あいのものがたり 3/4


 うちのにゃんこルイが迸り、お見苦しい所をお見せしまして大変に失礼致しました。

 少しばかり恥ずかしがり屋で、本人は照れ隠しの様ですが隠せて無いのはバレバレですよね?

 それに被せる様に逆ギレまでして刹那的に見境が無くなる事も在りますが、どうかご容赦ください。


 ルイに先走られても困りますので、一つだけお約束させて戴きます。

 にゃんこが動物愛護団体に直談判しても相手にされないどころか、ご迷惑をお掛けするだけなので自重する様に云い聞かせたいと思います。

 もし仮にそれが叶ったとしても『にゃぁにゃぁ云ってるな』くらいにしか思われないと想像出来ます。

 きっとそれが正解なのでしょう。


 ここからはルイの診療初体験の様子を暴露して参りましょう。

 あの頃のルイは誰が見ても生後間もない仔猫でしたので、待合室で診療を待っている他所さまの猫ちゃん達も興味津々に眺めてるようでした。

 その中にとても大人しくて優しそうな子が居て穏やかに近付いて来ました。


 飼い主さんがキャリーバックから出して居る所から察すると、動物病院にとても慣れてる様子。

 その子は細いリードを付けて抱かれてる膝の上から降り、ある程度は自由に動ける範囲に居るルイを覗き込み何か語り掛けてくれてるみたいでした。

 その光景が私には母性に溢れた猫ちゃんがルイに『心配ないよ安心しなさい』と宥めてくれてるように見えてなりません。

 その証拠に少しずつ落ち着きを取り戻し、混乱して私に懇願する表情から安堵した顔に変わると泣き止み、そしてルイは眠ってしまったのです。


 それは幼子が泣き疲れて眠るのと同様に感じ、ルイにとってとてもラッキーな出会いだったと云えるのでは無いでしょうか。

 その子は診療室に入って行くまで、眠ってしまったルイを見護る傍らに寄り添い、子守唄でも聴かせるように小さな声で鳴いてくれて、とても面倒見の良いお姉さんと云った印象でした。


 もしかしたら、毛並みや色も似ていましたので本当に姉妹なのかも知れないと思ってしまいますが、DNA鑑定でもしなければ確認する術は無いでしょう。

 もしもルイに姉妹がいたら逢わせてあげたいなと考えたりしますが、大袈裟な事をしようとは思ってないので妄想する程度に留めて置きます。


 余談を挟んでしまいましたが、その後のルイは取り乱す事なく診療の順番が来るまでスヤスヤと眠り続けたのです。

 が……診療室に入り先生と対面すると途端にギャン泣きしだし、助手をしていた看護師さんも苦笑してました。

 その時に私が感じたのは

『この先生って動物に嫌われるタイプなのか?』と……



 ここまで恥ずかしい事を、しかも盛大に誇張して暴露されると思わなかったわ。

 ちょっとお姉さんが『大丈夫よ』と云ってくれただけのお話じゃない。

 それを泣き止まない仔猫のあたちを見かねて、あやして寝かしつけてくれたみたいに云ってご主人の眼は節穴なの?

 眼に映る事をちゃんと見て真実のみをめんたまかっぽじって語る義務と必要があると思うの。よくみやがれ!


 そうそう思い出したわ。

 あの時に会ったお姉さんはそれから一度も見てないのよ。

 こんど会ったらお礼を云いたいのだけど……

 あたちが美容と健康には猫いち倍に気を付けてるから、動物病院に行く機会も限らてタイミングを合わせるなんて出来ないからどうしたものかしら……


 ねぇ、ご主人。

 あのお姉さんに連絡したいのだけど携帯とか聞いて置いてくれた?

 メアドでもSNSでも良いから何かない?

 このお話しが済んだ後で良いから教えてよ。

 お願いね。


 ちょっとアウトバーンしてしまったからお話しを戻すと、診療室に入って先生に会った時の事だったわね。

 ご主人は誤解していてあたちがギャン泣きしたって云うけど、あれは寝てたのを起こされたから欠伸しただけなのよ。

 欠伸ってすると涙も流れちゃうでしょ?

 情景反射だし、例えるならハンバーガーセットにはポテトとドリンクが付くみたいなもので、止めようが無いからそれを泣いたって云ってるだけ。


 ものごとを多方面から見て複合する事柄の認識や分析といった能力が欠如している上に、表層のある一面から判断しようとするご主人ヒトって、本当に困ったちゃんだわ。

 あたちの優秀さの一端しか知らない方にお話ししてるのだから、正確に伝えてくれないとあたちが貶められて認識されちゃうじゃない。


 この明晰な頭脳と可憐な美貌は他の追従を許さない突出した才能なの。

 それこそ世界随一と言い換えても良いわね。

 そうよ。

 あたちは世界的に貴重な財産で世界遺産と並び起つ程なの。

 だから、最大限の敬意を払って接するべきあたちと云う存在を、崇め奉り畏怖して平伏すと良いわ。



 また軽く迸ってる様なのでここは私が締めないとなりませんね。

 それにしてもにゃんこが、携帯やらアカウントやらを普通に持ってることに何の疑問を持たないなんて、どんだけ沸いてるのかと心配になって来ますが、そこは華麗にスルーしましょう。


 敢えて言及したくないのですが……

 ルイに悪影響が及ぶと苦労するのは私なので、蛇足なのを承知で付け加えます。

 いったいどうすれば、にゃんこの手でタッチパネル操作やキーボードを叩けると云うのだろうか?

 少なくとも私は「猫の手は借りない」とだけ……


 要約すればルイがギャン泣きしましたと云うお話になりましたが『泣いた』で思い出したエピソードが在りますので、良い機会ですから続きはその事を取り上げてお話しましょう。

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