黒ハゲ☆★☆危機一髪!?

代 居玖間

髭と髪と




 その男の名は、アーウィット=フォムベウスという。

ベスボルスファミリーの三代目首領ドンという肩書きをもつ、黒髭くろひげのドン・アーウィットといえば泣く子も黙る冷徹な犯罪組織の黒幕だ。

国内マフィア二大勢力の片割れであるこの一家は、主に不動産と土木関係の元締め的な存在で巷では穏健派組織という認識だったが、三代目にこの男が就任した途端に各事業者たちへの横暴な制裁や事業の乗っ取りや暴力行為が相次ぎ、業界界隈では何かと物議を醸していたのだった。







 漆黒の黒髪と左右にシュッと整えたヒゲがトレードマークな彼だが、今は形振り構っちゃいられない絶体絶命な大ピンチの真っ只中。

なにせ敵対勢力マフィアの手の内に囚われ、殴る蹴るの暴力の嵐にさらされる憂き目にあっているところなのである。



 宿敵の隠れ家アジトは堅牢な三階建の別荘だった。

最上階の壁にはりつけ状態で両手を拘束されたドン・アーウィット。

自慢の髭はあっという間に切り落とされて無惨な姿に成り果てて。

引き裂かれた高級スーツからき出しにされた筋肉質の身体は傷だらけ。

誰もが知る美丈夫な姿の欠片も残っては居なかった。

彼のグレーのギラついた瞳だけが油断なく辺りをにらむのみ。

「アーッハッハッハー。ずいぶんとお粗末な見た目になり下がったな、三代目。偉そうな髭がなくなっちまったら、黒髭の通り名が泣くってもんだ」

敵対組織のトップである太っちょが、彼の髪の毛を鷲掴わしづかみにして顔を上向かせニヤニヤわらう。

「ついでに、この頭頂部の毛髪も引っこ抜いてやろうか? そうしたら、黒髭ならぬ黒禿くろはげだなぁ……ウヒャヒャヒャヒャ!」

臭い息とギトギトな顔面が近づいて、不快感で思わず顔をしかめるアーウィット。

その様子をくやしがっていると勘違かんちがいした太っちょが、得意げに話を続ける。

「間抜けなお前にゃその姿がお似合いだぜ。俺たちフットゥサルーン一家が総出でもてなしてやるから、せいぜい楽しんで逝ってくれよな? ワッハッハッハー。さあ、野郎どもっ! こいつを的にしてダーツ大会と洒落込もうぜ!! そうだなぁ、とくに頭頂部は高得点ゾーンという設定でいこうか。身体は一点、頭は二十点、……普通の矢じゃ面白くねえから、巻煙草を付けた特製のやつを用意してやったぜ」

いやはやなんとも、それはじつに悪質な遊びの提案であった。



 はてさて、火遊びの結末は如何に。

彼の頭頂部の運命は風前の灯なのか。

……良い子は絶対に真似しないでね。





 



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