第32章 楽園の10戦士の襲撃は単純に力比べではない
今の涙 あの時の涙
公園で学生男女がすごい剣幕でケンカしていた。
「こずえ、ちょっとな話聞けって!」
秋野こずえがわめき始める。
「うるさい
『ただの腐れ縁さ。だーれがあんなガサツな奴に惚れるかよ。誰とくっつこうが別に僕は知らないね!』
わたしあの一言で涙が止まらなくなったんだよ!
その言葉を聞いた時は、彼女の表情は硬直し、涙だけが動いていた。
あれで、言い寄ってきてた男の子と付き合うことにしたのに、もう望みがない『あなたの代わり』で! わたしはあなたの隣の席に座る資格がないんだって、あの言葉で思いつめたのに!
なのに今更なに!?」
「もう偽りの恋はやめようって決心したんだ。だから今こうして。それにお前……雨だっていうのに、ずぶぬれで、心配で」
正確には雨じゃなく、サリサの
「大きなお世話よ! イリナちゃんと付き合いなよ! わたしが紹介した彼女と!!」
聞いていたミハエルは、それ(ただの腐れ縁さ~)は強がりだな、と断言した。
水鏡冬華は、表情を硬くしている。
「君も泣かしたことあるもんね、わたし。ああいう男の子と同じカテゴリーのこと言ってさ。男は魔が差して口に出ちゃうことがあるんだ。思ってもいない事が。
『あんな女。外ズラが母さんに似てるだけ。わたしの願望☆13の時に人としては家庭内暴力で死んで竜神の姿で天に上った母と二人暮らしができる☆が叶うし傍に置いてるけど、もうちょっと丸くなってくれればな~。
彼女の女にしては男らしい度胸のある部分、人格はかなり気に入ってるんだ。だから、もうちょっと丸くなってくれればな~。
わたしはフレッドとアリウスと暮らしてた方がいいよ。女なんかより。
なんか腐れ縁があったぽいけど、それだけじゃない?
付き合ってみたら思いのほか気が強いでやんの。いや、母さんの方が気は強いが…………。
母さんに似てなかったら相手してたかどうかわからんな。
母さんは好きだが、掃除してる時とか母のパンツ見えてたが、遺伝子のストッパーの優秀さか当時ですらわたしより若く見える母に恋愛感情も劣情も抱かなかったんでね。だから、という気持ちもあった。
わたしなんかに執着せずにさ。もっと大事にしてくれそうな男の所に転がり込んだらいいのに。
女とズッコンバッコンするより魔導ネットのMAD動画見る方が面白いもん~。と思っていたのかぁ?
わたしはフレッドとアリウスがいればいいんだから。
冬華の事は好きだ。けど、女ならもっと自分を大事にしてくれそうな男を選べよ。自分の人生なんだから。
男は気に入った女なら自分以外の所の方が幸せだなって思ったら笑顔で手放すんだから。巣立ちさせる』
っていったら大泣きしたよね。君みたいな強い女が大泣きするなんて夢にも思わなかったから本当困惑したよ、冬華。フレッド、アリウスもいる前で大粒の涙がぽろぽろこぼれて…………アレはビビった。
フレッドが慌ててたけどな。『おいミハさん、今ので女のタブー2、3個踏み荒らしてんぜ!』ってわたしの肩叩いてたけど彼」
「あのとき、真っ白になった。涙が流れるの全然止められなかった。思い出したくもない」
水鏡冬華は、表情を硬くしたまま、そう呟いた。
「正直、売り言葉に買い言葉でケンカ始まるぞ~って思ってたから困惑した。
男は、あんな風に世界の終わりみたいな表情で女に泣かれると、どうしていいのかわからず、困惑してしまう。あの時、その場にいることが、いたたまれなくなった。
あの男女のケンカはわたしたちのあのケンカを思い出させる」
懐かしそうにミハエルは男女のケンカを眺めていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「あなたなんか嫌いよ!」
(こんなこと言いたくない。こんなこと思ってないのに、どうして口からついて出るの)
「こずえ、君が好きだ」
(あぁ、ずっとほしかった一言)
「
フーッ、フーッと歯を噛みしめながら泣き顔で
(あぁ。言ってしまった。未来がない。もう終わり。わたしが終わらせた。思ってもいない事ばかりいう大嫌いなわたしが。最低なわたしが。わたしの恋は、今…………)
「大嫌い! 二度とわたしの前に現れないで!」
(彼が勇気を振りしぼって言った好きも、彼の想いも、自分の恋も、わたしが壊した)
「あー…………あはははぁーは…………はははーーーーーー。
もういいでしょ。ひとりにして」
彼女の震える肩を男子の手が掴む。
「聞こえなかった? ひとりにしてって」
「なら手を払えばいい。手を掴むんじゃなくて」
