第20話 帰ったら大変な事になった

あれから更に10日あまりが経過した。


その間、数は違えども相も変わらずスケルトンやゾンビの軍団が登場し俺を苦しませた。

だがしかし、それらは俺の類稀なる身体能力及び生まれ持った戦闘センスによって見事に撃退したのであった。


蒼治良そうじろうさ~ん、嘘はいけませんよぉ~」


背後から拡声器を使ったリョクの声が聞こえる。

はい、すみません。嘘です。

私は精霊魔法の基繋釋除きけいしゃくじょというズル魔法を使ってあっさりと倒して経験値をボロ稼ぎしました。


ともかく、こうして俺のレベルは上がって行ったのは良いのだが、不満もあった。


「カネを全然落とさない…」


普通RPGと言えばお金を落すもんだろ?

だが、この部屋に入ってからというもの、出会うモンスターはもれなくだーれも金を落さずに消滅していた。


俺は天に願う。

金を落すモンスターをドロップしてくれ、と。


そして、そんな俺の願いは叶えられた。


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。


無数の金が俺の周囲を飛び回っているではないか。

ドロップした瞬間、俺は喜びに満ち溢れたが直ぐにそれが落胆へと変わるのにそんなに時間は掛からなかった。


速すぎて倒せねーよっ!!!


