学園一の美少女が陰キャの俺にくっついて離れない 〜スキルが【剣の声を聞く】で馬鹿にされてるけど、誰も真の価値を見抜けてない〜
黒井カラス
第1話 学園一の美少女
ダンジョンがある都市、東京。
この街には冒険者学園があり、日々生徒たちが冒険者になってダンジョンに挑むべく研鑽を積んでいる。
俺――
成績は平均をやや下回る程度。
友達は、いない。
正確には、いなくなった。
「は? なにそのスキル」
その言葉が決定的だったと思う。
人にはそれぞれ、スキルと呼ばれる超自然的な能力が備わっている。
そのスキルを判別する行事が入学当初にあっのだけど、これが全くのハズレスキルだった。
剣の声を聞くスキル【剣鳴】だ。
スキルと言えば冒険者の根幹。
それが役に立たない内容となれば、冒険者としての限界を言い渡されたに等しい。
その場はまさに嘲笑の嵐。
以降、入学したばかりで友達かどうかも判然としないあやふやな人間関係が一気に清算され、俺は一人ぼっちとなった。
学園生活は灰色一色。
登校してから一言も発することなく放課後を迎えたこともある。
何度か現状を打破しようと頑張った時期もあったけど、何もかも全部無駄だった。
流石に諦めが勝る。
もうぼっちでいいや、と開き直った、そんな時だった。
「剣の声が聞こえるんだって? あたしのも聞いてよ」
思わず目を丸くした。
昼休み、話し掛けてきたのは学園一の美少女と名高い
容姿端麗、文武両道、皆の人気者、嘘みたいな優等生。
そんな雲の上の存在が、地の底で這いつくばっているような俺に話しかけるなんて。
クラスメイトたちも驚いている。目を丸くしてこちらに釘付けだ。
「おーい、もしもーし」
「え、あ、あぁ」
驚きすぎて返事が遅れた。
「いいけど」
「やった。じゃあ早速お願いね」
なんの意図があってかは定かじゃないけど、手早く願いを叶えてお引き取り願おう。
注目を浴びて損することはあれど、得することなんて一つもない。
俺みたいな立場の人間は特に。
「はい、これ」
机の上に置かれたのは、使い込まれた日本刀。鞘を抜かなくても柄と鍔を見れば、持ち主の研鑽具合が見て取れる。
驚いたことにこの上、努力家と来た。
この刀がお下がりじゃなければだけど。
「じゃあ」
鞘から刀を抜き、刃に自身の顔を映す。
あれ? 綺麗に手入れされているけど、この感じもしかして?
とにかくスキル【剣鳴】を発動し、剣の声に耳を傾ける。
『――』
聞こえた。
「わかった。伝えるよ」
やっぱりか。
「もうわかったの? なんて?」
「自分は刀として終わった、代わりを探せ」
この刀の声を一字一句違うことなく、万丈に伝えた。すると、当の本人は面を食らったような表情をし、雫が頬を伝う。
「えっ」
万丈は泣いていた。
その大きな瞳から涙が止めどなく溢れていく。
騒然となる教室、駆け寄る女子、連れて行かれる万丈。
机の上に置かれていた刀は、ひったくるように、女子の一人が持っていった。
ご丁寧に一度、睨みつけてから。
「……こんなのありかよ」
今、すべてのクラスメイトを敵に回した気がする。今まではただの無関心な他人だったのに、明確な敵意を抱かせてしまった。
俺はただ万丈の頼みを叶えただけなのに。
§
行動力のあるせっかちなクラスメイトが多いようで、その日の当日から嫌がらせが始まった。
少し席を外しただけで物がなくなり、移動となれば教室の出入り口を集団で塞がれ、聞き取れるくらいの声で陰口を叩かれる。
ナイト気取りの勘違いクラスメイトによる犯行だ。僕が私が万丈を守ります、そう言っているようで虫唾が走った。
そして放課後のこと。
「おい、鶴木。面貸せよ」
