『迷子の亀ちゃん』篇
第29話 迷子の迷子の亀ちゃん。
「我はこれより全集中タイムに入る。邪魔をするでないぞ。」
ある日のターボン学園風紀委員活動室にて。
信長は週刊少年フライを開きながら結衣にそう伝えていた。
「『全集中』ってのヤバいから、本当にヤバいから。」
「黙りたまえ。」
「はい、すみません......」
自由奔放な信長は今日もマイペースに生きていた。
そんな信長がフライの1作品を読み終えた頃、風紀委員活動室の扉を誰かが勢いよく開けた。
「君たち、お疲れ様なのだ!」
「お、お疲れ様です。」
ミラン先輩だった。
「さて君たち、早速仕事の時間なのだよ!」
「また仕事ですか。もう少し、休暇が欲しいんですけど。」
風紀委員のメンバーは、先日起きたとある事件で負傷していた。
ミラン先輩による完璧な回復のおかげで既に完治しているが、なんとなぁく休みたい。
結衣とイリスはそう考えていた。
「ボクたち風紀委員に休みなどない!」
と、ミラン先輩は言いきる。
えー、と言いながらも結衣たちは姿勢をただし仕事の内容へ耳を傾けた。
「さて、今回の仕事とはこれだ!」
そう言ってミラン先輩が持ってきたのは1つのダンボールだった。
「なんですか? コレ。」
「まぁ、見てみれば分かるさ。」
結衣とイリスはそっとダンボールの中身を覗いた。
そこにいたのは、手のひらサイズの1匹の亀。そして、置き手紙のようなもの。
結衣は、ダンボールに入っていた置き手紙を読んだ。
「飼ってください。」
飼いきれなくなってしまったのだろう。捨てられた亀が風紀委員に行き届いたのだった。
「か、可愛そうにィ。」
そう言ったのはイリスだった。
「という事で今回のボクたちの仕事は、このカメノスケくんの飼い主を探すことだ!」
「飼い主を探す......」
「もちろん、飼い主が見つかるまでは、ボクたちが責任もって世話をするよ!」
「なるほど。」
結衣は、ダンボールの中から亀を出してあげた。
「さぁ、みんなカメノスケに挨拶をするのだ。」
と、ミラン先輩が言う。
「カメノスケってこの亀の名前ですか?」
「その通りさ。我ながら良い名だろ?」
「え、えぇ。そう、ですね。」
結衣は、苦笑いしながらそう言った。
「ところで、カメノスケくん。君はどこからやって来たんだい?」
と、ミラン先輩がカメノスケに聞く。
「先輩、亀は言葉が喋れませんよ。」
と、結衣が言う。
その直後、突然カメノスケの身体が大きくなった。しばらくすると、手のひらサイズから人が座ることが出来そうなくらいのサイズまで大きくなっていた。
「カメノスケくんよ。急に成長したな。成長期というやつなのか!?」
「何が起きたんでしょうか。」
結衣、イリス、ミラン先輩は突然のカメノスケの出来事に驚き、その場から動かなかった。
すると突然、3人の間に入るように信長が割り込んできた。
「お主、なかなか面白いな。我の世界にも亀はいたが、このように成長する亀は見たことがなかったぞ。」
「つまり、オレはオマエより偉いということだナ。」
信長の言葉へ返事が返された。
信長は結衣の方を向いたが、結衣は首を横に振る。
イリスの方を向いたが、イリスは首を横に振る。
ミラン先輩の方を向いたが、ミラン先輩は横に首を振る。
信長はカメノスケを向いた。
カメノスケは首を縦に降った。
「エエェェェエェェェエエェェェェ!? か、亀が喋ったァアァアアァァアァアアァア!?」
信長の驚きの叫び声が、活動部屋に響いた。
「オマエうるさい。オレサマの機嫌が悪くなっちゃうゾ。」
「しかも、だいぶ上から目線な亀なのだな。」
信長はカメノスケを真っ直ぐ見つめながらそう言った。
「カメノスケくんよ、なぜ君は喋れるのだい?」
と、ミラン先輩。
「このセカイには自然の摂理なんかでは説明できない不可思議なデキゴトは沢山あル。そんな不可思議なデキゴトの中の1つだとかんがえたまエ。」
「ちょっと、何言ってるか分からない。」
ミラン先輩は頭を抱えた。
「どうするのさ、こんな騒がしい子。」
「いやでも先輩が飼うって決めてたじゃないですか。」
「いや、ボクは飼うって言ってないよ。面倒を見るって言ったんだ。」
「ほぼ同じですよ。」
ミラン先輩と結衣が小さな声で話し合う。
その間に、信長はカメノスケと手を繋いだして仲良くしようとしていた。
「おい信長。」
「なんだ、カメノスケ。」
「ハラが減っタ。ゴハンをくレ。」
「何を食べるのだ?」
「エサダ。亀用のエサをオレに食べさせロ。」
カメノスケの要望を叶えるために、風紀委員を代表してイリスがペットショップにエサを買いに行った。
「ハァハァ、これで、いいのよねェ。」
「上出来じゃないカ。褒めてやるゾ。」
30分ほどが経過した時、ペットショップの袋を手に持ったイリスが汗を大量にかいた状態で帰ってきた。
カメノスケはエサを確認すると、自分でそのエサを開けて食べ始めた。
そして、しばらくすると自分でエサを閉まった。
「お腹いっぱいになったゾ。」
「それは良かったよ。」
と、結衣が言う。
「お腹いっぱいになったら眠くなってきたゾ。」
「え、じゃあ寝る?」
「そうさせてもらウ。」
カメノスケはそう言うと、その場ですぐに寝てしまった。
「結衣くん。」
カメノスケが寝たことを確認したミラン先輩は、そっと結衣の肩に手を乗せた。
「また気分屋な奴が集まってしまったな。」
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