勇者は魔王が倒せない
吉良千尋
プロローグ
「おお、■■■! そなたが来るのをずっと待っておったぞ。勇者■■■よ、1000年前の伝説を知っているか?」
真っ暗な闇の中、聞き覚えのあるようなないような声がした。
どうやら声の主は勇者■■■に話しかけているようだ。
「1000年前の勇者は魔王を討ちこの世界に平和をもたらした。勇者は死の間際、いつか来る災厄に備えその力の全てを一つの剣に封じたんじゃ!」
少し興奮気味な声に、勇者はこれが自国の王である事を思い出した。
(ああ、走馬灯ってやつか。走馬灯なんて随分
「それが勇者の剣なんじゃ。その剣は我が国が管理している洞窟の最奥にあるんじゃが……情けない話、我が国の兵にその剣を抜く事は出来なかったんじゃ。だが勇者よ、お主なら……いや、お主にしか抜けぬ! 勇者の剣を抜き魔王を討ってはくれないか?」
(そうだ、こんな事もあったな。勇者の剣ねぇ、思ったより役には立たなかったな)
そして走馬灯はここで終わり、現実へと引き戻された。
「くそ、またここで死ぬのかよ。序盤で
魔王城最奥部にて勇者である彼は吐き捨てるように呟いた。
ここには勇者と魔王の二人だけだ。
仲間はいない。戦士も僧侶も魔法使いもみんな死んでしまった。
残ったのは勇者独りだ。仲間の犠牲を無駄にしない為にも、何としてでも魔王を討伐しなければならない。
と、思うのが普通だろう。
ここにいる勇者はそんな事は微塵も思っていない。
ただただ己のために魔王を倒したいのだ。
そんな彼の視界を覆い尽くす大規模な竜巻。
触れたもの全てを斬り裂く風の刃は最早竜巻と言っていいのかも分からない。
とにかく、その竜巻によって勇者は身体より先に心を殺されていた。
彼自身数えているのかどうか定かではないが、今回で丁度15000回だ。永劫とも取れる時間を彼はほとんど同じ場所で過ごしていた。
もっと言えば同じ場所、同じ出来事、同じ結果だ。
僅かな違いはあれど、試行回数からして同じという括りに入れても間違いではないだろう。
この数字が何を意味するか。
それは彼が魔王に殺された回数だ。良く言えば諦めずに挑戦した回数でもある。
勇者とは魔王を討ち滅ぼす者。
それは勇者になった人の生き方とかではなく、存在理由であり存在証明だ。勇者とはそういう生き物なのだ。
14999戦14999敗0勝。惨敗と言うよりは無謀だ。これだけの回数をこなせば奇跡とやらも何度も経験しているはず。
それでも倒せないとなると、もうそういうものと諦めても誰も文句は言えないだろう。
しかしながらそれでも、彼はまだ魔王を倒せると信じて疑わなかった。
そして遂に記念すべき15000回目の敗北がもうすぐ決定されようとしていた。
「……いいさ、また
それは一瞬の出来事だ。
勇者だった肉片は竜巻により天高く舞い上がり、血飛沫を散らしながらボトリと鈍い音を立てて落下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます