第2話 詰め込み過ぎ
俺とユウキが馬車まで戻って来ると、既にみんなは各々の作業が終わったようで俺達の帰りを待っていた。
「遅かったにゃ」
『にゃ』とかいう特定層を狙ってる感のあざと可愛い語尾を付けて俺達のそばにやって来たのは、ぴょこぴょこと猫耳と尻尾を動かし際どいチャイナドレスっぽい衣装を身にまとった
「済まない、待たせてしまった」
「いいにゃ、いいにゃ、ウチらもそんなに早く帰って来たわけじゃないしにゃ」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
「ったく、貴様は何時までかかっているんだ!」
「おいっ!聞いているのか!?」
とかいう、くっころ系女騎士ジャンヌの言葉は聞こえないふりをして、
「ウァ」
その後、俺は…というか横にピッタリとくっ付いてくる小型生物のユウキと一緒に遅れて戻ってきたことを詫びるべく、
さて、俺は一体何人と会話したでしょう?
あと、もう分かったと思うが、ジャンヌとユウキ以外は地球からの転移者だ。
「ちょっとー、私を忘れてもらっては困るんですけどー、ぷんぷん」
そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
どこからともなく、というのは間違いだな。
どこにいるのかは、おおよそ想像は付いている。
「わっ!っと!」
そんな千里の声と共に、その得体の知れない何かは俺の前に現れた。
「得体の知れないとはなんですかー、ぷんぷん」
俺の心を読まないでほしい。
「あー、悪い悪い。ワスレテター」
ちなみに、得体の知れない何かは妖精リョクといって、俺がこの世界にやってくる前に時空の回廊という場所で出会ったやつで、俺をこの世界に転生させた張本人でもある。
もっとも、本人が言うには自分はあくまで転生執行代行者であって、転生執行責任者はニェボルニェカ・D・イルカナトワという女性らしいのだが。
「ぷんぷん。私にそんな態度じゃ、その腰に差している精霊剣プリズラークはずっと使えないままですよぉ」
さっきから、ぷんぷんと言ってはいるものの、全然怒っている風はなく恐らく芸風なのだろう。
そんな妖精リョクを適当にいなし、俺達は学校へと帰るべく馬車に乗り込んだ。
あ、さっきリョクがどこに居たのかというと、千里の胸の中だ。
「おっぱい風呂最高!」
とか、いつも言っているので恐らく間違ってない。
ほら、言ってる側からリョクは千里の胸の間に入り込み『ぷはぁ』と銭湯風呂で頭の上にタオルを乗っけたおっさんのようにくつろぎ始めていた。
ともかく、俺達一行は馬車いっぱいに詰め込んだ大量のカレーの材料と共に学校のある村へと戻った。
カレーの材料を売ってお金にするのかって?
普通ならそう思うのだろうが、この世界はモンスターを倒した分だけ討伐金がギルドより支払われるシステムになっているので、こういったアイテムは物々交換という形で使うのが主流である。
具体的にいうと…。
「あ、みなさん。おかえりなさい」
まず最初に寄ったのは、村唯一のお食事処まりも食堂。
出迎えてくれたのは、この食堂を切り盛りしている夫妻の一人娘であり看板娘でもある
可愛らしい子であるが大人に混じって仕事をしているせいか、なかなかにしたたかな娘でもある。
ともかく、俺達男衆は次々と裏口から食料を運び込んだ。
無料で大量の食材を提供する代わりに、この食堂で食事をする時はタダで提供してくれる。
そんな持ちつ持たれずの関係である。
「いつもありがとうございます!」
「今度お客さんとして来られた際は、いっぱいサービスしちゃいますね♡」
と、別れ際にいかがわしい言葉を頂いたが、勿論そんな意味合いはない。
しかし、一人そんな冗談の通じない者もいる。
「この変態ロリコンめっ!」
そう、くっころ系女騎士ジャンヌである。
彼女はそう言うと、俺にぴとりとくっ付いていたユウキを引き剥がした。
ジャンヌ、安心しろ。
俺はロリコンではなく、あくまで普通におっぱいの大きい女性の方が好みだ。
そんなことを思いながらジャンヌの胸部に目をやった。
「貴様っ!またいやらしい事を考えていたなっ!」
………。
次に立ち寄ったのは、村唯一の雑貨、食料品および武器防具を取り扱っているボッタクル商店。
つまりは何でも屋である。
「アイヤー、スバラシイ食材、いつもアリガトね」
そう言って受け取ったのは、店主の
いかにも怪しい名前の人であるが、似非中国人風の話し方と怪しい名前を除けばごく普通の常識ある中年のおじさんである。
ちなみに
日本人の転移者多くね?
