第16話 地底世界
「なんだかゾクッとしましたわ」
スカートが捲れないように縦ロールで押えて、凄まじい速度で空いた穴を下りながら、香峯子は腕を抱える。
穴の深さは果てしなく、日の光も届かず完全な暗闇だった。
香峯子の予想が正しければこの先に地底世界が広がっているはずだ。
もしこの世界に地底世界が無く裏側に出てしまう可能性もあるがその時はその時だ。
「どの世界でも地底世界があればいいのですが」
そんなことをぼやいていると、遂に視界に光が差し、目の前に真っ白な建造物群が見えた。
「地底世界ですわ!」
香峯子が喜びの声を上げると、真っ白な建造物群は真っ赤に染まり、けたたましい音が聞こえた。
「いったいなんなんですの⁉」
慌てて周囲を見渡す香峯子、真っ赤に染まった建造物群からなにかが香峯子目掛けて飛んでくる。引き返そうかと上を見上げるが、香峯子が落ちてきたはずの穴は無くなっており、やむ終えず香峯子は落下スピードを上げて着地する。
真っ赤な建造物は紙粘土で作ったような歪な細長い円錐だ、それが一定間隔で並んでいる。
その建造物の間に下りた香峯子目掛けて飛んできたなにかは、香峯子を囲うように集まる。
よく見るとそのなにかは蝶のような形をしていた。その蝶が一か所に固まり、やがて人の形を作る。
「ようこそ地底世界へ、侵略者さん」
人の形を作っただけだと思われたが、その見た目は人間と全く変わりなく、違うと言ったら全身が真っ赤に染まっているぐらいだ。
「歓迎されてませんわよね?」
香峯子は警戒したまま落ち着いて問いかける。
瞬く間に香峯子は、人の姿になった恐らく地底人、に囲まれる。
真っ赤に染まった人間、男か女の区別がつけられない中性的な見た目だ。
いつ襲われても大丈夫なように、香峯子は縦ロールを構えて臨戦態勢をとる。侵入してきた香峯子が悪いため、自分からは攻撃を仕掛けないが、身を守るためだ。
すると少し地底人たちはざわつき始める。
「えっ……全然ビビッてないじゃん」「あっしら滅ぼされるでやんすか?」「なんでこの人ビビんないの?」「ヤバい怖いよう土下座しようよう……」
聞こえてくる内容に香峯子は困惑する。
もしかしてこちらを油断させる罠かと思ったが、そういう雰囲気は感じられない。
よく見ると香峯子の正面に立つ地底人の足は震えている。
「えっと……侵略者、と言いましたわよね? それはわたくし自身そう思われても仕方がないな、と思っているのですが――」
香峯子が話し出すと地底人達はみな一斉に距離を取る、そして真っ赤な身体が真っ青になる。ちなみに建造物も真っ青になる。
「なんなんですの?」
あまりの展開に臨戦態勢を解いた香峯子がジトッとした目で問いかける。
「ひいっ⁉」
とりあえず真正面に立つ地底人に聞いてみたが、怯えるだけでなにも答えてくれない。
香峯子が他の地底人に聞こうとするが、皆香峯子と目が合うと離れてしまう。
「…………」
香峯子は額に手を当てる。
どうやらこの世界の地底人は臆病らしい。
「安心してくださいまし、わたくしはあなた方をどうこうしようとは思ってませんわ」
香峯子がそう言うと、今まで怯えていた地底人たちの色が黄色になった。
「なーんだ、そうなんですか!」
さっきまで怯えていた地底人達は一斉に力が抜けたようでその場に崩れ落ちる。
ちなみに建造物も黄色に染まっていた。
「信用しすぎではありませんの?」
あきれた様子で香峯子がそう言うと、再び地底人達が真っ青に染まる。
「え、滅ぼされるんじゃ……」「嫌でやんす命だけは!」「なんであっしら生きてんの?」「ヤバい怖いよう土下座しようよう……」
「いえ、別に滅ぼす気はありませんわよ」
「「「「「なーんだ!」」」」」
再び地底人達は黄色になる。
「あなた達のことが少し分かりましたわ」
頭痛をこめかみを指で押さえる香峯子のため息が地底世界に溶けていった。
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