『兵士量産工場破壊』

 健太郎君の目的:このクソッタレなシナリオからどうにかして死なずに降りること。

 それはそれとして教官殿に植え付けられた『舐められたら殺せ』という教えに乗っ取って、散々自分に『舐めた』事をした教団に落とし前をつけさせること。



 ★ゆかいなわんちゃんたち☆



 チワワ・ポメラニアン・シバイヌ:体も心もすべてはボスの思うままに。3匹とも健太郎君に絶対の忠誠を誓っているが、その忠誠のスタンスは異なっている。



 チワワ:基本絶対服従。しかしだからと言って無思考で全ての行動を委ねるのではなく、彼女なりに考えて行動に移そうとする。熱しやすそうに見えて以外にも頭の芯は冷えており、冷めているように見えてすぐに着火するポメラニアンに変わって場を諫める役割をさせられることが多い。ポジションは次女。



 ポメラニアン:基本絶対服従。しかし完全に行動を肯定するばかりではなく、思う事があれば率先して意見を口にする。もともと健太郎君が「服従すれども考える事を止めるな」と言っており、それに最も忠実に従っているのが彼女だ。軽薄そうな言動で冷静に見えるがかなり熱しやすい質で、良く誰かに食って掛かってはチワワに諫められている。ポジションは長女。



 シバイヌ:絶対服従。何をされようとも喜んで受け入れ、全てを捧げるつもりでいる。3匹の中で最も健太郎君を異性として敬愛(他の4匹も程度の違いはあれど同様)している。健太郎君が時折自分の胸や尻といった女性的な部分に視線がいっている事に気が付いており、いつか手を出されることを夢見て今日も生きていく。ポジションは末っ子。



 トサケン:おもしれ―ガキ。客足が遠のき、引退しようとしていた矢先に不幸にも悪魔と出会ってしまったがために老いた体に鞭打ってついて行くことに決めた人。この凄まじい暴力を内に秘めた男が、何処に行き、何を成し、どう選択するのか。それを見るために、彼は健太郎の下についた。メンバーの中で最も高齢で部下の中でただ一人の男性なので、健太郎に良く話しかけて来ては猥談を仕掛けてくる困った爺さん。



 プードル:え!?たった7人しかいない組織で教団に喧嘩を売る!?祖父の衝動的な行動に目を剥いて驚いた彼女だったが、以外にも祖父から叩き込まれる技術を(泣き言を言いつつも)何とか納め、ようやく完成した渾身のスーツは、祖父をもってしても目を見張るほどの完成度だった。忠誠心は中々のものであり、よほど無茶な要望でなければ彼女は喜んで請け負うだろう。



 レトリバー:だいたいあいつはいつも急に無理難題ばっかり言って来てその癖お礼の言葉はありがとうの一言で終わらせようとしてくるのが本当に信じらんないだからって距離を詰めてくるのはやめろその深い深海のような青い瞳で私を覗き込むな何なのそうやって目を見て礼を言えば私が満足するとでもふざけてる女の扱いってものがまるでなってない急に白く細い指を絡めて来るな柔らかくて少し冷たい手で握ってくるな許可も得ずに女性に触ろうとするなわた―――

 かんけいは極めてりょう好である。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「では全員そろった事ですし、ブリーフィングを始めます」



 時刻は午後23時。『巣』のリビングに集結した犬たちを見つめながら、俺は宣言した。



 同時に部屋の中を暗くし、レトリバーが映写機を改造して作り上げたプロジェクターを起動させ、前方のホワイトボードに映像を映した。



 初めに映し出されたのは暗い背景にデフォルメされた首輪のついた三つ首の犬、俺たち『保健所』のロゴだ。



『ミッションの概要を説明します』



 ホワイトボード脇に立ち、俺は手に持ったマイクに口を近づけた。



『これは我々『保健所』の最初の仕事となる重要なものとなります』



 映像を切り替え『エクスプロシブ社』という企業の第1工場が映し出される。



「エクスプロシブ…?どこだ?」

「もともと江戸時代あたりに花火を作ってた集団の子孫が立ち上げた会社っすね。確か創業したのは戦前…でしたっけ?今は花火を作ってる傍ら銃器を作ってるらしいっすけど…」



 首を傾げたチワワに、ポメラニアンが軽い解説を入れた。



「えぇその通り。そして創業時から『教団』と二人三脚で今日までやってきていました」

「うげっマジっすか」



 俺の言葉に驚愕も露に目を見開くポメラニアンに、トサケンはそれ見た事かと鼻を鳴らし、プードルが苦い顔をした。



「はん、んなこったろうと思ったぜ。あの火薬馬鹿どもが。チャカ作るだけじゃすまなかったか…」

「あんまりよくない噂も流れてたもんね…」

「…やっぱり裏で銃火器を横流ししていたっていう話は本当だったんだね」



 2人の様子にシバイヌが沈痛な面持ちで呟いた。



「あん?何あんた。この企業のこと知ってたの?」

「うん、花火の動画をね、ネットで見たの。凄く綺麗だったから、残念だなって」

「あ~…」



 思い当たったようで、レトリバーもそれ以上は何も言わなかった。



『さて、この企業が『教団』に関係してることは理解できましたね。ではこの企業が具体的に何をしているか。それは』



 画面を切り替え、工場の内面の見取り図、それからその地下に広がる大きな空間へとフォーカスされた。



『先の『十字軍』の大規模粛清は覚えていますか?』



『十字軍』とは、『聖光教』が行う極めて大規模な『教団』の粛清行為の事を指す。定期的に行われており、その都度敵味方問わずかなりの数の死傷者が発生する一大行事なのだ。