ついにお呼びが掛かる。目的はどうせリンチだろう。
逃げてもたぶん無駄。
まだクラスメイトの半数が残っている。
この人数相手に大立ち回りするより、この名前も思い出せない男子生徒数人に大人しく付いて行くほうが遥かに楽だ。
「わかった」
席から立ち上がり、彼らの後をついていく。
相手は三人にまで減った。今なら逃げようと思えば逃げられなくもない。
けど、そうすると明日が面倒だ。
まず間違いなく今日より悪意に満ちている。どうせ殴られるなら、今が一番軽症で済む。
「さて」
たどり着いたのは校舎裏。
随分とお
ベタ。
「よくも万丈を泣かしやがったな」
「お前、あの時なに言いやがったんだ?」
「……答えられない」
「あ?」
「悪いけど、内容を勝手に喋る気はないんだ。諦めてくれ」
きっと万丈も言い触らされたくはないだろうし。
「いいから言えよ、ザコがよ!」
右ストレートが俺の頬を捉え、痛みと衝撃に身を攫われる。地面に倒れ伏し、口の中で血の味がした。
躱したかったけど、躱せば次がもっと痛くなる。剣がこの場にあれば多少の抵抗も出来たけど、学園内で許可なく帯剣することは許されないこと。
俺は剣がなければ何もできない。
「言う気になったか?」
「拳を握れよ」
「は?」
「聞こえなかったか? どうぞ殴って下さいって言ってんだ」
「この野郎ッ!」
握り拳が振るわれる。
次の瞬間にはくる痛みと衝撃に備えて身構えると――
「なにしてんの?」
声が響き、拳が止まった。
視線が行き着く先には万丈小杖が立っていた。その表情は険しい。
「ば、万丈、なんでここに……」
「三人が鶴木くん連れてくとこ見かけたから、こっそり
「えっと、これは……そう、敵討ちだよ、敵討ち!」
「そ、そうだ! 敵討ちだ! 昼休み、こいつに泣かされただろ? だから万丈のために
――」
「あたし、そんなこと頼んだっけ?」
三人は途端に閉口した。
まるで叱られた子供だ。
「鶴木くんに謝って」
「いや、でもよ。俺たちは万丈のことをおもって――」
「謝って」
三人は顔を見合わせると、嫌そうに頭を下げた。
「すまん」
謝意も何も感じない形だけのものだったけど十分だ。これ以上、殴られないのなら。
「いいよ、俺の前から今すぐ消えてくれれば」
「くそっ」
彼らは万丈に聞こえないくらいの小さな声で悪態をついてこの場から去って言った。
大きめのため息をつく。
頬に一発、これだけで済んで幸運だった。
「大丈夫? ほっぺた」
「まぁ、このくらいは」
痛いけど、このくらいの傷ならポーションなり何なりで直ぐに治せる。
心配されるような怪我じゃない。
「ごめんね、あたしのせいで」
「万丈が謝ることじゃない。あの三馬鹿が勝手にやったことだし」
「でも、あたしが泣いちゃったから……」
それはそう、事の発端だ。
なんで泣いたのか気になる所だけど、デリケートなことっぽいし、聞くのは止めておこう。
「もしかして、他にも何かされてる?」
「あー、いや」
「やっぱり! あたし、明日みんなに言わなきゃ!」
「待て待て待て。たぶん、逆効果だ」
誰もが憧れている対象が万丈小杖という生徒だ。その人に自身の醜い部分を知られたとなって湧いてくる怒りの矛先は、たぶん俺に向く。
今度はより狡猾な手段で、嫌がらせが実行される。
それは勘弁願いたい。
「そう? じゃあ……」
万丈は少しの間、思考を巡らせ。
「あ、わかった!」
何かを閃く。
「あたしがずっと側にいればいいんだ!」
「……え?」
何故そうなった?
――――――――――
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