逢はむとぞ思ふ

一ノ瀬桔梗

第一章

第1話 廊下での事件

「由希子!」

昼休み学校の廊下を歩いていたら、背後から私の名前を呼ぶ、男の人の声がした。

この学校に私の名前を呼び捨てで呼ぶ男子なんて、いないはずなのに・・・・。

そんなことを考えていたら、いつの間にか私の手首は背後から掴まれていた。

こ、怖い・・・・!

「離し、て・・・・」

その一言は、更に大きな恐怖によって言えなくなってしまった。

私は後ろから抱きしめられていた。


どれくらいの間、そうしていたんだろう?

気がついたときには、すでに多くの人に囲まれていた。誰もが私達を目を輝かせて見ていた。

「あの、離して下さい」

早くここから離れたい。その一心で、私は勇気を出して声をかけた。

だけど、その男子は全く返事をしない。

どうしよう?

私には男子を押してよろめかせるだけの力はない。私に出来る、今の状況から逃げ出す手は無かった。

怖い、怖い、怖い、怖い・・・・!

や、やめて。見ないで・・・・!

何も出来ないと分かった途端、私を恐怖が襲った。

そして、足元から穴に落ちるような、そんな感覚がした。




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