 言葉を区切り、一人一人の顔を確かめる。片眉を吊り上げる者、いまいちピンときていない者、苦い顔をする者などなど、一名を除きどうであれ記憶の片隅にはとどめているようだ。



『あの時もっとも大規模だった戦闘はクルマ社の第3工場地下に作られた広大なエネルギー抽出工場と報じられていましたね。ですが、あれはこの工場の存在を隠すためのデコイでした』

「馬鹿な、あれだけの規模のがデコイだと!?」



 目を見開くトサケンに俺は頷き、フォーカスされていた工場の地下空間に広がる『工房』とそこで研究されている『試作品』のデータを表示した。



『『兵士レギオン製造所』。それが、あの大規模なエネルギー抽出場を捨ててまで守りたかったものです』

「「――――――」」



兵士レギオン』。それは物語の最終盤。最後の幹部を撃破した後に出てくる最後の雑魚キャラ、及び中ボス枠の敵エネミーだ。



 本編で登場するのは言ったように最終盤で、更に言えばこの『第一工場地下研究所破壊』という任務も本編に登場する。



 



 もう一度言う。クリア後の高難度任務として、この工場は登場する。



 難易度はくそ。オブラートに包んだ言葉で言いかえると、凄いクソだった。



 レベルはクリア後準拠なので、雑魚エネミーである量産型レギオンでも当然の如く100越え。ボスに至っては何と150というクソ高レベルだ。



 ちなみにこっち側のレベル上限は100までだ。それだけでもうどれだけ難易度が高いかは察しが付くと思う。



 更にこの任務が高難度任務の中でも最上位と言われる所以は、とにかく広い!とにかく道中が長い!とにかく雑魚の数が多い!とにかく雑魚が強い!とにかくボスが強い!



 くそ。



 糞である要素がたっぷりと詰まり、更にくそを二度塗りしたが如くクソ要素がたっぷりと詰まっている。ふざけるな!



 全任務Sランクトロフィーで最後まで残ったのがここだった。本当にクソだった。道中で囲まれたらほぼ壊滅にまで持ってかれるし、どうにかボスまでたどり着いたとしてもボスが普通に強く、道中が長いため集中力が続かずに力尽きることが多かった。



 結局NowTubeで攻略見てボスのハメ方を徹底的に学び、物凄い時間をかけてどうにかSランククリアにかこつけたのだ。



 そのおかげでこの工場のマップは頭の中に嫌でも残っており、俺が初仕事をここにした理由の一つがそれだった。



 他の理由を上げるならば、俺たち『保健所』の存在を知らしめるには出来るだけ派手にやりたかった事と、危ない橋を渡って手に入れた情報からまだこの段階でレギオンは実用段階に至っていない事が発覚したからだ。



 それと断片ではあるが地下のマップも手に入り、記憶の中のそれと比較して見て少し小さい事に気が付いた。



 なぜそうなのか。これまた危ない橋を渡った結果、本編開始直後の時期に内部の拡張工事をしているらしいのだ。そのため、試作品の一部生産ラインを止めていることが分かり、ここを好機と見て、俺は襲撃に踏み切ったのだった。



 メンバーに言葉は無い。全員がスクリーンに映し出された物の概要とその製造工程に見入り、そして、全員が憤怒に狂った怒声を上げた。



「ふざけるなよ…!」



 いの一番に声を上げたのは、トサケンだった。眉間に血管が浮かび、眼光は火を噴かんばかりにギラギラと照っていた。それに続き、その他の犬たちが口々にレギオンについて、またそれらを作った者たちへ呪いの言葉を吐きまくった。



 吠える犬たちを目尻に、俺もスクリーンに目を移す。



 レギオンの製造工程はまず初めに生きたまま女性の子宮をくりぬき、それに伴う苦痛と絶望がたっぷり込められた子宮を何十個も繋ぎ合わせ一つの子宮とするところから始まる。



 次に子宮をくりぬかれた女性を合成子宮とつなぎ合わせ、延命させながら無限の苦痛と絶望を合成子宮へ注ぎ込み続ける。



 で、合成子宮に十分量の闇が満たされた時に、『水』の異能を持つ高位の闇の者が生み出した闇水を羊水の代わりに満たし、その中に卵子と精子を注入してしばらく漬け込む。そうする事で闇による活性化で異常増殖した受精卵はあっという間に成長し、たったの7日間でレギオンが出来上がるのだ。



 ところで、ぬっぺほふという妖怪はご存じだろうか?1頭身の肉の塊のような妖怪なのだが、レギオンの見た目はそれを強引に成人男性ほどの体格にしたような見た目だ。



 青ざめた肌。瞼は垂れ下がり、落ちくぼんだ頬。指の無い棍棒の様な両腕をぶらぶらさせ、初めて立った赤ん坊の様に覚束ない足取りで、赤ん坊のような声を発しながらゾンビのようににじり寄ってくる様は、この世のものとは思えないほど悍ましい光景だった。



 バリエーションも豊富で、両腕が肉棍棒ではなく某岩男を連想させるブラスター型の『射撃型』、耳たぶの様な羽を生やした『飛行型』、複数の個体が融合して出来た上位個体『レギオン混合型』など、結構な種類のレギオンが登場する。



『さて、見てもらった通り、彼らは我々の事をかなり『舐めて』ます。あなたたちはどうでしょうか?これを見て、どう思いました?』



 犬たちは互いに顔を見合わせ、それからこっちに向き直り、そして、同時に拳を突き上げ、叫んだ。



「「ぶっ殺す!」」

『よろしい、では行きましょうか』



 ポメラニアン、チワワ、シバイヌを連れ、資料を血眼で読み漁るトサケン、プードル、レトリバーに背を向けて俺は現地へと赴いた。



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