南伊豆町手石漁港女子プロボクシングジム
ジユウヒロヲカ
第1章 序章
東京にも強いからっ風が吹いた寒い冬の日、帝国ホテルにもからっ風は吹き込んでいく。
5本目に発表した小説が直木賞を受賞した彼は、授賞式を終えて記者会見に臨んでいた。
「受賞の喜びを誰に伝えたいですか?」
15人ほどいる記者の一人が質問した。
「うーん、せっかく皆さんに集まっていただいたんで、感動的な話をしたいんですが、もう父も母もいないし、41歳にして妻も子も恋人もないから、伝えたい人はいないです」
記者たちから少し笑い声が起こった。別の記者が質問する。
「賞金は何に使いますか?」
「家買おうかと思ってましてね、その足しにしようかな。この受賞のお陰で会社辞めて、がんばって小説一本で生きていこうと踏ん切りがついたんで、賃貸は卒業して、というか、将来誰も貸してくれなくなると困るんでね。一人者はツラいですね」
また記者たちから少し笑い声が起こる。
「どのあたりに?」
「東京は人が多すぎるから、どっか東京からそう遠くないとこで港の近くがいいな。冬でも雪がふらないところの、そんなとこに小さな家でも買いたいです」
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