「…………なんで」
「なにが」
「…………なんでひどい事いうわたしに嫌気差さないの」
「本心が顔に出てるから。幼馴染だからね、わかるよ」
そういって、
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「一緒にいるからね。わかるわよ」
水鏡冬華がずぶぬれの男女を見て言う。
「ミハエルのアレが本心じゃないってことくらい」
といってミハエルの手を掴む水鏡冬華。
俯き加減なので分かりにくかったが、水鏡冬華の唇が笑っているように見えた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
イケメンのクロード=ガンヴァレンは目の前の人物にひとり戦慄が走った表情をしていた。
「わたしの『推しの男』久しぶりだね。再開を待ち遠しく思っていたよ」
クロード=ガンヴァレンは男である。当たり前だが。
クロード=ガンヴァレンが戦慄を走らせてみている相手は、女性風に見えるが、男である。
「みずき…………みずき=キャンベル・フリン…………」
目を見開いて、手をわなわなさせて硬直するクロード=ガンヴァレン。
「どうした。クロード?」
ミハエルが部下の異常に気付いた。
「僕の当時の彼女を襲ったんですよ……彼女は乱暴されました。僕のために」
「きみのために…………? ん…………? 最初っから君が目的で君の彼女を襲ったってこと? そういやきみ、恋愛経験ありそうなのに語らないよね、酒の席でも……もしかして、目の前の今わたしを殺したいって目で睨んでいる彼が関係してる…………?」
ミハエルが混乱した様子だ。
「クロード……そいつが新しい彼氏……?」
みずき=キャンベル・フリンが恨めしい口調で問いかけるが、クロードは無視する。というか怖くて話しかけられない。クロード=ガンヴァレンは両手で股間をガードする。
「ええ…………。こいつは怖い事をいいいいいったんです。
本性を知るまでは友人として仲良くやっていたんですくうぇどね。
互いに尊敬しあっていた。前線にも並んで立つことが多かった。僕たち二人は。『戦場に恋人同士で立ってやがる』と揶揄されたモンですよ。男二人なのに」
クロード=ガンヴァレンにどもる程の何かがあったらしい。
「わざわざ僕の前で僕の恋人に乱暴したのも、僕への当てつけの為の行為だったんです。こいつの口からそうきいたんです! 彼女に乱暴している時も!! こいつは! 彼女の方を全く見ず! 僕の顔を見つめていたんです!!! みつめて地獄のナイトだったんですよ! 僕とそうして僕の子どもをはらむ妄想に浸っていたんです! こいつは!」
「…………あぁ…………ぁあ?」
ミハエルは眉を寄せて、口をあんぐりと開けて戦慄した。戦慄してみずき=キャンベル・フリンを見つめる。
「わたしは、クロードの子を孕もうとしたあの女のことは許せなかった! だからわたしの遺伝子で上塗りしたんだ!」
「………ね?」
クロード=ガンヴァレンは団長のミハエルに同意を求める。
「…………? いや、ね?…………って……」
ミハエルは混乱している。混乱魔法よりもよっぽど効果があった。
「力を君が愛する人を使って見せつけて、屈服させようとしてる……?」
ミハエルが硬直しながらも推測する。
「こいつは、僕が離れていく事に耐えきれず、そういう凶行に走ったようです。もちろん彼女とは別れることになりましたよ! こいつのせいで! あのままいたら僕はこいつに掘られていました! ぜったい!」
「……………掘りなんてしないさ。だって君がわたしのを掘るんだから。わたしのやおい穴を」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっそんなもんあるかっ!」
フッ、と満足そうな笑みをみずき=キャンベル・フリンは見せつけた。クロード=ガンヴァレンは体をのけぞらせ、青い顔をして、涙まで浮かべて悲鳴を上げている。
「すごい…………性別を超えた恋心……」
顔を赤くし、感嘆の吐息を漏らしながら、両手で口を隠しながら、
「フッ…………」
この恐ろしい状況をセットしたのは上空に浮かぶ楽園の10戦士ルシファー=ティファレトだった。悪魔が好む性的倒錯。
みずき=キャンベル・フリンにクロード=ガンヴァレンの今を知らしめ、浮遊大陸ティルナノグにご案内したのはルシファー=ティファレトだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます