肆
私の十メートルほど先をふたりの少女が手を繋いで歩いていた。背が低い方の少女は三年前の自分であり、もうひとりの少女は「
「ねえ、本当に、ここ入っちゃって大丈夫なの?」
瑠夏が不安そうに私に尋ねた。
「だいじょうぶだって!
駿という男の子も瑠夏と私の幼馴染で、私は駿に密かに恋心を抱いていた。しかし、彼の瞳に映っているのは、いつも瑠夏だけだった。
朽ち果てた螺旋階段を上っていくふたりの少女を、私は、声の主に導かれるようにして追って行った。錆びついた重い扉を開けると、そこは廃ビルの屋上で、
―― しゅるしゅる、どおん、ぱらぱら
という打上げ花火の音とともに、夏の夜空が美しく彩られていた。
「わあっ! きれーい!」
花火を見た途端、先程までの不安が吹き飛んだのか、瑠夏が歓声を上げた。
「ねえ、せっかくだから、もっと近くで見ようよ!」
そう言って、私は、瑠夏の手を引いてフェンス越しまで誘い込んだ。朽ちたフェンスは、少し触れるだけで、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。すっかり花火の虜になっていた瑠夏は、そんなことなどお構いなしといった感じで、
「わあっ! 綺麗だねえ」
と言ってはしゃいでいた。その横顔は、同性の私の目から見ても、怖ろしく美しかった。次の花火が打ち上げられるのと同時に、瑠夏が宙を舞い、ひらひらと落ちていった。
「ちるらむ、ちるらむ、花の、ちるらむ」
そう叫びながら、瑠夏は、血の色の眼で私のことを、ぎらりと睨めつけていた。
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