2.僕と親友と友達と先輩②
体育館はよく声が通った。人がいないと反響が凄い。
「遅い。葵はもうアップを済ませたよ」
「アップどころかもう疲れてない?」
この完璧人間。やや体力が無いものの、トスもレシーブもスパイクも器用にこなしてしまう。チームのバランスを整えるために重宝されていた。
先輩は男子と比べても高水準の技術と体力で、どんなスパルタにも耐えうるバイタリティも持ち合わせた超人。全国的にはわからないけれど、少なくとも強豪と名高いこの学内でトップクラスの実力を誇る。この人についていける人はそうそういないものだ。
倒れこんだ葵を他所に、僕は軽く準備運動を済ませるといつも部活で欠かさない基礎練習に取り組んだ。
「まったくだらしないなあ。課題くらい授業中か家でさっさと終わらせとけ」
「先輩や葵と違ってそんなに器用じゃないんだよ。今はバレーで精一杯なの」
こうしてレシーブを返しながら会話をするのだって覚束ない。
「これだから単純バカは」
「純粋でまっすぐって言え」
「愚直で直進しか出来ないあほ」
「む……それは言い返せない」
変わらず口が悪い。それは先輩が中学を卒業してから一年経って、高校生になった今なら少しは落ち着いたかなと思ったけど、そんなことはなかった。
「よーし、次は葵に打ってもらうからそれ全部拾えー」
際限なく飛んでくる球を残さず受けて正面に送り返す。何度もやってきたことだ。
カゴいっぱいに詰まった球を拾い直して何周も繰り返す。中学生の頃、実力に伸び悩んでいた時期に顧問の先生に言われて続けてきたことだった。だからどんな球でも必ず拾い上げる。
それがリベロとして、背が低い僕にも出来る唯一の仕事だ。
「足とまってんぞー。もうやめるか?」
「もう一本、お願いします!」
だんだんと体育館内の空気が温まっていく。それに呼応するように練習の熱も上がっていく。
毎日のように、これを続けていた。それも誘ってくれる先輩のおかげかもしれない。
そしてちょうど僕が小学生くらいの頃。僕をバレーの道に引っ張ってくれたのも先輩だった。
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