前書き② 俺の作業の仕方

 なぜ創作なんてやってる?

 理由は様々だ。チヤホヤされたい、特定の人に認められたい、衝動が抑えられない、何かを作ることが趣味、金が欲しい。

 俺の場合は世界観の表現がしたい、というのが先にあり、加えてチヤホヤされたいしすごい人だと思われたいしというのが追随する。そんなことはどうでもいいが、まずはこの文章を書いている奴の立ち位置が問題だ。まず金が欲しい人間、食いぶちにしたい人間にはなんの意味もないということ。


 そう、これは趣味である。マダミスを作るだけでは金にならない。作るのは楽しいかもしれないが、マーケティングや営業・企画なんかを考えるのはタノシクナイ。作って、売るまでを考え、実行でき、そうしたい人は以下の文章は役に立たない。

 なぜなら、趣味で創作をする人間がなんの責任も義務も負わず、ただ気の向くままに筆を動かしたり止めていたりすることの、その方法と意義があるだけだから。資本主義を崇拝するあまり、ローカルなエンタメにまで押し寄せる波を引き込もうとするには、とても力が足りない。我々は弱く醜い生き物である。


 さて、俺がマーダーミステリーをどうやって作っていたかを書く。まずは基本姿勢だ。このページではマダミスに必要な要素やら、細かいテクニックやらの話は一切しない。筆の取り方、キーボードの叩き方のみに焦点を当てる。

 俺のマダミスは軒並みプレイ時間が短い。長いもので3時間程度だ。つまり、作業時間も他の作者とは段違いに短いと思われる。それを加味しても、俺がディスプレイの前で真面目にキーボードを叩き、ルールを考えたりHOを書いたりする、言ってしまえば実働時間はかなり短いほうだと思う。1作あたり10時間もないくらいだ。

 なぜなら全ての事柄は、書き出す前にすべて決まっているからだ。頭の中に出力された何かを勝手に手が打ってくれるのを眺めているだけで勝手に出来上がる。ここまで書いておいて、天才作家の啓発のように思われてきて、なんだか面映ゆい。そんなわけがないのだ。底辺なろう作家で大した知名度もない俺如きに、そんな力など。


 内容はさておき、実働時間が短いというカラクリは、ただ単純にルール・HO・ギミック情報(カード・追加HO等)を別のところで考えているからである。大体、コンセプト時点では皆そうだろう。けれども、これを全てでやったほうがいいと俺は思う。

 考えている、というと少し語弊がある。俺の言葉で言えば、「無意識に丸投げする」だ。表層意識で全て解決できる優秀さがないので、もっと優秀な計算機に任せるのだ。

 例えばデスゲームを作りたいというコンセプトが決まった後、ルール上どうしても一人ずつ脱落するゲームは作れないからどうしよう、となったとする。こんな問題、ほぼすべてのデスゲーム系マダミス製作者が頭を抱え、知性をすり潰して結論を出しているに違いない。



 こんな一大事はとても普通に考えてたんじゃ解決策は出せない。いや、出そうとすれば出せるかも、だって俺天才だし。違う、制作は趣味だ。悩むのが楽しい人はいくらでも悩めばいいが、そんなの面白くない。出来れば作品が何の苦労もなく勝手に生まれ、その作成者のところに自分の名前が刻めさえすればあとはどうでもいい。そもそも下手の考え休むに似たり、考えに考え抜いた時間と出た結果が釣り合っているとも限らない。つまらない上に努力が実りそうもないことには手を出さないほうがいい。悩まずに創作の筆を動かし続けられるのならそれでいいけれども、多分それはきっと、キミが天才か、あるいは作っているものがあんまりおもしろくないかのどっちかだ。



 いくらか考えて結論が出ない場合、とりあえずそこまでのメモだけ残す。そして、それまでのすべてを忘れるのだ。見たい映画もあるし。今季のアニメは面白いのいっぱいあるし。やり残したゲームもある。そういえばそろそろ山に登って気持ちいい時期だ。釣りができる季節だ。

