英雄と犯罪者を分けるのは、一本の剣かもしれない

横山記央(きおう)

英雄と犯罪者を分けるのは、一本の剣かもしれない

 き・き【危機】大変なことになるかも知れないあやうい時や場合。危険な状態。「経済――」「――を脱する」

 ――一髪 髪の毛一本ほどのわずかな差のところまで危機がせまること。あぶないせとぎわ。

(岩波書店/広辞苑_第五版)


 今回のお題「危機一髪」と聞いて、すぐに思いついたのは、黒ひげ危機一発。

 タカラトミーから発売されている商品で、説明もいらないほどなじみのある玩具の一つだろう。

 顔をだした海賊が入れられているタルに、剣を刺して遊ぶ。複数ある穴のどこかに剣を刺すと、海賊がタルから飛び出すが、その穴がどれかは毎回ランダムに決定される仕掛けだ。

 海賊が飛び出したら負け。

 ルールは単純。個々の能力やスキルよりは運任せで、緊張感があるおもしろい。


 タルの中の海賊が剣に刺されるのが危機で、刺された痛みでタルから飛び出すのだと思っていた。

 あるいは、何かの罰ゲーム的な状況で、剣を刺すことでタルの仕掛けが発動し、海賊が高く飛ばされる、という設定かもしれない。


 しかしウィキペディアによると、当初は海賊を飛び出させたら勝ちだったらしい。

 というのも、縄で縛られタルに捉えられた海賊を、仲間が助けると設定されていたようだ。


 仲間を助け出すのが目的なのに、高く飛び上がらせるのはなぜだろう。縄を切ることで、逃亡防止用に設置した罠が発動したということなのか。

 海賊が大人男性だと仮定すると、その対比からタルの高さは5メートル程度。空中に発射された海賊の最高到達点は、高さ10メートルに達するだろう。

 4階建ての建物の屋上から落下するようなものだとすると、命が助かるかどうか、微妙な気がする。骨折などの大けがをすることは間違いないと思われる。

 捉えた海賊は生かして帰さないという、強い意思を感じる。


 救出に向かった海賊達からすれば、仲間を助け出せたと安堵したところに、絶妙なカウンターとなる罠をくらったことになる。自分たちが罠を発動させてしまったのだから、精神的ダメージが大きいに違いない。

 そうなると、仲間の海賊を飛び出させたヤツが、犯人扱いされるはず。

 救出の英雄になるつもりが、犯罪者へ転落だ。


 なるほど。こう考えると、タルの海賊を飛び出させる行為は、勝ちではなく負けである。


 黒ひげ危機一発のルールが飛び出させたら負けに変更されたのには、こんな理由があったのかも。


 黒ひげ危機一発で、英雄と犯罪者を分けるのは、タルに刺し込む剣の一発。

 それこそが、仲間の海賊(プレイヤー)にとって危機一髪の状況なのだろう。

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