蓮兄さんに辛い思いしてほしくないの!

 全て授業が終わり、放課後。

 蓮が学生寮に帰ろうとした。

 その時、


「魔森君」


 水篠マリが声を掛けてきた。

 

「どうした、委員長?」

「明日、学園が休みなんだけど…よかったら都市を案内しようか?」

「いや、そこまで迷惑はかけられない」

「迷惑じゃないよ。それに魔森君とは仲良くしたいし」

「そう…か」


 蓮は顎に手を当てて、少し考える。


「…じゃあ、お願いしようかな」

「OK!明日、午前九時に学園の門の前に集合ね」

「分かった」

「じゃあ…また明日」


 明るい笑顔を浮かべて手を振りながら、マリは教室から出て行った。

 

「俺も帰るか」


 蓮は教室を出て、廊下を歩いた。

 廊下を歩いていると、多くの少女達が蓮に視線を向ける。


(十人…いや、二十人以上はいるな)


 廊下を歩いていた蓮は前髪で隠れていた目を細めた。


(まさかこんなにいるとはな…こりゃあ時間が掛かるな)


 蓮がそう思った時、


「いた!」

「探したよ、蓮兄さん」


 二人の少女が背後から聞こえた。

 蓮が振り返ると、そこにはエイナとエイミーがいた。

 

「エイナ…エイミー。どうした?」

「どうした?じゃないよ。この後、三人でお祝いしようって話したでしょ?」

「したっけ?」

「したよ!ほら行くよ、美味しいカフェを予約したんだ」


 エイナは蓮の腕を強く引っ張った。

 どうやら彼女はお祝いがしたくて、仕方がないようだ。


「分かった分かった」


 エイナに腕を引っ張られる蓮は苦笑する。


<>


 浮遊学園都市『大和』のとあるカフェで蓮とエイナ、エイミーの三人はささやかなパーティーをしていた。


「それではかんぱ~い!」

「「かんぱ~い」」



 三人はジュースが入ったグラスを軽くぶつけ、飲む。

 テーブルの上にはパンケーキやピザなど料理が並べられている。


「いや~それにしてもウチの学園に蓮兄とエイミーが入ってくるとは思わなかったよ」

「まぁ……色々あってな」

「色々あってね」

「その色々がなんなのか教えてよ二人とも~」

「「ごめん無理」」

「ぶ~二人ともなんか隠してない?」

「何も隠してない」

「何も隠してないよ」


 それから三人は食事をしながら、楽しく話をした。

 兄妹仲良く談笑していると、


「あれ?先輩…」


 聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 声が聞こえた方に視線を向けると、そこにいたのは大石修だった。


