第12話 ごちそう

昼食時の丸茂小春まるもこはるの一言により、昼に赴く場所が決まった。


「すき焼き食べたいな」


というわけで、リョクにロリコン呼ばわりされながら俺達一行は村から南に馬車で小一時間程行った先にある湖に浮かぶ小島、通称『鍋島』へとやって来ている。

ここは、鍋島篤茂なべしまあつしげという武士もどきの男が実効支配しているので一応許可を得て入っている。

どんだけ日本人の転移者いるんだよ。


今回は食材も多いのため、いつものメンバー+先生セヴァスティアンも加わってくれた。

担当は以下のとおりである。


セヴァスティアン・・・ミノタウロスの討伐によるミノタウロス肉の獲得、およびコカトリスの巣から卵の採取


百合小路綾香ゆりがこうじあやか、同葉月、豪渓寺侃三郎ごうけいじかんざぶろう、同けい・・・八目やつめミクの討伐による長ネギ、およびシラタキ婆から白滝しらたきの受け取り


俺、ユウキ、ジャンヌ、赫連拇拇かくれんもも宇佐千里うさせんり熊猫パンダ燒梅しゅうまい・・・トーフ・ザー・ダイズンからの豆腐の回収およびアンタワーエノキからエノキ、シー樹から椎茸、キクナから菊菜の採取


こうして3隊に分かれて、今俺達がしているのはちょうどトーフ・ザー・ダイズンを倒してドロップした豆腐の回収である。

豆腐だけに適当に取っていくとボロボロと崩れ去り、そうなると豆腐は光の粒となって消えてしまう。

そのため、そのたびに。


「貴様っ!食べ物を無駄にするなっ!!!」


という、いつものジャンヌのパワハラを受けながら回収している。

だが、実際に豆腐を一番駄目にしているのはジャンヌであって、こいつはやはり戦闘以外はからっきしのようだ。

俺は懐の深い男だから、そういうみみっちいことは指摘しない。

なんて良いやつなんだ、俺。

そろそろデレてくれてもいいんだぞ。

俺の妄想に気付いたのか10m程離れているジャンヌは身震いをして周囲を見回していた。


あ、ちなみに、この島だけは何故か雪が降っておらず常春とこはるのように温かい。

いったいこの世界の気候はどうなってるんだ?


