落日の白蓮華

喜島 塔

第1話

 ―― 廻れ 廻れ 我が命よ、

    巡り 巡って 隠り世かくりよでいちばん美しい花と成れ


 神仙峡しんせんきょうの東端にある湖は「蓮華湖れんげこ」と呼ばれ、湖面には色とりどりの蓮華の花が咲き乱れていた。ここにすまう仙女たちは、皆一様に美しく浮世離れしていた。仙女たちは、不死ではあるが不老ではなかった。彼女たちは仙女と成ってから二百年経った日を境として、「美」に翳りが差し始める。「醜」を忌み嫌う彼女たちは、「醜」への耐性が無く、自ずから「蓮華湖」に身を投げる。湖面に咲く色とりどりの蓮華の花たちは、そんな仙女たちの成れの果ての姿。虚空から神仙峡に差し込む光を浴び続けることで、彼女たちは、やがて生まれ変わり、新たな仙女が誕生する。


「昨晩、晧月こうげつ様が流転るてんされたそうですよ」

「まあ、とてもお美しいお方でしたが……もう、降誕から二百年経ってしまったのですね。さぞやお美しい花を咲かせたのでしょう」


 晧月というお方は、神仙峡でいちばん美しい仙女であった。うら若き仙女たちは、晧月が咲かせた花を見るために、こぞって蓮華湖へと向かった。湖面の中央には、鮮やかな紅色の蓮華の花が見事に咲いており、仙女たちは、あまりの美しさに息を呑んだ。数多ある色の中でも紅蓮華ぐれんげはもっとも美しいとされており、その色が鮮明であればあるほど、美しい仙女が誕生すると噂されていた。


「嗚呼、まったく! 晧月様の美しさには敵いませんわ!」

余暉よき様も、あの時、潔く流転なさっていれば、晧月様のようにお美しいままでいらっしゃることができましたのにね」

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