第14話 運命の出会い

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……


 小気味よい足音が、クルスの耳朶を打つ。

 複数の人間が隊列を成して整然と行進しているかのような足音だ。

 その中に、時折混じる金属音。

 恐らく、各々が所有している武器が鎧と触れ合う度に発生している音なのだろう。


「何かしら?」


 アティナが厨房から不安げな顔を出し、クルスに問い掛ける。


「さぁ……何だろうね」


 こんな辺鄙な田舎の村に。


(何だかすごく嫌な予感がする……)


 クルスは店から外に出た。


「止まれー!」


 野太い声が村中に響き渡った。

 村の噴水広場に、鎧を身にまとった精鋭といった感じの男達が並んでいる。

 胸にはラインハルホ王国の紋章。

 彼らを指揮しているのは、ひと際身長が大きく、筋骨隆々な槍を持った男。

 恐らく、この隊の隊長だろう。


「これは、これは、クラークソン兵隊長。突然の訪問、一体どんなご用事で?」


 あの普段偉そうなデルマンが、へいこら頭を下げている。


「おい! デルマン!」

「は、はい!」

「村人が邪魔だ!」

「は、はい!」


 それまで、ビクビクしていたデルマンは偉そうに胸を張り、こう叫んだ。


「お前達、道を開けろ! ガイアナ姫のお通りだ!」


 村の野次馬達は、しぶしぶ道を空けた。


「え!?」


 クルスは耳を疑った。


(何で!? どして!? 何で来るの!?)


カポ、カポ、カポ……


 その美しい少女は両脇に従者を従え、白馬に跨り悠然と現れた。

 白馬と一体となるかの様にデザインされた、白い鎧。

 細い腰に差したレイピアは彼女が得意とする武器。

 白銀の長髪を揺らしながら、紫紺の瞳を村人達に向けた。


 まごうことなき、ラインハルホ王国の姫ーー


 ラインハルホ・ガイアナ。


 クルスはその瞳に捉えられないように、目をそらした。


(これは一体……バグか……バグなのか)


 毎日、クルスは夜になるとこっそり、村の周りのモンスターを始末して来た。

 それは全て、そう、全て……

 目の前にいる麗しき姫……


 ガイアナ姫に会いたくなかったからだ!


「クルスというものは、ここにおらぬか? おるなら出てこい! 訊きたいことがある!」


 小さな口から凜とした、それでいて涼やかな声が発せられた。


 クルスは音を立てない様に人々の間をすり抜け、パン屋に戻ろうとした。

 だが、ガイアナ姫の両目は、それを見逃さない。


「おい! そこの者!」

「はいっ!」


(しまった! 思わず返事してしまった……)


つづく

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