その、胸の辺りに。違法な物じゃないよね?」

ジョシュアは躊躇いなたら尋ねた。


ミカエルはジョシュアに近付くと胸のポケットに手を突っ込んだ。

「これ、違法かな?」


取り出した物を見てジョシュアは息を呑んだ。


指輪だった。

「君にと思って作ってもらったんだ。初めての物だから引っかかったのかな?」


ジョシュアの瞳から涙が零れ落ちた。

「そうだよ、何だよ、それ」

ミカエルはジョシュアの手を取って指輪を構えた。

「はめてくれる?結婚指輪だけど」


「良いのか、僕で」

「勿論だ。君以外に誰にあげるんだ」


「ありがとう。喜んで受け取るよ」

ミカエルはジョシュアの指に指輪をはめた。


「こんな事に僕の魔法を使うなよ、バカだなあ」

「いや、やってもらった甲斐があったよ。それに綺麗だった。思った通りだ」


二人は固く抱き合った。


「キスしないのか」

「そこは愛してると言えよ」

「まあ、あのミカエルだし」

「やっとかよ、遅すぎる」

南門の前だったのを忘れていた。門兵達が集まって次々に囃し立てた。


2人は真っ赤になって怒鳴った。

「余計なお世話だ!」


声援を受けながら2人は早足で帰途に着いた。


家の中に入った途端、2人は向かい合ってキスして相手の口の中を貪りあった。

「僕、準備するから、シャワー…」

キスの合間にジョシュアが切れ切れに言うと

「僕も入るよ、狭いけど」ミカエルはほんのり顔を赤くしたまま服を脱ぎ出した。

「え、でも、見られるの、ちょっと恥ずかしい」

ミカエルは気にせず脱いでいく。


「僕も恥ずかしいよ、こんなの見せるの」

裸になったミカエルは自身を取り出すと見せた。

立派に育ったモノを見せつけられてジョシュアは思わず唾を飲み込んだ。

「ちょっ、もう?大きいね、ミカエルの…」

ミカエルはジョシュアが服を脱ぐのを手伝い、風呂場へ連れ込んだ。


シャワーを浴びながら、ミカエルはジョシュアのモノに自身のを擦り付けた。

「駄目だ、保たない。一回イって良い?」ジョシュアの腹はミカエルの先走りで滑りを帯びていた。

「いいよ。でも、次は僕の中でね」

2人で合わせると擦りあった。

「ん、イく」とミカエルがジョシュアの身体を引き寄せた。ジョシュアもイって白濁が2人の間に流れ、シャワーの水で落ちていく。


「準備ってどうするの?」ミカエルは荒く息を継がながら、ジョシュアの小さな尻を掴むと、穴に右手の人差し指をほんの少し入れた。

「あ」キュッと入口が締まった。

「え、こんな狭い所に僕のが入るの?」

「だから、準備するんだ、よ」ジョシュアは震えながらミカエルにしがみついた。

「もっと入れて?」


準備だけで興奮して2人はもう一回イってしまった。

のぼせそうになって、やっと風呂場から出てきた。タオルでお互いを拭き合うと、また深いキスをした。

ミカエルはジョシュアを抱えてベッドに運んだ。


ミカエルがジョシュアの足の間に膝をつくとオイルを自身とジョシュアの穴に丁寧に塗った。

「大丈夫?」ミカエルはジョシュアの身体に覆い被さった。


「来て」

ジョシュアは両手を伸ばすとミカエルの背中を後ろから自分の方に押した。


「ジョシュア、愛してる」

グッとミカエルが押し込むとジョシュアの全身に歓喜が広がった。

「ミカエル、ああ、君を感じるよ、ミカエル、愛してる」

「ジョシュアの中、熱い。凄く、気持ちいい」

ミカエルとジョシュアはしばらくじっとしていた。


「もう、動いていいよ?ミカエル」

ジョシュアが軽く腰を動かすと、ミカエルが小さく唸った。

「またイきそうなんだ、けど」

「イっていいよ?」

「嫌だ、もっとジョシュアの中に居たい。離れたくない」

「気の済むまで僕の中に居てもいいよ」

ミカエルがグッと突き上げた。

「あん、そんな奥まで入って…」

「ジョシュアの気が済むまで居るよ」

そのまま何回も奥を突いた。

「え、違う、ミカエル、ああ、もう、僕がイきそ」

ミカエルはしっかりジョシュアを抱き込んだ。


ジョシュアは気軽に言ったが、後悔した。

その後、ミカエルは一度も抜かずに、朝方になって寝落ちするまで中に居続けて、ジョシュアを散々翻弄したのだった。



朝、ジョシュアは全く起きれず、仕方無くミカエルは1人で朝の用意をした。

「信じられない、初めてだからってそこまでする?」

ジョシュアはぶつぶつ文句を言った。

「だって、ジョシュアが可愛すぎるから」

「馬鹿!」


ミカエルは眠気を覚ます為に冷たい水で顔を洗った。

「あー、立ったまま寝れるかも。腰痛いし」

「もう、ほら、そこに立って!」

ジョシュアは不機嫌なまま、ベッドの前を指差した。

「どうして?」

「準備手伝ってあげるから」

ミカエルは戸惑いながらジョシュアの前に立った。


ジョシュアは徐ろに魔法陣を構築した。

「へ?」「じっとしてて!」

すうっと円陣がミカエルの上に上がり、そのまま通過して膝辺りで消えた。

「どう?ましになった?」

「あれ?」

ミカエルは眠気と疲労感が消えたので驚いた。


「体力回復の魔法陣。下手だから、あまり使いたくは無かったんだけど、ミカエルが揶揄われるのは癪だから」


ミカエルは悪い笑顔になった。

「これ、凄いよ、疲れてもまた直ぐに」


「自分自身には使えないから!!」ジョシュアはシーツを頭まで被った。

ミカエルはその上からジョシュアの頭にキスした。


「ありがとう、ジョシュア。愛してる。行ってきます」

「行ってらっしゃい…僕も愛してる…」シーツの中からぼそっと言った。



二人の新しい一日が始まった。




《完》










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジョシュアの魔法陣 Koyura @koyura-mukana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