ルール② カードと追加ハンドアウト

 マーダーミステリーで、プレイヤーは様々なところでシナリオに関する情報を手にする。導入トレーラーやルールそのものも、シナリオにおけるヒントが散りばめられているものだ。

 やはりもっとも影響力の大きなものは、ハンドアウトである。そして、次に大事なのが追加情報をもたらしてくれる追加情報。つまり情報カードやゲーム中に配布される追加ハンドアウトである。


 そもそも追加情報が必要なのかどうなのか。

 ゲーム設計上だけで言えば、公開情報が欲しい場合と、印象操作したい場合は有効である。


 キャラクターのハンドアウトというのは全てプレイヤーが議論中口頭で情報共有するしかなく、全員が共有できる情報は議論前に提供される導入トレーラー、ルール、読み合わせ文、設定資料くらいしかない。

 事件に関する情報が口頭情報でしか出てこないとなると、必要な情報は複数人に散らばせる必要がある。一人が言っている情報よりも、二人以上の口裏があった情報のほうが信頼性があるからだ。

 しかし、何人に情報を渡そうが、全員がその部分を読み飛ばしてしまったら意味がない。議論の進行上この情報は議題に出してほしい、という情報がある場合は、盤面を用意してそのうえで全体公開できるカードに記述すべきかもしれない。

 

 また、プレイヤーが他キャラクターの印象を決めるのはハンドアウトの情報と議論内容の重点が大きい。議論導線を操作することで各キャラクターへの印象を導入時からガラっと変えることもできるが、誰も出さない情報を追加情報として直接与えるほうが、設計としては容易である。

 議論中にキャラクターへの印象を操作して波をつけることで、キャラクターが持つであろうアクティブな改心を演出することができる。



 どちらのルールを使用すべきか。追加情報なんて無くて良いか、ハンドアウトで渡すのか、カードで渡すのか。はたまたそれ以外か。これは事件となる舞台で、キャラクターに何をさせたいかで決めるとよい。

 上記のゲーム設計上の理由がなくても、物語としての臨場感が演出できるなら導入の価値はある。カードを引く、というのは議論以外でキャラクターが自由に行動できることを演出する、数少ない要素だ。


 キャラクターは事件周辺の調査をするなどして能動的な情報取得をするのか、それとも受動的な情報取得をするのか。カードの場合は能動的に調査を行っている感が強く、追加ハンドアウトの場合は能動的にキャラクターが動けない場合に使用したい。

 追加の情報が膨大な場合は追加ハンドアウトにするしかないが、そうでない場合はカードでも公開不可にしてしまえば、追加ハンドアウトと同じような効果を得られる。

 



 追加ハンドアウトの場合、注意すべきはその情報量とキャラクターの心情を操作しようとしないことである。ハンドアウトで情報を渡すということは、つまり議論が一時中断されるということだ。読み込みの時間を取るため、その特性はカードの比にならない。

 ハンドアウト形式(文書形式)で渡せるとなると、ついつい文章量が多くなってしまいがちだ。文章量が多いと読み込みの時間が長くなり、議論と議論の合間が長くなってしまう。

 長いシナリオで休憩と兼ねている場合はその限りではないが、議論への集中を保つためにはなるべくこの合間時間が短いほうがいい。そのうえで、追加の情報は少ないほうがいいだろう。

 

 キャラクターの心情を操作しようとしてしまわないようにすべき、というのは進行上の物語の破綻と、まるでそれまでの議論が作者の誘導であるかのような印象を抱かせ無い為の防衛策だ。

 追加ハンドアウトだと文書で渡す形式上、どうしてもキャラクターに語らせたくなってしまう。導入時からキャラクターの目標が変わる場合は特にそうだ。

 だが、キャラクターの心情が変わるにはそれ相応の情報の齟齬が生まれていなくてはならない。その情報が導入ハンドアウトと追加ハンドアウトで完結していれば、ここに問題ない。しかし、他者から出てくる情報をあてにしていると、それが出てこないことがある。

 作者が思っている以上に、必要な情報は議論の議題にあがらない。プレイヤー視点ではそのシナリオの全容が見えない為、どの情報が重要な情報なのかの判別は不可能である。さらに読み飛ばしてしまう、文章が記憶から抜けるなどの可能性を考えると、これはもう制御不可能と考えたほうがいい。

 さらに、追加ハンドアウトでの目標変更があまりに強制的だと、プレイヤー目線ではそれまでの議論がまるで無駄化のように思えてしまう。それが追加の情報そのものの効果が協力であれば問題になりづらいのだが、キャラクターがそれを見てどう思ったかという解釈の問題になってしまう。

 いくらハンドアウト上で、そのキャラがそういう設定であると記述しても、別人であるプレイヤーがその人格を理解するのは不可能である。

 その上議論中にプレイヤーの解釈があらぬ方向に固まってしまうこともあるし、情報と同様に読み飛ばしたり無視したりすることもある。多くのプレイヤーに共感してもらうには、追加ハンドアウトも情報カードと同様、あくまで情報を渡す手段であると割り切るのが賢明だろう。



