第8話 調子に乗った俺 By 三和悠矢

「もう二度と、離さない」

鈴が言った言葉、一つ一つが嬉しくて、俺は無意識のうちにそう言っていた。

「・・・・ごめん、悠矢」

「え・・・・」

「そろそろ行かないと、大学の授業、始まっちゃう」

「あ、ああ」

俺は、謝られて、冷静になった。

「これからも、会いたいな」

「そ、そうだな」

「また明日ね!」

「お、おお」

鈴を見送って、俺は今まで座っていたベンチに座り込んだ。


俺、振られた、よな・・・・


何やってるんだろ、俺。

昨日再会した人に、二度と離さないって、引かれるって、今ならわかるのに。

なのに、言ってしまった。

思っていたことを。考えていたことを。

あの、二人の距離が物理的に離れてしまった時の後悔を。


俺が勝手に思ってただけなんだよな、きっと。


『わ、私、離れたくない・・・・』


そう、言ってくれたから、もしかしたらって期待したのかもしれない。

今までの俺では考えられない行動をしたのは、きっと、鈴にまた会えて、調子に乗ったからだ。

今思えば、本当に調子に乗りすぎていた。

こんなことになるなんて、想像してなかった。


「今日、レギュラーメンバーとして出場する試合なのに、それを俺が欠場するなんてな」


けど、きっと、もう、どうでもいい。

鈴が見ててくれないのなら、俺はもう、何をする気にもならない。

俺にとって、バスケは、鈴に見てもらうために努力していたスポーツに過ぎないんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る