豹変する人

城西腐

第1話

 ある土曜日の夜。広木は車を甲州街道沿いに横付けして待ち合わせをしていた。

 世田谷区の閑静な住宅街を車で走行していて公園なんかにぶち当たると一方通行の表示に振り回される。思いの外待ち合わせ場所まで時間を要し、これ以上無駄足を踏めないと近くの交番へ駆け込んだ。デスクいっぱいに広げられた周辺地図をルーペで拡大しながら、深夜番の若い警官に目的地までのルートを示してもらい、改めて確認したルートを通じて何とか待ち合わせ場所へと辿り着くことが出来た。


 目的地で待ち合わせ相手の美々と合流する。

「何か久しぶりですね。お元気ですか?」

「余り元気ではないかな」

「元気なら今日こうして僕とも会っていないですよね」

「でも声掛けてもらって有難う。気晴らし出来て嬉しいな」

「僕で良ければ話し相手になるのでいつでも言ってください」

「そう思って、今日はお言葉に甘えちゃいました」


 新宿方面へ車を出す。都内を当てもなくドライブしようと、JRの新宿駅を通過して東京駅方面へと車を走らせた。深夜のドライブは1人でも気晴らしになるのだが、たまにはこうして誰かと喋りながら夜の雑踏を駆け抜けるのも悪くない。

 日比谷から東京駅を丸ノ内、八重洲へと抜けて、そのまま日本橋まで走った所で折り返し、銀座のブランド店街を通り過ぎると右手に東京タワーが見えてくる。更に南下して第一京浜へ合流する。品川駅を通り越して、京急の新馬場駅の高架を潜るように海側の開けたエリアへ出た。工場の灯りを遠目に眺めながら喋れればと、適当なスポットに車を停めた。深夜の静寂の中で水面で揺れる工場の灯りは癒しだ。


 普段であればこんな遅い時間に女性と2人となると、どこか期待を抱きがちであるが今日の相手はそんな対象ではない。

 過労で精神を病んで暫く会社を休職している美々が少しでも気晴らしになればと、広木の方からドライブへ誘った。会話をしていると心なしか美々も気が晴れた様にいつもの笑顔が戻って来たようだ。

 少しは役に立てたと満更でもない気になっているところ、体を動かす度に腰を痛そうに伸びをする美々の動作が気になり問いかける。

「腰ですか?背中ですか?」

「横になっている時間がここのところ長いからか起きてると痛くて…」

「腰とか体の軸のなる部分が痛いと調子出ないですよね…」

「そう、そんな感じ」

「腰押しましょうか?僕結構マッサージ得意ですよ。まぁ体に触れられるのがNGとかじゃなければです」

「そういう訳ではないけど…。じゃぁお願いしちゃおうかな…」

「後部座席に横になりますか」

「ここの間から跨いで移動しちゃって良い?」

 横になった美々の太腿の脇辺りに腰を掛け、広木は体を捻るようにしながら両手で背中を押し始めた。ブラジャーのホックで背中を引っ掻いたりしないようにと思う。

「ブラのホックだけ外して良いですか?」

「最近ブラジャーしないの。家にいる時間長いし。今日もスポーツブラなの…」

美々のスポーツブラという返しに情けなくも広木は少し同様してしまう。

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