 

 情報カードについては様々な形態でルールを作れる。カードは何枚作るのか。どのタイミングで引けるのか。どんな内容なのか。全体公開はどの程度可能なのか。譲渡などのアイテム的な利用をするのか。

 枚数については、一人が引けるカードは3~6枚程度に抑えたほうがいいだろう。あまり少ないと意義が感じられず、多すぎると情報精査が視覚的に難しくなってしまう。ここフォリアでは文字の大きさ、オフライン卓ではカードを他人にみられないようにするせいで、カードは基本一枚ずつしか見ることができない。

 

 どのタイミングで引けるのか、について、私は議論中自由にいつでも引けるというルールをいつも採用している。議論を中断してカードを引く時間にするのは、議論への集中を切ってしまうという点でもったいなさすぎる。

 複数人が引きたいと思っているカードが明確にある、という場合は事故を防ぐためにそういったルールを導入せざるをえないが、そもそもそれはゲーム設計が最初からおかしいのである。

 どうせ引く順を作っていかに工夫したところで不公平感がでる順番というのはでてくるし、そもそも場にある情報を欲する動機付けはキャラクターごとに違うはずだ。そこを演出し、推理要素にしてもらうという意味でも、議論中に自由に引けるほうがよいと思っている。

 また、運用面で起こる問題を懸念して順番をつける場合がある。オフラインでは問題ないが、ココフォリアやユドナリウムなどでは同時に同じ山札からカードを複数人が引くと、引けていないはずのプレイヤーが一瞬だけ中身が見えてしまうことがある。

 こうした問題を避けるために順番をつけることもあるが、それであれば「カードを引く際は、どこを調査するか宣言してから引くこと」などのルールを作ればいいだけのことだ。

 

 内容については、それが公開できるものなのか、何枚公開できるのか、アイテム的な利用をすることがあるのかによって、シナリオごとに全く異なるものだ。

 ここでは、全体公開の可否についてのみ述べよう。

 情報カードを全体公開してよいかどうか、という程度は、その内容がどれだけ事件の真相に直結しているかに依る。情報カードが全て開くと犯人が言い逃れできなかったり、犯人候補がその情報だけで2人程度に絞られてしまうのであれば、全体公開になんらかの制限をかけるべきである。


 情報カードの全体公開が無制限に許可されている状況というのは、うまい具合に全キャラクターのハンドアウトに隠したい情報が無い限りはゲーム中盤以降、基本的にフルオープンになってしまう可能性が非常に高い。そしてその”うまい具合に”というのが、既存シナリオで実現できているものは希少だ。

 基本的なゲーム設計はやはり、真犯人を投票で多数にすることが主目標であり、その他の目標があっても自分が多数票になることは絶対に避けたい、というのが通常のシナリオである。ここの前提が崩れていない限り、真犯人を見つけるために犯人でない人間は協力せざるを得ない。

 そして、誰かが情報カードを全て全体公開してしまえば、情報カードを伏せているキャラクターは何かしら後ろ暗いところがあるキャラクターであると判断されても不思議ではない。そんな印象戦が行われれば、伏せて印象悪く投票されるか、推理で投票されるかの2択を迫られる。犯人がクリティカルな情報カードを引いていようとも、推理で自分に到達しないことを祈りながら、公開せざるを得なくなってしまう。

 これは【議論させるべきことを考える】の章で詳しく述べるが、議論で述べても問題ない口頭情報と情報カードの情報で、演繹的な跳躍を経ない推理が可能な情報を出すべきではない、ということにつながる。


 マーダーミステリーは推理のゲームに見えて、推理で全てを作ってはならない。どれほどの葛藤を抱えて出てきた情報であっても、それが公開されてしまえば犯人役はゲームオーバー、という情報やその連なりは作るべきではない。

 犯人役からみれば、どんな葛藤があろうと知ったことではないのだ。それが許されるのは、明確に犯人の味方であるキャラクターが、他プレイヤーの天才的説得によって寝返ってしまったときだけだ(もっとも、ゲーム設計上そんなことがあってはならない)。


 情報カードが全て開いてしまった場合犯人の特定が容易になってしまう場合は、全体公開や密談時の見せあいに何かしらの制限を儲けよう。

 それぞれのキャラクターが自由に現場を漁っていいとしても、限られた議論時間中に見つけたもの全てを全員に見てもらう、というのは現実的にも不可能である。見つけた情報は報告した後、必要があれば現物を見せる、というのが常だ。死体の状態なんて必要が無ければ見たくないし、むやみやたらに見せつけてくる人間とは、まともに話したくもない。

 

 全体公開できる情報カードの枚数を制限してもいいし、議論をコントロールしたいのであれば全体公開不可能な情報カードを指定して作ってもよい。密談時に情報カードを見せあう行為を禁止してもよいし、一度の密談でできる枚数を制限してもよい。

 できることは全てOK、できないことは全てNGを突きつけるのではなく、こうした微妙な調整こそが、ルールを作成するときの醍醐味だ。

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