「修ちゃん?」

「また会いましたね、先輩。エイナもエイミーもさっきぶり」

「修ちゃんはここで夕食?」

「はい。寮のご飯も美味しいんですけど、時々カフェの料理も食べたくなっちゃって」

「そうなんだ。俺達は今、パーティーをしているんだけど、よかったら修ちゃんも一緒にどう?」

「良いんですか!では失礼します」


 修は蓮の隣の席に座る。

 それを見てエイミーは顔をしかめ、エイナは額に青筋を浮かべた。


「ちょっと修!パーティーに参加するのは良いけど、蓮兄の隣に座るのはダメ―!」

「別にいいじゃないか。座る場所、ここしかなかったんだし」

「なら私が変わってあげるよ!」

「先輩、僕…どうですか?」

「話を聞けよ!」


 エイナを無視して、修は蓮に胸を近づける。

 蓮は優しそうな笑みを浮かべて、口を動かす。


「前に会った時よりも女性らしくなって綺麗だよ」

「本当ですか!」

「ああ」

「嬉しいです!」


 嬉しそうに笑みを浮かべて、修は蓮に抱き付いた。


「ちょっと!」

「なにやってんの!」


 エイナとエイミーは椅子から立ち上がり、怒りが籠った声を上げた。

 だがそんな彼女達を無視して、修は蓮の胸に顔をすりすりと擦りつける。

 猫のような行動をする修の頭を蓮は優しく撫でる。


「修!蓮兄から離れて!」

「蓮兄さんもなんで修の頭を撫でてるの!?」


 エイナとエイミーは蓮から修を引き剝がそうとする。

 しかし修はびくとも動かない。


「やだ。僕は絶対に離れないからね」

「修ちゃん。もうその辺にしていったん離れて」

「え~でも」

「今度、遊んであげるから」

「本当ですか!約束ですよ」

「ああ」


 修は蓮から離れて、ニヤニヤと頬を緩めた。

 そんな彼女を見て、エイナは舌打ちする。


「修…あまり蓮兄とベタベタしないで」

「別にいいじゃないか。先輩は私の先輩なんだから」

「なにが私のなのかな?ただの先輩後輩の関係でしょう?」

「はぁ?」


 ビキリと青筋を浮かべる修。

 彼女はエイナと睨み合い、バチバチと火花を散らす。


「二人とも喧嘩するな。他のお客さんが見てる」

「だって蓮兄!修が!」

「だって先輩!エイナが!」

「だってもなにもない。いつもは仲いいのになんでこういう時だけ仲悪いんだ」


 エイナと修はとても仲がいい方だ。

 だが蓮がいると、必ず二人は喧嘩する。


「とにかく仲良くしろ。あと喧嘩するなら他の人達に迷惑が掛からない場所でしろ」

「「はい……」」

「ほら、さっさとご飯を食べよう。ご飯が冷めちゃう」


 それから蓮とエイナ、エイミーと修の四人は食事を楽しんだ。

 料理を全て食べ終えた時、エイナは蓮に声を掛ける。


「ねぇ蓮兄」

「なんだ?」

「明日、学園休みだからさ……エイミーと蓮兄、そして私の三人で『大和』を見て回ろうよ」

「ああ、ごめん。実は予定があるから無理なんだ」

「そう…なの?」

「すまんな」


 少し残念そうな顔を浮かべるエイナは、「気にしなんで」と告げる。


<>


 食事を食べ終え、会計を済ませた蓮達四人は学生寮に向かった。


「そういえば蓮兄とエイミーの部屋ってどこなの?遊びに行きたいから教えて」

「ああ、それは…」


 エイナの質問に蓮が答えようとした時、


「ダメだよ、蓮兄さん!」


 突然、エイミーが蓮の口を手で塞いだ。


「だめだよ蓮兄さん。私達が同じ部屋を使ってるって知ったら、エイナ騒ぐよ!」

「そうだな」


 こそこそと話をする二人にエイナは首を傾げる。


「どうしたの?」

「「いや……なんでもない」」

「?」


<>


 それから学生寮に到着した四人はそれぞれの部屋に向かった。

 部屋に到着した蓮はソファーに座る。


「ようやく部屋に到着」

「エイナが部屋に行くって言った時は大変だったね。……」

「エイミー?」


 暗い表情を浮かべるエイミーを見て、蓮は「どうした?」と尋ねる。


「……ねぇ、明日、用事あるんだよね」

「ああ」

「その用事って……水篠先輩と出かけるんだよね?」

「相変わらず勘がいいな」

「何年、一緒にいると思ってるの?」

「そうだね」

「……ねぇ、蓮兄さん。ちょっと失礼するね」


 そう言ってエイミーは蓮兄の膝の上に座った。


「お、おい」


「出会ったばかりの女子と出かけるんだもん。これぐらいは許してね」

「えぇ~」

「えぇ~じゃない。あと頭を撫でて」

「いや……でも」

「もしもしエイナ。蓮兄さんが明日」

「分かった分かった。やるから、スマホから手を離せ」


 一度、ため息を吐いた後、蓮はエイミーの頭を優しく撫でる。

 するとエイミーは猫のように目を細めて、細長い耳をピコピコと動かした。


(今だけ…今だけは蓮兄さんを独占させて、エイナ)


<>


 翌日。蓮は学園の門の前でマリを待っていた。


「そろそろか」


 スマホで時間を確認していた時、


「魔森君~!」


 水篠マリがやってきた。

 蓮はマリに視線を向け、目を見開く。


「委員長……その格好」


 蓮の瞳に映っていたのは、セーター姿のマリだった。

 可愛らしく、シンプルなデザインをした鞄をぶら下げている。


「おまたせ。待ったでしょ?」

「いや、そんなに待ってない」

「そっか。ねぇ魔森君。この服どうかな?」

「とても似合っているよ」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

「ああ」


<>


「魔森君、こっちこっち!」


 笑顔を浮かべながら、マリは蓮の手を引っ張って歩いていた。

 蓮は苦笑しながら、周囲に視線を向ける。


(やっぱり目立つな)


 街の中を歩いている蓮達を、多くの女性たちはヒソヒソと話しながら見ていた。

 当然の反応だろう。男性がいない街に、男がいるのだから。


「気にしなくていいんだよ、魔森君」

「委員長」


 心配したのか、マリは蓮に声を掛けた。


「君は堂々としていればいい」

「そう…だな。そうするよ」

「よし、今日はとことん遊ぼう」


 それからマリは蓮に街を案内しながら、買い物したり、カフェで食事などしたりして楽しんだ。

 

