第19話 忘却の精霊王

さて、時空の訓練部屋に入ってはや10日が過ぎようとしていた。

綾香達は数日で戻って来る予定のはずであり、今頃は大いに無人と化した学校に驚いている事だろう。

そして、この部屋を調べ上げてやって来るに違いない。


「しかし綾香さん達、一向に来る気配が無いなぁ…」


昼飯のおにぎりをもっしゃもっしゃと口にしながら言う。

そんな俺を、ユウキは首を傾げながら奇妙な動物でも見るかのような視線でジッと見つめる。


「なんか俺、変なこと言ったか?」


「‥‥‥あー……」


ユウキは何かに気付いたのか、木づちに見立てたこぶしでポンと手を叩く。


「何が『あー』なんだ?」


俺がユウキに訊くのと同時に、背後から声がした。


「来るわけがないだろ。ここの時間と元の場所の時間の流れが全然違うんだからな」

「元の場所では、まだ1日しか経っていない」


振り返ると、仁王立ちしたジャンヌがそこに居た。

ちなみに鎧等々脱いでセーラー服姿になっている。

つまりだな。

見えはしないが、俺の目線はちょうど彼女の股間のあたりにある。

スカートのしわに窪みが出ていて、間違いなくそこに秘密の花園があるのが良く分かった。


「貴様っ!またイヤらしいことを考えているなっ!」


俺の目線に気付いたジャンヌは両手で股間を隠す。


「全く気のせいだし、濡れ衣だ」


俺はジャンヌの目に視線を合わせて真摯に答える。

心の中は、どす黒いまでのエロ心で満たされているのだが。


「ぐっ…このっ!……全く…やってられんっ!」


俺の真摯な態度に軟化した?ジャンヌはそう言い捨てると後ろを振り向き去って行った。

ふむ‥‥なかなかに良いお尻をしている。


ちなみに最近分った事だが、ジャンヌはジッと見つめながら話すと途端に防御に入りだすのだ。

ふふ、また勝ってしまった。

そんな事を思っている間に、ユウキがいつの間にか立ち上がっていた。

背伸びをしながら何かを見せようとしている。


「お前がやりたいことは何となく分かるが、無駄だぞ」


現在、俺の視界に映っているのはユウキのぷにぷにのお腹。

ん?おかしいな。あれだけの身体能力があるのに、なんでこんなぷにぷになお腹をしているんだ?


ぴーっぴーっぴーっ。


そんな考えを遮るかのようにタイマーの音が鳴った。

どうやらお昼休憩が終ったらしいので、ユウキをスルーして立ち上がった。


「さて…そろそろ大物が来てほしいところだな」


肩をコキコキと鳴らしつつ、ドヤ顔を決めて言う。


「ホントに口だけは大物ですよねぇ」 by リョク


「しっ!リョクちゃんそんなこと言うたらあかん!」 by 千里


「でも事実だにゃ」 by 拇拇もも


「事実。仕方ない」 by ユウキ


「全く…そろそろ本気とやらを見せて欲しいものだ」 by ジャンヌ


「ほっほっほ。今日あたり見られるやも知れませぬぞ」 by 先生セヴァスティアン


「私は楽しいから、どっちでもいいよ。ねぇ燒梅しゅうまい」 by 小春


「ウァウァ」 by 燒梅


それぞれの台詞を背に、俺はキャンプ地を後にした。

と言っても、以下略。


キャンプ地を離れて構えてから3分程たったあと、それは現れた。


‥‥‥。


「くっ!何なんだ、こいつらはっ!」


大して強くはない相手であった。

だが、切っても切っても再生して再び襲い掛かって来るのだ。


「普通はHPが無くなって倒せるんじゃないのかよ」


俺は相手の剣を自らの剣で弾いた後、すかさず攻撃に転じて首をねた。

しかし、そいつは何事も無かったかのように首を持ち上げると、そのまま首の上に乗せて復活する。


「スケルトンとゾンビは不死だから、通常攻撃では倒せない」


ユウキが拡声器を使って言う。

じゃあ、どうやって倒したらいいんだよ。

俺、魔法使えないぞ?


「ふっふっふ。誰かをお忘れじゃあないですかねぇ」


ユウキの肩に乗っているリョクが、同様に拡声器を使って言う。

忘れるも何も、なんかあったっけ?


「そのお腰に着けたものは何ですか?」


俺は腰のものに目をやる。

そう、もう誰もが忘れかけている精霊剣プリズラークだ。


「という事は…まさか、俺は精霊魔法を使えるのか?」


あ、もちろん、この間もスケルトンとゾンビの攻撃をいなしているぞ?

漫画やアニメなんかでよくあるような、空気を読む敵じゃないからな。


「そうです。今こそ精霊王リーヨクを信じるのです!」


いきなり新しい設定が出て来たぞ?

もう何も考えてないだろ、この作者。


「というか、それ。お前のことなんだろ?」

「さっさと教えてくれ」


「んもぅ。もう少し乗ってくれても良いじゃないですか。ぷんぷん」

「『精霊王…だとっ!?一体誰なんだ!?』とか」

「………まぁ時間もありませんし、仕方ないですから教えますね」

基繋釋除きけいしゃくじょと言ってですねぇ、魔法職でいうところの不死を消滅させるディスペルと同じ…」


「よしっ!食らえ『基繋釋除きけいしゃくじょ!!!』」


しかし全く効果は無かった。


「ちょっ!全然効かないじゃないかっ!」


消滅させる大前提で完全にドヤ顔で言い放っていたため、あわやという所でスケルトンの反撃の剣で首が飛ぶところであった。


「んもぅ!話は最後まで聞いて下さい!」


拡声器で怒られてしまった。


「とりあえず端的に言いますと、初めて使う精霊魔法を使用するには契約が居るんです」

「ですので、これから言う事を復唱して下さい」


われ、精霊王との盟約に基づき、精霊呪せいれいじゅを詠唱す。

論俟ろんし、当該精霊呪せいれいじゅを詠唱せし反動、みなわれ役儀やくぎなり

天地神明、精霊王の員子裏付いんつうりふ無き事、我誓約せり。


***翻訳***

私は、精霊王と契約した内容に基づいて、次の精霊呪文を唱えます。

勿論ではありますが、この呪文を唱えることよる副作用等につきましては、全て自己責任として自分で対処いたします。

八百万の神に誓って、精霊王に対して損害賠償等を請求しないことを、私は固く誓います。


俺はリョクの言うまま、スケルトンとゾンビの攻撃を避けつつ唱える。

そして。


基繋釋除きけいしゃくじょ!!!」


俺がそれを唱えると、スケルトンとゾンビは光に包まれてそのまま消滅した。


「ふぅ…」


汗を拭った俺は、こうしてキャンプ地に帰還したのであった。


「あ、これ契約書ですのでサインお願いしますね」


「ん?あぁ…これでいいか?」


さらさらと自分の名前を書き込んでリョクに書類を返す。


「はいはい。それじゃあ、これ控えですので持っておいて下さいね」


「あぁ………ん?………ナニコレ?」


控えに書かれていたのは、上のとおりいかなる副作用が起きても自分の自己責任である事を了承している、という内容であった。


「やだなぁ。安全な魔法なんてあるわけないじゃないですかぁ」


既に千里のおっぱい風呂に逃げ込んでいるリョクは言う。


「…まぁ、いいか」


なお、副作用はその後も現れることは無かったので結果オーライである。

こうして、今日もまた更けて行ったのであった。


え?これ、まだ続くの?


「つづく」 by ユウキ

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