ルール
ルール① 嘘の可否について
この章から、ゲームの根本であるルール作成についてかたっていく。
ルール作成は議論内容にあうように作るのではなく、その事件の舞台設定やキャラクターのやりたいことを鑑みて作るべきである。マーダーミステリーは議論と投票でのみ、キャラクターを自由に動かせる。故に、世界設定や舞台設定のらしさをゲームに盛り込むためには、議論フェイズのルールをリアルにどれだけ寄せられるか、しか演出方法がない。
しかし、舞台設定ありきでルールをリアリティに寄せようということに重点を置きすぎても問題だ。ルールはあくまでゲームのためのもので、ゲームが破綻する可能性のあるルールはそもそも成立していない。舞台設定のリアリティとゲームバランスの両方を鑑みる必要がる。
この章では、マーダーミステリーでよく見られるルール例を取り上げる。個々のルール例はどんなゲーム設計に合うのか、ということに焦点を当てよう。
このページでは、全てのマーダーミステリーシナリオに設定されているといっても過言ではないだろう、議論中の嘘の可否について論じる。
議論中の嘘については、以下4パターンが考えられる。
① 議論中、プレイヤーキャラクターは嘘をついてはいけない。
② 議論中、プレイヤーキャラクターはハンドアウトで嘘が許可されている項目のみ嘘をついてよい。
③ 議論中、プレイヤーキャラクターは嘘をついてもよい。しかしシナリオの整合性に関わるような大きな嘘は避けるべきである。
④ 議論中、プレイヤーキャラクターは嘘をついてもよい。
さて、この中でルールとはとても呼べないものがある。③だ。
ルールの原則は、禁止事項を明確にすることだ。~できる、と書いてあるルールでも、その本質は~以外のことはできない、ということを示している。
記述の差こそあれ、③の後半部分、整合性に関わる大きな嘘はつくべきではない、というルールは多くのマーダーミステリーシナリオで採用されている文言だ。しかし、これはルールというにはあまりにお粗末で、その体を成していない。
ゲームやシナリオの整合性はどのようなことがあると破壊されるのか、それはゲームの全容が理解できていな限りわかるわけがない。多くの場合は”常識的に考えて”という説明がなされるが、ルール製作者がプレイヤーの常識に頼ってはならない。
常識なんてものは時代、地域、個人ごとに違うものであり、ルールとはその異なる常識を持つ人々が同じ土俵でゲームを行うために作るものだ。ルールにプレイヤー各々の常識を持ち込むことは、本末転倒甚だしい。そのうえ、このマーダミステリー界隈には常識外れを叩く人間がやたら多く、常識外れを自ら誘発するルールを作ることはマッチポンプ的行為であり、非常に邪悪であると言わざるを得ない。
さて、多くのゲームに取り入れられているが問題にならないルール③が排除されたことで、論ずるべきものは①、②、④の三つになった。
この三つのルールのうち、作っていくシナリオでどのルールを採用すべきか、ということは、上記で取り上げた③のルールをなぜ多くのシナリオ製作者が採用してしまうのか、ということを起点に説明しようと思う。
マーダーミステリーにおける議論の重要ポイントは、推理に必要な情報を埋めあうことだ。キャラクターはそれぞれ、事件について断片的な情報しかもっておらず、一人の情報だけで事件を理解できない。情報を集めるために、他者から話を引き出す動機付けがある。
しかし、ゲーム内には必ずと言っていいほど、情報を錯乱させる要素がある。犯人は事件に直結する情報を出したくないし、犯人をかばう人物は事件についての情報を捻じ曲げようとする。犯人をかばおうとしていなくても、他の犯罪を起こしたり、目的が別にあって情報操作をするキャラクターがいるかもしれない。
このような、他者から出てくる情報に信頼性がない中で、最も確実な情報をかき集め、精査するのが議論フェイズの肝だ。嘘という要素は、真犯人を見つける多数側ではなく、真犯人が見つかってほしくない、あるいはどうでもいいと思っているキャラクター陣営の武器だ。