 数時間後。


「ふぅ…遊んだ遊んだ」

「そうだな……今日はありがとう。とても楽しかった」

「私も楽しかったよ!」


 ニッと笑みを浮かべるマリ。

 彼女の笑顔が夕陽に照らされて、蓮には美しく見えた。


「また遊ぼうね」

「ああ」

「じゃあ、私は用事があるからこれで」

「分かった」

「じゃあね~!」


 マリは手を振りながら、去っていった。

 残された蓮はふぅと息を吐いた後、後ろに視線を向ける。


「そこに隠れているのは分かっている。出て来い」


 蓮がそう言うと、建物の影から黒いフードを被った女性が三人現れた。


「なぜ気付いた?」

「バレバレだっつうの。寧ろ気付かないとでも?」

「……やはり貴様は危険だ。ここで排除する」


 女性たちは剣や槍の形をした〈マジックアイテム〉を召喚し、魔法少女へと変身した。


「まったく……お前らのほうから来るとは。いいだろう。相手にしてやるよ。燃えろ、【鳳凰】」


 蓮は自分の〈マジックアイテム〉の名を告げた。

 直後、彼の胸から炎が発生し、その炎は大太刀へと変わる。

 蓮は大太刀を装備し、唱える。


「変身」


 次の瞬間、蓮の身体が激しく燃え上がる。

 やがて炎が消えると、彼は赤い甲冑を纏った武将少女へと変わっていた。


「まとめて来い」


 真紅の大太刀を構え、蓮が挑発した。

 フードを被った魔法少女達三人は蓮に襲い掛かる。

 迫りくる剣撃や刺突を蓮は紙一重に躱す。


「まったく……この程度かよ。こんなんじゃあ」


 蓮は左手で剣を持っていた魔法少女の頭を鷲掴みし、地面に叩き付ける。

 地面に亀裂が走り、魔法少女は白目を剥く。


「俺を殺すなんて無理だぞ?」


 赤い瞳を怪しく輝かせる蓮。

 彼から感じる威圧と殺意に、残りの魔法少女二人は後退る。


「こ、このおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 槍を持った魔法少女は蓮に突撃した。


「バカが」


 蓮は大太刀を素早く振るい、女性の両腕を切断。

 切断面から大量の血が噴き出し、地面が赤く染まる。


「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!腕がああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「俺は敵には容赦しないと決めてるんだ。……さて、あとはお前だけか」


 鋭い目つきで蓮は、最後に残った一人を睨みつける。

 女性は顔を恐怖で歪め、逃げようとした。

 だがそれよりも速く、


「逃がすと思うか?」


 蓮は女性の両脚を切断した。

 両腕を失った彼女は地面に倒れる。


「死ね」


 両脚を失った女性の首を蓮が大太刀で斬ろうとした。

 その時、


「待って!」


 声が聞こえた。しかも蓮が知っている声だった。

 振り返るとそこにいたのは、


「エイミー……」


 声の主は蓮の義妹の一人、魔森エイミーだった。

 彼女はとても悲しそうな顔で蓮を見ていた。


「……なんでここに?」

「あとをつけてきたの。蓮兄さんが気になって」

「一日中?」

「うん……そんなことより今……何をしようとしてるの?」

「……こいつらを殺そうとした」

「そんなことはやめてよ!」

「そういうわけにはいかない。こいつらは……魔神教団は生かしていいやつらじゃない」

「違う!」


 蓮の言葉をエイミーは強く否定した。


「私は……その人たちのために言ってるんじゃない。蓮兄さんに辛い思いをしないでほしいの」

「辛くなんか……」

「嘘…さっきその人を殺そうとするとき、とても辛そうな顔をしてた」

「そんな……はずは」

「知ってる、私。その人たちを殺そうとするのは、自分みたいな人が生まれないようにするためだって。蓮兄さん……優しいから」

「……」

「でも…だからって、その人たちを殺して蓮兄さんが傷つく必要はない」


 エイミーは蓮に近付き、彼を抱き締めた。


「私は…蓮兄さんに傷ついてほしくない」

「エイミー…」

「さっき学園長に連絡したからすぐその人たちを捕まえる人たちが来るよ。だから……」


 エイミーは涙を流しながら、蓮の赤い瞳を見つめる。


「これ以上……自分を傷つけないで」


 それは……兄を想う妹の言葉だった。

 エイミーの想いが伝わったのか、蓮は手から大太刀を離し、妹を優しく抱き締める。


「分かったよ。エイミー…」


<>


 抱き締め合う蓮とエイミー。

 そんな二人を遠くから見ていた少女がいた。


 エイナだ。


「うそ……なんで」


 抱き締め合う二人を見ていたエイナは、胸に手を当てた。


「いたい……」


 今、エイミーは胸が締め付けられるような痛みを感じていた。

 その時、


「可哀そうに……」


 エイミーの耳に、少女の声が聞こえた。

 声が聞こえた方に視線を向けたエイミーは目を見開く。


「あなたは…」

「ねぇ魔森エイミー。好きな人を自分のものにすることができるって言ったら……どうする?」

「!」

 

 少女はエイミーの瞳を見つめながら、尋ねる。

 まるで誘惑するかのように。


「ねぇ…どうする?」

「……本当に、蓮兄を…私のものに」


 少女は口元を三日月に歪める。


「えぇ…約束するわ」


 少女は手を差し伸ばした。

 エイミーはその手を恐る恐る握った。

 その直後、エイミーの意識が黒く染まった。

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魔法少女の兄も魔法少女 @gurenn1950

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