第4話 声の小さな鈴本さん
その頃、もうひとつ、私の頭を悩ませていたことがある。
それは、クラス内でのいじめ問題だった。
少し気の強い、俗にヤンキーと言われる2人の女子が、根暗な感じの一人の子を無視したり、聞こえるように嫌味を言ったりするという物だった。
*
同じクラスに鈴本さんと言う女の子がいる。
小柄で真面目。小声で何を話しているのか聞き取りにくいところから、暗い印象があった。
そのせいか、少し気の強い子のグループから、気持ち悪いとひどく毛嫌いされていた。
私からすると、鈴本さんは知り合って日が浅いクラスメイトだった。
親友ではないし、友達というには微妙な感じだ。
挨拶をすれば返事をし、グループ作業があれば一緒にするだけで、好きでも嫌いでもない『クラスメイト』としか言えない存在。
少し小耳に挟んだ話だと、どうも鈴本さんは昆虫だの
(それは、さすがに私も苦手かもしれない……)
とはいえ、そんな話をするほどの仲でもない私は、グループ作業で鈴本さんがあぶれると私と親友のミユキちゃんのグループに入れてあげていた。
けれどそれが、私が鈴本さんと仲良くしていると思ったのか、気の強い子たちのグループから文句を言われたこともある。
ちょっと太めで迫力のある三波さんと小柄だが眼光鋭い木原さんが、体育館周辺清掃当番の私に詰め寄る。
「なんで、気持ち悪い鈴本を仲間に入れるの? いい子ぶってるんじゃない?」
(いい子ぶってると言うか、実際、私はいい子なんだけどな……)
と、口に出したら逆上されそうなことを考えながら、私は言う。
「別に鈴本さんのこと嫌いじゃないし、誰かと組まないとこっちも困るしね」
「そりゃそうだろうけど、嫌でしょ?」
「私の方は嫌ってことはないから、気にしないで。そっちで無理に入れる必要もないしさ、ちょうどいいんじゃない?」
私から、何かしら鈴本さんの悪口や困っている話を聞こうとした二人は拍子抜けしたようだった。
「まあ、委員長がそういうならいいか。その方が楽だし」
「うん。だからまあ、意地悪や無視はしないでさ、ほどよく距離をとってよ」
「分かってるんだけど、あいつキモイんだもん」
「あー、今のは聞かなかったことにする。本人の前では言わないでね。言ってるの見かけたら、止めに入るから。ウザいの嫌でしょ?」
そういうと、二人は意外なほど素直に帰って行った。
俗にいうヤンキーという子らだ、もしかしたら一戦交えないといけないかと思っていた私は正直ほっとした。
「蘭ちゃん、三波さんと木原さんが怖くないの?」
一緒にいたミユキちゃんが恐々聞く。
私はいつも2歳年下の妹の凛ちゃんと取っ組み合いの喧嘩や、聞くに堪えない口げんかをしょっちゅう繰り広げている。
私は同級生なら女子にでも男子にでも口げんかだけで泣かすこともできるだろう。
取っ組み合いの喧嘩をしても、女子ならたぶん勝てる。その自信があった。
「あんなの怖くないじゃん。同じ歳だよ? 本当に怖いのは、先生や大人だよ」
私はそのことを十分知っていた。
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