そして彼らがつく嘘が、議論の進行に卓ごとの独自性を生み出していく。嘘の幅は広ければ広いほど、この独自性の幅も広がる。そして、見た目の自由度も上がる。プレイヤーは嘘をついてもよいという文面をみて、議論がなにものにも縛られていないような感覚になり、自由度の高いシナリオと認識するだろう。
なので、作者からすると嘘をついてよい、と言いたくなるのだ。嘘をついていいシナリオとダメなシナリオ、どっちがやりたいかと言われれば、当然後者を選ぶ人が多数だろう。プレイヤー作者の想定通りの動きで既定路線な議論をしたいわけではない。自分の出したクリティカルな議論によってゲームをコントロールできるような、実力重視にみえる後者のルールは非常に魅力的だ。しかしそれはプレイヤー目線の判断であり、作者たる我々はこの嘘についての特性について警戒しなければならない。
嘘をつく、ということは当然作中にない概念が持ち込まれるということである。小さなものだと、実際にキャラクターが行っていた行動と違う行動をしていたと言う、目撃証言を別の人物とすり替えるといったものだ。
これらの小さな嘘でも、シナリオ上には存在しない情報だ。これらの嘘は、成立すれば嘘をついたキャラクターの助けとなり、不成立を叩きつけられれば毒となる。嘘というのはリスクのある行動であるということだ。
大きな嘘で言えば、現実世界をもとにしたシナリオで「実はこの世界には超能力があって」と言ってみたり、「神が天罰を下した、私は聖職者だからそれがわかる」と言ってみたりする。
物語上存在しない人物を、さもいるかのように話してくるかもしれない。「実は真犯人はここにいない第三者で、彼はとある手段でここを去った」「自分は実は双子で、その片割れが事件を起こした」など。
ゲームギミックに手を出してくるかもしれない。「私には、他人の情報カードを強制的に公開させる力があるので、その情報カードを全体公開してください」といった具合に。
このような嘘も、本質的には小さな嘘と同じである。バレる・バレないで嘘をついたキャラクターの利となるか害となるかが決まる。
では、どのようにして成立・不成立は判定されるのか。ルールギミックでこれらの嘘を判別するようなものを作らない限り、基本的にはプレイヤーキャラクター間の情報精査によって判別される。
小さな嘘で言えば、これは容易に想像できる。「キャラクターAは19時にお風呂に入っていました」という嘘をついても、複数人がその時間にAを別のところで見ていたり、その時間お風呂に入った人間がAを見ていなかったりすれば、その嘘は成立せずとなる。嘘をついたプレイヤーはそのことを断罪され、その後出す情報が信用されず、投票先の最有力候補となってしまうだろう。
大きな嘘でも、ゲームルールにおける嘘については、全てのルールが明示的なコンポーネントで構成されていればよい。能力を使用する場合は盤面の能力カードを公開して使用するなど。
GMとPCだけの裏処理がある場合は、これについて嘘をついてはならないという部分的な枷をつけたり、GMがその嘘はダメであると先に言う環境をシナリオ側で規定するべきである。
他のルール作成のときにここは意識しなければならない。全てのルールの処理が明示的であるかどうか気にしておけば、逆にルール上の嘘を心配する必要はなくなる。
問題は、物語にかかわる大きな嘘の場合である。
現実世界を模したシナリオであれば、その制限はそこまで難しくない。魔法だの超能力だのといった突拍子のない嘘は、他プレイヤーが簡単に不成立を下せる。なぜなら、舞台となっている現実世界にそのようなものが存在しないとわかっているからだ。
これが現実世界ではないとどうなるか。プレイヤーは他キャラクターが言い放つ嘘のスケールが大きければ大きいほど、その判定が難しくなる。その世界のキャラクターが持つ常識が、プレイヤーには備わっていないため、その嘘が本当かどうかを判断する材料がない。
これを解決するには膨大な資料が必要になる。たとえゲームに関わるような部分の設定が充実していようとも、その外部をつくような嘘をつかれたらお手上げだ。
