第7話 誰が見てなくても

 僕はいつも、心の中でだけ、声をかける。

 口に出したら、怪しい人だからだ。


(がんばれ。もう少しだけ、がんばれ。もうちょっとだぞ)


 家横の側溝そっこう。そのグレーチング蓋の隙間から見える。


 緑の葉っぱ。


 なんの植物かわかんないけど、排水路に芽吹いて、金属格子こうしのすぐ下まで伸びて来てる。あと少し育てば、地上に葉っぱが出る寸前。


 出たところで、何があるわけでもないけど。


 むしろ風に吹かれたり、人目について抜かれたり、大変かも知れない。

 でも、頑張ってるんだなぁ、と思うと、つい応援したくなる。


(今日も元気そうで、良かった)


 通学前の、そんなささいな日課ルーティン


 だったけど。




「おっ! ついにやったな!!」


 あ。

 思わず声に出た。



 葉っぱが、外の世界に顔をのぞかせている。

 ちょこんと。

 朝日を浴びた緑が、とても誇らしげで。

 いいもの見れた。



 良いこと、あるといいな!




       ― おわり ―

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