二十三年 七月 彼岸花の小道

 「夏井いつきのおウチde俳句くらぶ」のお題写真では、木漏れ日の差す林の中、幅Ⅰメートル程の木道がゆったりと曲線を描いて林の奥へと伸びています。道の左右には真っ赤に咲いた彼岸花が満開に茂っています。ひとところにまとまって咲いている彼岸花はよく見かけますが、こんなに群生しているのは初めて見ました。あまりに綺麗でこの世のものとは思えない景色でした。



☆ 彼岸花常世とこよの風に揺れている


 この小道を誘われるままに辿ってゆくと、美しい川辺に出てしまうかも知れない。そこには彼岸花だけではなく四季の花が咲き乱れていて、向こう岸からは懐かしい人たちが手を振ってくれるのではなかろうか。そんな妄想を膨らませた句です。常世とは死後の世界のこと。あの世ともいいます。並選。


☆☆ どこまでもついて来る子や彼岸花


 この小道の先には古い墓地があります。わたしの父母の眠る墓もそこにありました。わたしはお墓に捧げる花束と掃除用の箒や水桶を抱えて彼岸花の咲き乱れる道を歩き始めました。ところが、いくらも行かないうちに視界の隅に小さな影が動くのをみとめました。振り向くと小学一年生くらいの白い服を着た女の子がしゃがみこんで、彼岸花の陰からわたしを見ていました。迷子かな? 「おかあさんは?」訊いてみましたが、返事はありません。

「迷子になっちゃうから、おばちゃんについてきてはダメよ」

 女の子はおかっぱの頭を横に振って、じっとわたしを見ています。わたしは面倒臭くなって先を急ぐことにしました。木道の道は一本道で墓場はすぐそこのはずでした。それなのに、どうして歩いても歩いても辿り着けないのでしょう。そして振り返ると必ず、あの女の子がいるのです。額に厭な汗が滲みました。

「帰って!」わたしは大人げない声で叫びました。「あんたがついてくると、お墓につけないから、帰って!」

 ざっと風が吹きました。女の子はおかっぱの髪を乱して笑いました。(つづく)


 ……というような物語を空想してしまいました。怖いよー。人選。

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