「うわー、やったー。今日の食材はカレーだっ!ひゃっほー」
そんな感じで食材の前で喜んでいるのは、店主の娘
とはいっても実の娘ではないらしいのだが、傍から見てる分には親娘にしか見えないので何も問題はないだろう。
「アイヤー、いつも済まないネ」
「いえいえ、こちらもその分お安く購入出来ておりますのでお礼には及びませんわ」
るんるん気分の
ちなみに、似非中国人風の話し方は店主だけで、
「またよろしくー」
手を振る
「おう、おめえらか」
「成果はどうだった?」
店主の名はイワノフといい、身長こそ子供並だが侃三郎以上の隆々とした筋肉の持ち主で、自身の身長と同じくらいの長さの鉄槌を肩に担いでいる、いわゆるドワーフである。
正直、イワノフと侃三郎が同じ部屋にいると、なんかこう温度が急に上昇した気分になる。
そんな事はどうでも良く、話は進んでいた。
「こちらになりますわ」
「おぉ、結構いい感じじゃねーか」
カレーに入れる
なお、俺はミノタウロス戦には参加していない。
「イワノフさんは体力仕事ですし、他の方以上に奮発しておりますわ」
ほほほ、と綾香は優雅に笑う。
「有難てぇ。んじゃあ、遠慮なく持っていくぞい」
そう言うと、イワノフは300kgはあろうかという
ちなみに、この鍛冶屋での見返りは修繕費半額である。
俺達が次に向かったのはギルド。
「おぉっ!無事に帰って来おったか」
自身の身長以上の
なお、年齢は村の誰も知らないが話し方からロリババ…いや、よそう。
「ん?なんじゃお主、たった今失礼な事を考えておらんかったかや?」
「そんなことあるわけないじゃないですか。ロリーナさん」
「まぁ、ええわい」
「そんな事より、揃いも揃って来たという事は、万事上手く行ったという事で良いのかや?」
ロリーナさんは、綾香を横目に訊く。
「えぇ、勿論ですわ」
「それに、ギルドにもおすそ分けもありますのよ。ほほほ」
「おおっ、
「ふっふっふ。
「
そう言って二人は高らかに笑い合い、そんな二人を他所に俺達はギルドへのおすそ分けの搬入を行った。
「まぁ、それはともかく。ええっと…今日の討伐…は…っと…」
「ルゥ樹3体に、キャロリン72体…ホクホク88体にオニオンマ113体…んでミノタウロス1体…これで良いかや?」
「えぇ、間違いありませんわ」
「うむ。では、しばし待つが良い」
そう言って、ロリーナさんは奥の部屋へと入って行った。
この世界では、討伐申請によって報酬が得られるのだが、仮に申請書に嘘を書いたとしても何故だかバレるシステムになっている。
ゲームだと自分のこなしたクエストは意識せずとも記録されているだろ?
そんな感じで、この世界でも何か良く分からない力によって記録が残っているようだ。
「待たせたの。申請どおり間違いなかったぞ」
「というわけで、討伐報酬じゃ」
ロリーナさんは、そう言うとテーブルの上に布袋を置いた。
「ありがとうございます」
綾香はその布袋を手にしてお礼を言い、俺達もロリーナさんにお辞儀をしてギルドを後にしたのであった。
ちなみに、中身を確認していないが、これも世界の理のようなもので中身が違っていたりすることはない。
そんなこんなで、俺達は村を後にして学校へと向かうがもう一つ寄る所があった。
とはいえ、学校への帰路の途中にあるので寄り道をするわけでは無い。
村から少し離れたところにそれはあった。
「汝、神を信じますか?」
「ちなみに、私は信じていません」
俺達を前にそう言い放ったのは教会風の建物に住む主で、シスター服を身に纏ったデアボラという女性である。
ちなみにここは花屋である。
「おぉ!それは正に神への供物ですね」
「神なんて信じてませんけど」
デアボラさんは、そう言って俺達の持ってきたおすそ分けを受け取った。
「ところで、デアボラさん。今日の戦闘で結構な数の傷薬を消費したんですの」
「あ、あと、
「OK、OK、オーケー牧場です」
「ここ、牧場じゃないですけど」
デアボラさんは俺達に背を向け、棚を開けて少しばかりの間ゴソゴソとした後、二つの布袋をテーブルの上に置いた。
「これぞ神より賜りし品です」
「まぁ、実際は私が畑で栽培したものですけどね」
「あ、こっちがコーモギの葉で、そっちがサルビアの花です」
こうして、俺達はおすそ分けの代わりに薬草を手に入れて、今度こそ学校へと舞い戻った。
「おぉ、お待ちしておりましたぞ」
そう言って現れたのは学校の校長兼教頭兼教師の執事服を身に纏った老紳士、名をセヴァスティアンという。
「しぇ…先生!お、お、お、お、おきゅ…遅れてもうしゅ…申し訳ごじゃ…ございましぇん…せん」
顔を真っ赤にしながら、それは言った。
ちなみに誰かと言うと、今日一日散々俺を罵ってくれた女騎士ジャンヌである。
ジャンヌ自身は隠しているつもりなのだが、この老紳士セヴァスティアンにほの字であるのは全員知っている。
まぁ、ここぞとばかりにやり返しても良いのだが、俺はそんなにみみっちい性格ではないので、助け舟を出してやることにした。
「先生。遅れましたが、無事に戻って来れました」
「今回
「おぉ。それはそれは大変で御座いましたな。ジャンヌ殿」
「これからも
「ひゃ…はい…ありがとうございます」
「天地神明にかけ身命を賭してでも彼の助けとなれるよう
天地神明にかけ身命を賭してと言いながら、最後が努力義務なのはどういうことだ?
まぁ、いいけど。
そんなわけで、俺達は汚れた体を洗い落とすべく風呂に入り、先生特製の料理を堪能して本日の疲れを癒したのであった。
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