俺の心の中を見透かしたように、ユウキの説明が拡声器から流れて来た。


「これらは『バレットコイン』というコイン型弾丸モンスター」

「通常の攻撃では当てるのがとても困難」

「まぁ私は倒せるけど(ボソッ」


つまり、俺には魔法が必要だということだろう。


「ふっふっふ。というわけで、再び私の登場ですね」


言わずもがなリョクである。


「精霊魔法には微物塵濁びぶつじんだくというものがありましてねぇ」

「まぁ、端的に申し上げますと魔法使いとかが使う炎渦ファイアウォールとか爆炎エクスプロージョンみたいな範囲魔法です」


ふんす、と鼻息を鳴らしながらリョクは説明する。

というわけで、俺は前に倣ったように契約呪文を唱えてからそれを放った。

あぁ、もう字数を稼ぐとか言うつもりは無いので、ここではもう書かないぞ。


微物塵濁びぶつじんだく!」


するとどうだろう。

俺の周囲は砂嵐が起きた後のように、何やら黄色い塵のようなものが空中を舞い始めた。

とても体に悪そうだ。

いや、普通に悪いだろ。


「大丈夫ですよ~。これはモンスターにしか効かないものですので」


なら安心だな。

ともかく、この魔法の範囲内に入って来たバレットコインは途端に動きを止め、ボタボタボタと落ちて行く。

それをプチプチプチと剣で刺したり、面倒なので足で踏んだりしながらちまちまと倒して行った。

そして、それと引き換えに思わぬ大金をゲットしたのだが、あまりにもバレットコインの数が多かったこともありプチプチしてるだけで夕方となり、今日のお仕事は終了した。


「いやぁ、帰ったら何奢って貰いましょうかねぇ」 by リョク


「うちは応援してるだけやから天ぷらうどん1杯でええで」 by 千里


「私は燒梅しゅうまい用にクシが欲しいにゃ」 by 拇拇


「今度こそは家にお金を入れて欲しい」 by ユウキ


「ふんっ、貴様がどうしても奢りたいというのであれば受けても良い」 by ジャンヌ


「ほっほっほ。では私奴わたくしめはアップルパイの材料購入のお手伝いを頂けると助かりますな」 by 先生セヴァスティアン


「うーん、何が良いと思う?燒梅しゅうまい?」 by 小春


「ウァウァウァ(何言ってるのか不明」 by 燒梅


疲れて帰って来て早々の彼ら彼女らの主張を、俺は華麗にスルーしたのは言うまでもない。


‥‥‥。


次の日、とうとう大物が現れた。


それは3mはあろうかという巨体に、一際大きな一つ目。

筋骨隆々にして利き手と思しき右手には、俺の背丈ほどの棍棒があった。


「いきなりサイクロプスかよっ!」

「一体どういうことだ…これは…あ、もしかして、俺ってそんなに強くなっちゃったとか?」


「それはない」


「ん?」


何時ものような拡声器による声ではない。

というか、真後ろから聞こえるのだが。

俺は後ろを振り向いた。


「なんでお前いるの?」


「蒼治良のシャツがズボンから出てた」


何てことも無い、という風に答えるユウキ。


「おー、そうだった」


ててて、と駆けてユウキはキャンプ地に戻って行った。


「ちょっ!おまっ!手伝って行けよっ!」


「死んだら手伝う」


いや、そこは拡声器じゃなくて近くまで来て言ってくれ。そして、手伝ってくれ。

キャンプ地に戻ったユウキは既に体育座りをして、観戦モードに突入している。

次の瞬間、俺を包み込むような影が襲う。

危険と判断した俺は瞬時に、右側面へと一目散に駆けた。

影から逃げおおせると同時に、背後からは大きな振動と共に背中に石礫と思しき衝撃があった。


「痛ってぇっ!」


特に尻に当たったぶつが痛かったが、運よく尻穴にピンポイントで中らなかったのは幸運であった。

後ろを振り向くと、やはりというか、サイクロプスが振り下したこん棒がそこにはあった。


「ホント、空気読んでくれないよな。ここの敵」

「くそ、こうなったら『微物塵濁びぶつじんだく!』」


しかし、サイクロプスには全く効果が無かったようだ。


「いやぁ、流石にサイクロプスみたいな大きな敵には通じないですよぉ」


拡声器でのリョクが言う。


「しかたないですね。また新しい呪文を授けましょう」


こうして俺が放ったのは『晦冥闇霧かいめいあんむ』という精霊魔法。

闇の霧を発生させて、相手の視界を奪う魔法らしい。

てか、リョクのやつ碌な精霊魔法くれないな‥‥‥。


そんな事を思いながらも、サイクロプスには効果があったようで、俺を探そうと周囲を見渡していた。

いや、俺お前の真ん前にいるんだが。

そんな事を思いながら、念のため奴の股下をくぐり抜けて背後に回ると、奴が作り出した石礫を後頭部に目掛けて投げた。


「グォ!?」


それに気付いたサイクロプスが振り向いた瞬間を狙って、俺は奴の目に目掛けて精霊剣プリズラークをぶん投げた。


ブスリ。


「グッ!グウオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


剣はサイクロプスの目に見事に突き刺さり苦悶の表情と雄たけびを上げる。

そんな苦痛の中、俺の突き刺した剣を引っこ抜くと無造作に投げ捨てた。


それを回収した俺は、その装備・・すると、両ひざを地面に付けて悶絶しているサイクロプスの頭上目掛けてジャンプし首を刎ねたのだった。


そして、キャンプ地に帰還。


「流石は私の夫」


玄関を開けたら妻が待ってたみたいなシチュエーションを作って誤魔化そうとしても無駄だぞ。


「まぁ、ええやんええやん。結果オーライやで」


「そうにゃ。これでようやく帰れるにゃ」


「え?どゆこと?」


どうやら、俺が精霊剣を装備出来るようになるまでは、この部屋から出られない仕様になっていたらしい。


「では、本日が最後の夕食で御座いますな」


先生セヴァスティアンはそう言うと、小春と共にカレー鍋を持って現れる。


こうして俺達は円になって、中央に焚き火をしながらカレーを美味しく頂いたのだった。

食事が終わって少し休憩をしたあと。


「さぁて、最後の風呂にでも入るかな」


俺は、いつものように風呂の扉を開けて中へと入って行き‥‥‥。

そのまま、学校へと帰還したのであった。


そして‥‥‥。


「いぃぃぃぃやゃゃゃゃああああぁぁぁぁっ!!!!!!!!」


という二人の女性の悲鳴を、帰還早々に聞くことになったのであった。

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