【ショート】プニッチのショートラブコメ集

プニッチのGWL(グッドライトライフ)

溶かしちゃえ。 【テーマ:チョコレート】

今でも思い出してしまう。


私は昨年のバレンタイン、幼馴染のたすくに振られた。


サッカー部のキャプテンで、いつもキラキラしてる。

勉強はできないけど……明るくて、コミュ力も高いクラスの中心みたいな人。


幼稚園の時にはもう、とっくに好きになってたと思う。

その思いが積み重なっていっても、声に出すことはできなくて。


そのまま、去年高校一年生になってしまった。

そろそろこの想いにケリをつけなきゃ。


そう思って、チョコも手作りして、勇気を出して告白したら……。


「ごめん。俺、付き合っている人がいる」って。


……いたんだ、付き合ってた人。


雷に打たれたように、その場に立ち尽くしてしまう私。

ずっと、佑の一番近くにいられると思ってたのに。

ずっと、今まで一番近くで佑を見ていたと思っていたのに。


でも、違ったんだ。

そう思うと、どうしても泣けてしまう。




そんな嫌な思い出を、一年たった今も思い出してしまう。


屋上に来るのがまずかった。だって、私はここで佑に告白したんだから。

思い出して当然だった。


振られた直後に比べたら、胸の痛みは軽くなった。

それでも、ときどき思い出しては辛くなってしまう。


だから、私はバレンタインが嫌いだ。



「おーい麗香ちゃん、長い独白は後にしてくれんかね~っ」


やわらかい声が聞こえてくる。


「あ……美鈴ちゃん……」


過去に浸ってもしょうがない……。


この、ツインテールで茶髪の子は美鈴ちゃん。

中学校からの友達で、よく佑のことを相談していた。


「今日バレンタインだけど、誰かに渡すの?」

「渡せるわけないよ……。渡す相手がいないし」

「私は渡す人、決めたよ?」

「そうなんだね」

少しだけ複雑な気持ちを抱えている私。

「そういえばさ、チョコって」

ふいに、美鈴ちゃんがそう言った。

「思いを載せることができるじゃん? バレンタインにチョコを渡すのは、そういう意味もあると思うの」

「はあ」


何が言いたいのかがわからない。


「でも、チョコって溶けちゃうじゃん?」

「そうだね」

「逆に言えば、人の思いを溶かすこともできる」

「何が言いた……」

そう聞こうとする私に、彼女はポンっと何か甘いものを口に放り込んだ。

一泊遅れて、それがチョコだと気づく。


「失恋、ずっと抱えてちゃつらいよ? だから、そのチョコをゆっくり、失恋の痛みとか、悲しみとかを載せて溶かしちゃえ! そうすれば、ちょっとは気分が晴れると思うの」

「……」

この子は軽く考えすぎているな、と思う。

そんな簡単なことで、私の痛みが癒えるはずないのに。

なのに。

でも、言われた通りにゆっくりとチョコを溶かしていくと、私の心の澱も溶けていくように感じる。

気分が少しずつ晴れていく。なにこれ……こんなの、知らない。

「痛みをいやすには甘いもの、だよ?麗香ちゃん」


「すごい……ありがとう」

私は感心してしまった。


「ちなみになんだけどさ……?」


「なに?」

私が聞き返すと、美鈴ちゃんは少しだけ頬を赤く染め、目をそらす。

少しだけ深呼吸をした彼女は、私に向かってこう言い放つ。


「そのチョコ……本命、なんだよね」


「っ!?」

突然言い放たれた言葉に、私は目を見開き、そのあと顔に全身の血が上るほど真っ赤になる。

すごく顔が熱い。


「ねぇ……麗香ちゃん……?」


失恋の痛みが癒されると同時に、去年蓋をした感情が息を吹き返す。


高校二年生のバレンタイン。


嫌いになったバレンタイン。


それなのに……そのはずなのに。



目の前の彼女が、どうしても愛おしく思えてしまって。




頭のてっぺんから足の先、そして胸の奥を駆け巡るこのむずがゆさ……。






今、私は恋に落ちたんだ。






今、私は彼女に恋をしているんだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る