第34話 元凶現る
ユナのことはどうすることも出来ない。
クルスはそう割り切って日常を過ごしていた。
アティナとパン屋で働き、夜はキッシー達とモンスター狩りを続けた。
一見、平穏な日々が続いていた。
「あれ、何だろうね……」
アティナが振り返り、クルスに問い掛けた。
彼女がさっきまで見ていた窓の外には、作り掛けの建物が見える。
「さぁ……なんだろうね?」
数日前から店の真向いの通りで、工事が始まったのは知っていた。
誰かが引っ越してくるのか。
それにしても、立派そうな家だ。
レンガ造りの二階建て。
おまけに広い庭付きで馬小屋まである。
(デルマンみたいな、面倒くさい貴族がまた増えたら……やだなぁ)
クルスは頭を抱えた。
「おーい、のんびりやってんじゃねー!」
髭面で大きなお腹の親方らしき人が、部下を怒鳴りつけている。
どうやら急いで作らなければいけないらしい。
「いらっしゃいませー!」
アティナの声で、クルス窓から目を離した。
「やぁ、いつぞやは、ありがとうございました」
「あ、コーツィさん」
元ラインハルホ王国の騎士で、引退した今は城下で悠々自適の生活を送っている初老の男だ。
コーツィは側にいる女性を紹介した。
「妻のマルムです」
ふくよかな初老の女性マルムは、会釈した。
「はじめまして。パン、美味しかったですわ」
「どうも」
クルスも会釈した。
「それと、主人を助けていただいてありがとうございます」
「ああ……」
クルスはオークに襲われているコーツィを助けた。
そのことをマルムも知っていた。
(口止めしたはずなんだけど、話したな……。この爺さん)
クルスはコーツィを睨んだ。
だが、彼はそんなこともう忘れてしまったかの様だ。
ご機嫌な様子でパンを選んでいる。
(ま、いいか……過ぎてしまったことは仕方がない。これからが大事なんだ……)
クルスはそう思うことにした。
別にこの夫婦は悪くないのだ。
「いやぁ、それにしても大分、出来て来ましたなあ」
コーツィを例の作り掛けの建物を見て、そう言った。
「あれ、何なんでしょうね?」
「あれはな、ガイアナ姫とそのお供の宿舎ですよ」
「え?」
クルスは運んでいたパンを取り落としそうになった。
「何で、ガイアナ姫が……ここに?」
クルスは震える声で問い掛けた。
コーツィは穏やかな声で応える。
「ふむ。何でも調査のためとか……」
「調査?」
どうやらクルスを勧誘するためではないらしい。
ひとまず安心したが、パルテノ村に拠点を構えてまで一体何を調査するのか?
「この辺りでAランクのモンスターが現れたという噂が、ラインハルホ王国で流れているのです。ガイアナ姫は王様の言うことを聞かず、自主的に調査したいと言い出しました」
「ええ……」
アティナと逃避行した夜を思い出す。
恐らくあのゴーレムのことだろう。
あれを見た人がいるということか……
それにしても、ガイアナ姫がお転婆で、やる気に満ちているところは、ゲームと一緒だ。
「それで、あの建物です。あそこに常駐しパルテノ村周辺の調査をする様です。私ももう少し若ければ、姫のお供をしたかったのですがなぁ!」
コーツィはバゲットを剣に見立てて、振り始めた。
つづく
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