私の十メートルほど先をふたりの少女が手を繋いで歩いていた。背が低い方の少女は三年前の自分であり、もうひとりの少女は「瑠夏るか」という美少女だった。艶やかな長い黒髪をポニーテールにしている。ギンガムチェックのミニスカートからすらりと伸びた長い脚が軽やかに踊っている。瑠夏は、私の幼馴染で、ふたりは本当の姉妹のように仲が良かった。


「ねえ、本当に、ここ入っちゃって大丈夫なの?」

 瑠夏が不安そうに私に尋ねた。

「だいじょうぶだって! 駿しゅんたちも、後から合流するって言ってたし!」

 駿という男の子も瑠夏と私の幼馴染で、私は駿に密かに恋心を抱いていた。しかし、彼の瞳に映っているのは、いつも瑠夏だけだった。


 朽ち果てた螺旋階段を上っていくふたりの少女を、私は、声の主に導かれるようにして追って行った。錆びついた重い扉を開けると、そこは廃ビルの屋上で、


―― しゅるしゅる、どおん、ぱらぱら

 という打上げ花火の音とともに、夏の夜空が美しく彩られていた。


「わあっ! きれーい!」

 花火を見た途端、先程までの不安が吹き飛んだのか、瑠夏が歓声を上げた。


「ねえ、せっかくだから、もっと近くで見ようよ!」

 そう言って、私は、瑠夏の手を引いてフェンス越しまで誘い込んだ。朽ちたフェンスは、少し触れるだけで、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。すっかり花火の虜になっていた瑠夏は、そんなことなどお構いなしといった感じで、


「わあっ! 綺麗だねえ」

 と言ってはしゃいでいた。その横顔は、同性の私の目から見ても、怖ろしく美しかった。次の花火が打ち上げられるのと同時に、瑠夏が宙を舞い、ひらひらと落ちていった。


「ちるらむ、ちるらむ、花の、ちるらむ」

 そう叫びながら、瑠夏は、血の色の眼で私のことを、ぎらりと睨めつけていた。

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