第13話 ラインハルホ城で起きたこと その2
その初老の女は、井戸に行くことを日課としていた。
「あら、マルムさん。こんにちは。いい天気ねぇ」
「ほんといい天気。絶好の洗濯日和ね」
マルムと呼ばれた初老の女は、木の桶を井戸の横に置いた。
ラインハルホの城下町にはいくつもの井戸が点在している。
そこは主婦達の井戸端会議の場所になっていた。
「……そう言えばね、うちの旦那、今朝、ボロボロになって帰って来てね。どうしたのって訊いたら、モンスターに襲われたって言うの」
「ええ!? コーツィさんモンスターに襲われたの!?」
主婦達は皆、驚きの声を上げた。
「モンスターなんて、本当にこの世にいるのね。お話の世界だけかと思った」
比較的若い主婦がそう言うと、最年長の老婆がこう答えた。
「おほほほ。若い娘は知らない様ね。救世主と7人の英雄が魔王を倒したのは、おとぎ話じゃなくて本当の話よ」
300年前の話。
この世界に突如現れた魔王。
それを救世主と7人の英雄が倒し、世界を救った。
その活躍は神話として残り、また、子供向けのおとぎ話としても伝わった。
「ラインハルホ城のお姫様は、その7人の英雄の一人の末裔なんだから」
ガイアナ姫が英雄の末裔であることは城下では知らない者はいなかった。
その証拠に、彼女の左胸には英雄の末裔であることを表すあざが浮かび上がっていた。
「で、コーツィさんは大丈夫なの?」
「うん。それがね。助けてもらったの。パン屋さんに」
「パン屋さん?」
マルムはクルスのことを話した。
「へぇ! パルテノ村にはそんなに強い人がいるのね。しかも、美味しいパンを焼くだなんて。一度行って見たいわ」
「そうよ。特にクリームパンが美味しかったんだから……はっ」
マルムはコーツィの言葉を思い出し、口に手を当てた。
(しまった。あの人に口止めされてたのに、喋っちゃったわ!)
~~~
クルスの噂はラインハルホの城下町に流れた。
その噂には尾ひれや背びれがつき、どんどん大きくなっていった。
「パルテノ村にはパンを焼きながら、Sクラスのモンスターを倒す奴がいる」
という実際とは異なる噂が人々の間で話題になった。
その噂は、遂にラインハルホ城にまで昇った。
そして、その噂は遂にガイアナ姫の耳にも入った。
「何? パルテノ村に救世主の候補がいると?」
つづく
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