ワープ 04 ~超リアルアンドロイド~

かわごえともぞう

第1話 リアルアンドロイド

 ポールは、やって来たまま帰る気配はない。そのまま居座ってしまった。とりあえずは、渡辺の住んでいる学生寮に居候を決め込んでいる。


~一人が住むのにやっとの処に大男にやって来られても迷惑この上ないんだがな~

 渡辺のぼやきは絶えない。


 父親ほどではないが、ポールも190センチ近い大男なのだ。渡辺の六畳一間の部屋には窮屈すぎる。

 だが、二人は妙に気が合い、毎晩のように飲みに出た。飲みに出ると言っても、駅前の『カメ寿司』か駅裏の『七味鳥』のどちらかなのだが、常温核融合システムの特許料の1%、150万円が入っているので、当面は羽振りがいい。渡辺がポールに奢っている訳なのだが、なんで知る人ぞ知る貧乏男が、世界一の金持ちの息子に奢らないといけないのか、普通の人間なら疑問が沸くのが当然だが、この渡辺という男、そういうことに関しては、天性の鈍感さがある。


「ポール、お前、酒強えーな。生中10杯に熱燗5合、酎ハイ5杯は飲んだだろう。顔色一つ変わらねーじゃねーか、うい~~~、おめぇ飲みすぎなんだよ~~」

 

 粉雪の舞う師走の夜をポールに抱きかかえられながら千鳥足で住処の学生寮の二階に帰るのが日課になっていた。

 ポールは、夜は渡辺に付き合うのだが、昼間は何をして時間をつぶしているのか分からない。大学の周辺をほっつき歩いているのを、渡辺は何度か目にした。地元の不動産屋と一緒だったこともある。


~もしかして、この大学に研究員かなんかで入り込む魂胆なのかもしれない。住むマンションかなんかを探しているのだろう~

 

 などと想像もしてみたが、渡辺にとってはどうでもよい事だ。もしそうだとしても、ジュリーよりは遥かにいい関係になれそうだ。あんなのがもう一人増えたら、たまったものではない。その点、ポールは安心できる。

 ある日、ポールと学長の丹下が一緒に歩いているのを見た。丹下は今まで見たこともないような御機嫌のよい顔で何か話している。渡辺の想像は、どうも当たりの様だ。

 

 ポールがやって来て半月ほど過ぎた頃、渡辺の研究室を訪ねてきた人物がいた。ちょうど、ジュリー・カレン親子、ポールも同室していた時だった。

「ハロー、ポールです。オゲンキデスカ?」

 入って来るなり、たどたどしい日本語で挨拶をした。

「ポール、なにふざけてんだ」

 渡辺は思わずそう言って、はっと気が付いた。…ポールは確かさっきからそこに居たはずだ…、おもむろに振り向くと、やはりそこにポールがいた。

「…………」

 ポールが二人いる。

 渡辺は、すぐに合点した。

「ポール、お前たち、双子だったんだ。知らなかったよ。俺を担ごうとしたな。で、あんた、ポールの兄貴、弟?」

 渡辺は、入って来たポールそっくりの人物に訊いた。


「カツゴウ?」

 

 ポールそっくりの人物は日本語をほとんど知らないようだ。

 渡辺は、我に返った。


《そうだ。確か、ついこの間までポールは日本語を話せなかったはずだ。だが、日本に来てからはよどみのない日本語を話している。何時の間にこんな日本語上達したんだ?》

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