闇に生きる

寿甘

ネズミとネコ

 夜になっても光の絶えない大都会で、俺達は光を避けて生きてきた。


「腹が減ったな……」


 闇に生きる者にとって、一番の問題が食料の確保だ。何もないところに飯は現れない。光の氾濫する大都会は人間の多さに比例して美味い食い物も多く集まっているのだが、どこにでも現れる一般の人間と接触せずに食事をするのは意外と難しい。


 なにより、〝奴等〟が俺達を見つけようと待ち構えているのだ。


「やっぱり来たか、ネズミめ。今日こそお前を始末してやる」


 食料を求めて〝食堂〟へやってくると、運の悪いことに俺達を狙うハンターが潜んでいた。


「くそっ、ネコがいるなんてツイてねえな!」


 ヤツの姿を確認するなり、俺は回れ右して走り出す。背後に追いかけてくる気配を感じるが、振り返っている暇などない。全力で逃げなければ、確実に捕まってしまう。捕まった先に待つ運命は一つだ。


「待ちやがれ!」


 さすがに生粋のハンター、足が速い。このままでは逃げきれない。どこか、身を隠す場所は……?


「あれだ!」


 見つけたのは壁に開いた小さな穴だ。あそこに飛び込めば民家の脇を通ってアジトに逃げ帰れるはず。ヤツはもうすぐ後ろまで迫っている。迷っている暇はない。速度を落とさず、駆け抜けると見せかけて横っ飛びで穴に頭から突っ込んだ。


「シャーッ!」


 ネコが息を吐く音と共に、穴から飛び出た尻尾の先に爪が当たって衝撃が伝わった。なんとか逃げ切れたようだ。ヤツのでかい図体ではこの穴に入ってこれない。このままアジトに帰ろう。


「ふう、危機一髪だったな」


 今日もギリギリのところで命を繋いだ。あそこより食料の質は落ちるが他の〝食堂〟へ向かおう。


 大都会の闇に紛れ、人間の出した残飯を漁り、俺達はいったい何のために生きているのかも分からない。


 だが俺達はここで生まれ、育った。


 命の灯が尽きるその日まで、精一杯生きるだけだ。





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闇に生きる 寿甘 @aderans

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