第一幕「白鳥の湖」

「ねえ、ツバサ、今週の土曜日、一緒に『白鳥の湖』観に行こうよ! 私の友達が、“オデット” を演るんだ!」  


 マーケティング総論の授業が終わり、眠たい目を擦りながら学食へと向かう俺を、黒のレースアップブーツを履いた里奈りなが、猪突猛進の勢いで取り押さえ、馴れ馴れしく俺の右腕をむんずと掴みながら、言った。


(ああ、昨日、コイツに告白されて、OKしちゃったんだっけ……)


「えーっ、やだよ、俺、バレエなんて興味ねーし。女の友達誘って行けよ!」


 俺が、生欠伸をしながら、気怠そうに答えると、里奈はぽってりとした唇を尖らせながら言った。


「友達に、彼氏連れて観に行くって言っちゃったんだよー。チケット代は、もちろん、私持ちだし、ランチもゴチるから、お願いっ! 女同士の付き合いもいろいろ大変なんだからさぁ。協力してよー。“彼氏” でしょ?」  


 くだらない女同士の見栄の張り合いに辟易しながらも、俺は、結局、里奈に押し切られるような形で、『白鳥の湖』を観に行く羽目になった。  


 皮肉なことに、俺は、『白鳥の湖』の舞台を観に行ったことで、”エリカ”という、俺にとって最初で最後の”女”と出逢い、そして、里奈は、女同士のくだらない見栄の張り合いが災いして、俺に、こっ酷くフラれることとなった。ある意味、里奈は、俺と”エリカ”を引き合わせてくれた天使だったのかもしれない。

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