第33話 聖女の秘密

 部屋のベッドに寝かされたユナ。

 彼女を見下ろした医者はこう言った。


「原因は分かりません。このまま、死を待つしかない……」


 医者は残念そうに目を瞑った。


「先生、何とかならないですか?」


 ナツヤが何度も問い掛ける。

 だが、医者は首を縦に振らなかった。


「ママ、え~ん!」


 デメルが眠っているユナの胸に飛び込んだ。


 クルスは何も出来ず、その様子を一歩離れた場所から見ていた。


 医者を呼んだのはナツヤだった。

 ユナが不治の病でこのまま死ぬことが運命づけられているのを知らない彼は、望みを捨てられずにいた。


「治癒魔法とやらで何とかならんのですか!?」

「治癒魔法は、傷を治したり、体力を回復させたりするものだ。病を治すには薬が必要だ。この病にはこの薬が効くと決まっている。ユナさんの病に効く薬は無いのだよ」



 医者が帰った後、クルスは緊張の糸が切れ、倒れる様に眠った。

 ナツヤを励ましたかったが、疲れには勝てなかった。


「……おい、起きろ。クルス、クルス……」


(ん……、何だよぉ)


 クルスは目をゆっくり開いた。


「キッシー……」


 目の前にはキッシーの不機嫌そうな顔があった。


(どうしてこいつが僕の家に?)


 キッシーの背後にはデルマン男爵と、彼の従者であろう男が二人いた。



~~~


「何だよ、全然モンスター何て出て来ないじゃないか!」


 後ろを歩くキッシーが、鋼の剣を振り回しながら文句を言う。

 彼はデルマンの従者二人に守られながら、夜の森の中を歩いていた。


(まったく……何でこんな奴と……)


 クルスは、心の中で愚痴った。


 クルスが夜にモンスター狩りに出ていることが、村中に知れ渡った。

 デルマンとしては知らないところで、ただの村人が勝手に村の治安を維持していたことが、快くないのだろう。

 自らの立場を顕示つもりか、息子のキッシーもモンスター狩りに連れて行けと言い出した。

 クルスとしては不満だが、こうなることは予想出来たし、仕方がない。

 足手まといにならないことを願うだけだ。


「うわぁああ! ゴブリンだ~!」


 キッシーは初めてのモンスターに驚き、逃げ惑った。


「こうやって倒すんですよ! キッシー様!」


 クルスがゴブリンを袈裟切りにする。


「お前の邪魔になると思って、俺は一旦、後方に引いたんだよ」

「はいはい」


 言い訳するキッシーに、クルスはモンスターの解体方法や、ドロップしたアイテムについて説明した。


 その後、スライムにも遭遇した。


 キッシーは同じ様に逃げ惑い、言い訳をした。


(どうしようもないな、こいつ)


 アティナを連れて行けば、いいところを見せ様として頑張ったかもしれない。


(アティナ、か……)


 昨日、彼女を連れ出した晩は、Aクラスのゴーレムが現れた。

 今日はE、Fクラスのモンスターが少し現れるだけだ。


 やはり、強力なモンスターを引き寄せていたのはアティナがいたせいだろう。


 彼女は聖女だ。


 魔王にとっては彼女を生かしておく訳にはいかないのだろう。


つづく

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