 創作で苦しむよりも楽しいことが世の中にはたくさんある。そもそも創作なんてやって何になるんだ? 創作ができるからといって友達が増えるわけじゃないし、金も手に入らない。創作の悩みで食事がマズくなるし、寝不足の原因だ。不健康極まりない。おまけに、完成したとて、インターネットに公開すればその評価に怯えなきゃならなくなる。こんなものに労力を割くなんて、正気の沙汰じゃない。人生を投げうっているとしか思えない所業だ。


 しかし考えなきゃいつまでたっても問題は解決しないし、作品は完成しないじゃないか。そんなことはない。ある程度悩んでおけば、あとは勝手に、脳みその自分が認識できないところが解決策を見繕って表層意識に送ってくれる。

 そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、キミはうんうん悩んで最初の、どういう作品を作ろうかのコンセプトを決めたのか? 大体の場合は思いつきのはずだ。じゃあその思い付きはどこから来たのか? キミの今までの膨大なインプットから、マダミスにして面白そうなアイディアを、脳みそが自動的に出力したに過ぎない。つまりこれを意識的に繰り返せばいいだけだ。

 もちろん、無意識の稼働率を上げるテクニックみたいなのは存在するし、例えば1日1分だけでも悩みの種について考えを整理する時間があるだけでも、解決策が出てくる数は飛躍的に上がる。ここで言いたいのは、ツマラナイことに時間を使わないほうがいいということ、創作の悩みは体を蝕むこと、そしてキミの表層意識は案外問題を解決するには役者不足だということだ。


 この結論は到底、商業で作品を売り込もうという人には不向きである。実働は10時間程度だが、俺の中で一番時間がかからなかったマダミスシナリオでも2か月はかかっている。テキストアプリを開かずにずーっとLoLをやっているし、天気が良ければ神社の写真を撮りに行くし、夜10時には創作の時間は強制的に打ち切るから。深夜に書くとアドレナリンが収まらずに寝れなくなるので、趣味でやってる人間は絶対にやめるべきだというのが持論。

 そんなペースでやってたら、1作品でいくら稼がなきゃならないんだという話になる。仕事にするなら創作で寝れない夜を何日も過ごすくらいの真剣さも必要だ。

 でもそんなものでいいじゃないか。1作品あたり2週間で作り続けたところで、創作に必要な知識・経験がすぐに底を尽きるのは目に見えている。そうであれば、アウトプットの時間は限りなく少ないほうがいいに決まっている。


 ふといい考えがふってきたときにメモして、それが溜まったら作業に移る。それの繰り返し。俺はメモなんてとってないが、多分めっちゃ忘れてる。忘れるのが怖いならしたほうがいい。ルール・HO・議論導線はそれぞれ、枠組みが説明できるくらいになったところで初めて清書する。

 全てが書き終わったあとは入念に見直そう。書いてる時の知性よりも、出来上がったものへのダメ出しをするほうが人間は得意だ。こんなインターネットの奥底にある駄文を読んでいる人間は特に。


 これまでのことをまとめると、木を切るとき、木を切る時間よりも、斧を研ぐ時間よりも、昼寝して英気を養う時間をとれというお話だった。実働がすべて結果に結びつかない空想による創作物だからできる方法だ。もちろん、これで放置して根腐れしているアイディアはたくさんある。

 でもそれでいいんだ。なんてったってコンセプトを考えているときが一番楽しいし、その後の苦しい作業を苦しんでやるよりは実現可能なアイディアが出るまでガチャを回す、この手法で俺は今6個もマダミスシナリオを作った。これは趣味で作る人間にとって過剰な数だ。自分の体は1個しかないのだから、精々2,3個くらいのマダミスシナリオがあれば楽しい作者GMライフが送れる。

 そんな量のシナリオを、大した苦労もなく出力できるこの方法を推奨し、創作者の健康と休日を充実させ、義務感と焦燥感を減退させることができればいいな、というのが俺の祈りだ。

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