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なんでこんなことになっているのだろう。
シーフードのカップヌードルを啜りながら、シュンは自分に呆れてしまう。
物事には逆らわず流されること。
それが、10年近くなるヒモ生活で身につけた処世術だ。
でも、だからといって、飼い主の弟と並んでカップ麺を啜る冬の午後というのは、なんなんだろうか。
「やっぱ、カップ麺はシーフードですね。」
と、隣で健少年が健康的に笑う。
そうだね、と、シュンも反射的に笑い返す。
ちなみにカップ麺を作ったのは、健少年だ。昼飯俺が作りますね! と張り切って台所に消えていったかと思うと、3分後にカップ麺を持って登場した。
まあ、ありがたいことにはありがたいのだ。だってシュンはいつも、買い置きのカップ麺があることを知っていても、お湯を沸かすのが面倒くさくて絶食している。
「姉ちゃんとは、長いんですか?」
ずるずると麺を啜り上げながら、健少年が無邪気に尋ねる。
「半年くらいかな。」
申し訳程度に浮いたエビをつつきながら、シュンは正直に答えた。
「姉ちゃん、どんな感じですか?」
「どんなって?」
「なんだろう。全体的に。姉ちゃん、ずっと前に家を出ちゃって、そっから最近になるまで連絡もくれなかったから、俺、姉ちゃんのこと、そんな知らないんですよね。」
変な姉弟でしょ、と、健少年は箸を持つ手で髪をかいた。
変な姉弟もなにも、普通の姉弟の姿を知らないシュンには、どっちつかずに首を傾げることしかできない。
「ずっと前って、いつ?」
別に取り分けて知りたいわけでもないが、礼儀くらいの気持ちで聞き返しながら、シュンは改めて、自分が美沙子についてなにも知らないことを自覚する。
美沙子だってシュンについてなにも知らないんだから、お互い様ではあるが、性感帯の一つ一つまでしっかり把握しているくせに、これまでの人生については全く持って把握していないのは、さすがに歪だという気もした。
「えっと……9年前ですね。姉ちゃんが16で、俺が7歳の頃。それで、実家に電話が来たのが半年前だから、俺、ほんとに姉ちゃんのこと全然知らないんです。」
「……それなのに、よく泊まりに来たね。」
「だって、姉弟だから。」
健少年は平然とそう言ってのけ、カップ麺のスープをずびずばと飲み干した。
だって、姉弟だから。
その言葉は、そこに寄せられている当たり前みたいな信頼は、シュンにとっては全く異世界の言語みたいに感じられた。
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