次はエノキの採取である。


「あー、こいつがアンタワーエノキなのか…」


俺はてっきりプロレスパンツを履いた奴を想像していたのだが、単純に人間くらいの大きさのデカいエノキだった。

しかし、そこは異世界。

しっかりとドスンドスンと飛び跳ねながら移動している。


「アンタワーエノキはデカいだけで弱いので安全」


ユウキの言葉どおり、俺のロングソード+0でもさっくりと攻撃が効いていた。

更に言えば、踊り子ダンサーの千里ですら装備しているナイフで倒せてしまうくらいだった。

まぁ、所詮エノキだし。

先程の豆腐と違って、結構適当に扱っても崩れ落ちない所は楽だった。


「いやぁ、今回は楽でいいですねぇ」


そう言うのは千里のおっぱい風呂の中にいるリョク。

いや、お前はいつも楽してるだろ、と心の中でツッコミを入れた。


次はシー樹。


「おぉっ!めっちゃ椎茸生えてるな」


俺はそう言うと、早速椎茸をプチっと刈り取った。


「あ、あかん!そんな雑な取り方したらっ!」


背後からする千里の言葉に俺が振り返ろうとした瞬間、頭上に固いものが落ちて来た。


「いっ…てえぇっ!!!!」


頭をさすりながら地面に目をやると、巨大な椎の実がそこにはあった。


「シー樹は、椎茸を優しく採取しないと怒って椎の実を投げてくる」


「それは先に言ってくれ…」


頭をさすりながら言う俺に、ジャンヌは冷たかった。


「ふんっ、勝手に採取するお前が悪いだけだ」


そう悪態を吐いたジャンヌであったが、その後採取を始めてからずっと頭に椎の実を受け続けている。

だが、痛そうにもせず平気な顔をして次々と採取を続けていた。


「あれ、痛く無いのかよ…」


「あの子は防御力だけはパーティ随一だから」


そんな俺の疑問に、いつものようにちゃっかり俺の側で採取しているユウキが答えた。

そんなジャンヌとは真逆に燒梅しゅうまいは一度も椎の実の攻撃を受けることなく、ひょいひょいと採取して行っている。

ジャンヌ、パンダに負けてるぞ。


とこんな感じで上手く事が運んでいたのだが、最後のキクナに俺達は手こずっていた。

いや、厳密に言えば俺だけが手こずっていたのだ。


「ねぇねぇ、あたいと良いことしない?」


黄色のロングヘアーをしたぼっきゅんぼんのお姉ちゃんモンスター『キクナ』が相手だったからだ。

時は、少し前に遡る。


「ええか?菊菜が回収できるかどうかは蒼治良そうじろうはん次第や」


「どういうことですか?」


千里によると、何でも菊菜をドロップするキクナというモンスターは人間・・にしか興味を示さない為、パーティに男がいなければそもそも出現すらしないのだ。

そして。


「キクナの誘惑に打ち勝つと、菊菜をばら撒いて去って行く」


これはユウキの発言。


というわけで、現在に至る。

ちなみに、誘惑に負けてキクナに手を出すと菊菜をばら撒いてくれないので、俺は両手を縄で縛られた状態でキクナの前に放り出されている状態である。

いわばである。

そうこうしているうちに、キクナの色白の手が俺の大事な所を宛がっていた。


「ほら、ここはもうこんなになってる♡」


すりすりすり


おぉっ!止めて!我慢出来なくなっちゃうっ!


「うわぁ…大丈夫ですかね。アレ」


リョクは千里のおっぱい風呂を堪能しつつ言う。

あ、ちなみに、俺とユウキを介したメインとサブチャンネル放送だから、決して遠くから発言しているリョクたちの声が俺に聞こえているという訳ではない。


「陥落しそうやなぁ…」


「全く…だから、あいつにさせるのには反対だったんだ」


「他の3人が断ったから仕方ないにゃ」


「ウァ」


「キクナの事を知らなかったのは蒼治良だけ。選択肢は無かった」


とまぁ、俺が居ないのをいいことに好き勝手言っている。


「でも、蒼治良は今日も正常」


俺の股間を凝視しながら、ユウキはふんすとドヤ顔で鼻息を鳴らす。


「いや…でも、もう駄目そうやで?」


千里の言うとおり、俺は顔面にキクナがぽふぽふと擦り付けてくるおぱーいに、もう辛抱たまらんと俺の鉄のような意志とは裏腹に何とか縄を外そうと本能が体を動かしていた。


「………」


ひゅっ


「あぅっ!」


俺は何か風を切るような音を聞いたのを最後に気を失ってしまい、次に目を覚ました時は馬車の中であった。


「目を覚ました」


そして、開眼一番に視界に入って来たのは俺を見下ろしているユウキの顔。


「あれ?…俺いつの間に寝てたんだ…」


俺は上半身を起こすとズキズキとする頭をさすった。


「それはキクナにやられた痕」


「そうか…結局、我慢出来ずに失敗したか…」


「大丈夫、菊菜は無事にゲットできた」


ユウキはそう言うと、グッと親指を立てる。


「………」


「………」


俺達は互いを見つめ合う。

場面によっては好き合ってる男女が見つめ合う感じかも知れないが、俺は明らかに疑いの目をユウキに向けていた。


「まぁ、菊菜をゲット出来たからいいか…」


ともかく、俺達一行は無事に『すき焼き』の材料を全て手に入れることに成功し、またもや幼女…いや女児…いやいや、子供の笑顔を守ることに成功したのだった。


【追伸】

キクナは陰で俺達を見守っていた鍋島篤茂がお持ち帰りしたらしい。

くそっ、うらやましい。

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