これが本当の危機一髪

卯野ましろ

これが本当の危機一髪

「おい、金よこせ」

「む、無理ですっ……」


 あっ、事件発生!


「そんなわけねーだろボケがっ! 誤魔化してねぇで、とっとと財布を出せ!」

「や、やめてくださいっ……!」


 よーし……。

 僕はカツアゲをしている男を見て、心の中で呪文を唱えた。


『危機!』


 するとカツアゲしていた男は、あれだけ強気だったのに……。


「ううっ……」

「えっ! 大丈夫ですか? どうかしましたか?」


 お腹を両手で抑えて苦しみ出した。それにしても、あんな意地悪なことをされたのに心配してくれる彼は優し過ぎる。報われますように。


「こ、今回は勘弁してやる~っ!」


 カツアゲ野郎は退散した。ホッとした被害者の男子は、その場から素早く去った。しかし僕は、まだここにいる。なぜなら……。


「ぐっ……! あああああああああ……! クソぉ……」


 間に合わなかった罰当たりを、しっかり確認したかったからだ。

 やったぞ、一発で大成功!

 これが本当の危機一髪!

 まあ、いつものことだけどね。

 あと厳密に言えば、パツは違う字だ!




 僕は特殊能力を持っている。心の中で「危機」と叫んで、対象となったものに危機を与える力だ。この力のおかげで、僕の周囲は勧善懲悪に溢れている。ああ、いつも気持ちが良い。


「おーいっ!」

「おっ!」


 一人悦に入っていると、幼馴染みの女の子がやって来た。


「やあ!」

「こんにちは、何やってんの?」

「散歩だよ」


 散歩ではなくパトロールをしていることは秘密だ。好きな子だからって言えない。そして、僕の特殊能力についても言えない(これは彼女に限ったことではないが)。僕の力が原因で何か大変なことが起こったとしたら、この子(や、その他の人たち)を巻き込みたくないからだ。


「最近さぁ、わたしたちの周りってスカッとすることが多いよね」


 ギクッ。


「まるで誰かがヒーローのように、クールにトラブルを解決しているみたい……」


 ドキッ。


「ステキなことだけど、そんなにうまくいくなんて不思議だよね~ウフフ」

「そうだねー、アハハ……」


 褒められた直後、僕の能力について説明したくなったのは秘密だ!

 ……これが本当の危機一髪……?




 ウフフ、大丈夫。

 もう知っているよ、わたし。

 人の心を読める力を持つわたしは、幼馴染みが持つ能力を知っている。彼が秘密のヒーローになっていることも。わたしたちを守るために自分の力を内緒にしていることも。

 そして彼が、わたしのことを好きなのも。

 ……さっきの焦り具合、超かわいかったなぁ~……。


「いやーんっ!」

「えっ、どうしたの?」

「あ、何でもない! ごめんね!」

「う、うん……」


 いけない、いけない。

 心の叫びが出てしまった。

 だって両想いなんだもの!

 

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