6
行為が終わり、シュンが少年の身体を手放すと、彼は黙ったまま部屋を出ていった。痛みとまでは行かずとも、違和感は残るであろう身体を引きずるようにして。
そのまま玄関のドアを開け締めする音も聞こえるかと思ってシュンは耳を澄ませていたが、重い鉄の扉が開閉する音は、とうとう聞こえなかった。
少年は、まだアパートを出ていない。リビングに居る。
そう思うと、変なふうに胸がうずいた。恋情などではもちろんない。罪悪感とも違うし、焦燥感でもない。ただ、胸がじくじくと、いくつもの浅くて小さな傷から血を流しているような、微妙な感覚が続いた。
シュンは、ぐちゃぐちゃになった布団を引き寄せ、頭から被り、眠ろうとした。
胸の痛みだかうずきだか、そんなものを無視することは、得意なはずだった。
それなのに、なぜだかいっこうに眠りは訪れてくれない。シュンは、意地になったようにきつく両目を閉じた。
眠ったからといって、なにかがリセットされるわけではないことは分かっている。睡眠は、なんの救いにもならない。それでも今は、数時間だけでも、なにも考えずにいたかった。
美沙子を初めて抱いた晩を思い出す。
バーでのナンパに、あっさり引っかかった美沙子は、シュンを自分の部屋に招き入れることにも、なんら抵抗感を示さなかった。
無用心だね。
シュンがそう言うと、美沙子は唇の端だけ軽く笑わせた。
人は選んでるつもりよ。あんた、意気地なしでしょ。
そう、初対面の時から、美沙子はすでに千里眼を発揮していたのだ。確かにシュンは意気地無しで、強盗も殺人もできそうになかった。
そして美沙子とシュンは、このベッドの上ではじめの性交をした。
その性交がどんなものだったのか、シュンはよく覚えていない。多分、よくあるごく当たり前のセックスをしたのだろう。
美沙子が商売女であることを、シュンは言葉や仕草の端々からなんとなく感じ取っていた。
美沙子も、シュンがヒモだということは、いつもの千里眼ですっかり見抜いていたのだろう。それは以前からそう決まっていたことみたいに、翌日からシュンは美沙子の部屋に住み着いた。そして、今に至る。
シュンは、まだ健少年の感触が残る右手を、顔の前にかざしてみた。
男と女の違いはもちろんある。それでも、体内の温度や感触まで美沙子と似ていると思うのは、ただの感傷だろうか。
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