「念動力が存在する」世界で、「発火能力が実はある」という嘘はどうやって否定すればいいのだろうか。「人類に味方する神々がいる」世界で、「人類に仇成す悪魔が翳から狙っている」ことは、どの程度信頼できるか。
現実世界を模していても、時代物や対象プレイヤーが住んでいない地域が舞台でも同様である。「この時代では殺した真犯人ではなく、真犯人の仕えるものが責任を取る」「この地域では生贄の文化がまだあって、これは殺人ではない」などの嘘は、その舞台に詳しくないと否定ができない。
大きな嘘を一人が言うだけなら問題ないが、複数人が意思疎通して口裏を合わせるケースが多々ある。このような噓が複数人によってつかれた場合、もはや目的が目的でなくなったり、ゲームへの取り組み方それ自体が作者の想定から外れて行ってしまう。
最たる例は物語上に関わる嘘、「実は真犯人はここにいない第三者で、彼はとある手段でここを去った」「自分は実は双子で、その片割れが事件を起こした」といったようなものは、エンディングありきのシナリオとすこぶる相性が悪い。
エンディング時点で持っているべきキャラクター間の情報に齟齬が出てしまい、作者の想定するエンディング時に抱くべき感情から遠のいてしまう。
ここで、③のルールをもう一度見てみよう。短慮で恥知らずなこの文言も、上記を鑑みると、採用したくなってしまう魔力があるのがわかるだろう。プレイヤーの満足度を上げるために嘘は自由についてほしい。一方でゲーム上では作者の想定外のことが起こってほしくない。欲深い人間の産物である。
このような嘘は議論をしのぎきらなくてはならない犯人側からすれば当然行っていい嘘なのだが、物語偏重主義の作者はこれを許したくはない。エンディング時点でプレイヤーがそういう物語だった、という納得感が薄れてしまい、これ本当はどういうことだったの? という微妙な空気にしたくないからだ。
つまり、作者がゲームをコントロールしたいという気持ち、これを排除しなければ、嘘についてのルールの中からどれを選べばいいかの判断が曇ってしまう。
それぞれのルールのパターンはどのようなゲーム作りに合っているのかを考える。
① 議論中、プレイヤーキャラクターは嘘をついてはいけない。
嘘をついてはいけない、というのは難しいゲームである。
犯人や犯行の真相を偽造したいキャラクターにとって、情報の誤魔化し方が沈黙以外に選択できなくなるからだ。
このルールは全てのキャラクターに情報を偽証する動機付けが無い場合、もしくは完全に一本道の議論を行って、見せたいエンディングに到達してほしい場合がよい。
もしくは、世界設定の全容がわからないシナリオだ。プレイヤー視点では世界設定の根幹に関わるどんでん返しが、シナリオ中に起きる場合などは、こちらのルールがよいかもしれない。
② 議論中、プレイヤーキャラクターはハンドアウトで嘘が許可されている項目のみ嘘をついてよい。
もっともバランスのよいルールである。
これであれば、作者がプレイヤーのつく嘘をある程度コントロールすることが可能だ。 ファンタジーやSFから、現実世界準拠のシナリオまで、幅広く採用することができる。
嘘をつける情報の内容と対象は明確になるようにしよう。ハンドアウト上の文章と、その中の対象物に下線を引くことや、別項でついていい嘘を明示してしまうなど、どれだけの嘘が可能かという自由度も作者次第となる。
④ 議論中、プレイヤーキャラクターは嘘をついてもよい。
これまで記述してきた全ての嘘についてのデメリットが解決できる場合に採用できる。
キャラクターとプレイヤーの間に世界設定の認識にほとんど齟齬がなく、ルールの処理が全て明示的であり、エンディングに至るまでにキャラクターやプレイヤーが知っておかなければならないことが存在しないシナリオだ。
昨今の流行りからすれば、当然④を採用するゲームを作りたいのが人情だ。
だからこそ、前章で私は現実世界準拠のゲームを作ったほうが良いという内容を書いている。世界設定の作りこみというのは、物語を作るうえでも、ゲームを作るうえでも、とても難しいということがわかっていただけるだろうか。
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