1「Not Death Game」

 「Quelque chose me dit que le Japon a encore des problèmes.(何か、また日本が大変なことになってるらしいな)」

朝7時前、キッチンに立つ少年はブルートゥースイヤフォン越しに、そのフランス語を耳にした。シルバーヘアと、アンバーとライトブルーのオッドアイの瞳が印象的だ。

「Apparemment, oui.(……らしいね)」

とだけ彼は返したが、そのトピックのカテゴリー自体は本来興味が無いものだった。

 「Tu es le problème de quelqu'un d'autre. D'accord, tu ne joues pas le jeu, donc tu t'en fous.(他人事だな。尤も、お前はゲームをしないから、どうでもいいんだろうけどな)」

と返したブロンドヘアの少年は、黒い端末を耳に当てたまま、手元のタブレットで改めてその記事に目を通す。その画面の端に表示された時間は、23時。日本とは8時間の時差が有る。

「Je déteste dire ça, mais je n'ai pas été blessé. Je suis un parfait inconnu.(言い方はアレだけど、僕には被害が出てないからね。完全に他人事だよ)」

そう言って、少し悪戯っ子のように微笑む少年を

「Luna.(ルナ)」

と呼んだフランス人は、

「Tu ne vas plus être là, n'est-ce pas ?(もう、お前が出る幕は無いよな?)」

と問う。ルナは

「Je l'espère.(……そう願いたいよ)」

と答える。有るワケがない……そう言えれば、どんなに楽だろうか。

 「Demain, c'est le jour de l'église, alors je ferai cette prière pour vous, avec deux billets internationaux pour le Stardust Coffee.(明日は教会に行く日だから、俺がそう祈りを捧げてやるよ。スターダストコーヒーの国際チケット2枚で)」

と言ったフランス人に

「Payé pour. Et c'est pour Alicia, pas seulement pour Earth. Tu vas à un rendez-vous avec le billet d'un autre ?(有料かよ。しかもそれ、アルスだけじゃなくてアリシアの分もだろ。人のチケットでデートする気か?)」

と言って微笑んだルナに、アルスと呼ばれた少年は

「Bonne réponse. Je dirai que c'est un cadeau de ma part.(正解。俺からのプレゼントと言って)」

と言って笑った後で、言った。

「C'est bientôt le matin, n'est-ce pas ? Je reste en contact. Dis à Mio que je lui passe le bonjour.(……そろそろモーニングだろ?また連絡するよ。ミオにもよろしくな)」

「Mm. A plus tard.(うん。また)」

流雫はそう返し、通話を切る。……朝からフランス語は、目が覚める。

 ……モーニングのガレット、振る舞う相手は11人。平和な戦いが、幕を開けた。


 フランス人、アルス・プリュヴィオーズがルナと呼んだのは、宇奈月流雫うなづきるな。日本人の父とフランス人の母の間に生まれた。

 月を意味するラテン語から名付けられた、ルナと云う特徴的な名前が既に、彼のルーツが日本ではないことを示している。流雫の字は、母が当てたものだ。流雫が生まれた日、その地パリは雨が降っていたことに着想したらしい。

 小学校に入学すると同時に日本に移り住んだが、両親はフランス西部の都市、レンヌで健在だ。今は山梨でペンションを営む親戚、鐘釣夫妻に預けられ、手伝いをしながら高校に通っている。モーニングの流雫特製ガレットは、宿泊客だけが味わえる名物だ。

 そしてアルスとは、レンヌに帰郷した時に偶然知り合った。今では男で唯一仲がいい。その恋人アリシア・ヴァンデミエールとは、少しスマートフォンで話しただけだが、仲はよい方だと思っている。

 しかしその少年は、流雫が気懸かりだった。……また、何らかの事件に遭遇するのではないか、と。それも、恋人のミオと2人揃って。


 流雫は最後に焼いた自分用のガレットロールを頬張り、残る2本をラップに包むと黒いショルダーバッグに入れ、ペンションを出た。黒のカラーデニムに白のシャツ、その上からネイビーのUVカットパーカー。肌寒くてもこれだけで過ごせる。

 山梨の東部の小都市、河月。人口15万人で、北部の河月湖を中心とした観光と、南部のハイテク工場が主要産業。流雫が住むペンション、ユノディエールもこの湖畔に位置する。

 バスで市の中心部、河月駅に向かった流雫は特急列車に乗る。新宿までは1時間以上。端の座席に座り、改札前のコンビニで手に入れたコーヒーを啜り、スマートフォンで1通のメッセージを送ると、先刻の言葉を思い返す。

 ……出る幕は無い。そう思いたい。このバッグの奥底に眠る銃を、二度と使わないことを願いたい。


 真夏の東京で起きた大規模テロ、トーキョーアタックこと東京同時多発テロ事件。東京中央国際空港と渋谷駅前が狙われ、流雫自身も空港で遭遇した。故郷フランスから帰国したばかりだったが、怪我すること無く逃げ切れた。しかし、かつての恋人は渋谷で遭遇し、命を落とした。

 そのテロを機に、政府は究極の自衛策として国民に銃の所持と使用を認めるようになった。無論、正当防衛を証明する必要は有るが。そして流雫は、アルスがミオと呼んだ恋人と何度もテロに遭遇し、引き金を引いてきた。だからこそ今、こうして生きていられる。


 新宿駅。セーラー服タイプのブラウスとミニスカートをデニム調で統一させ、サイハイソックスを履く少女は、東京駅方面のプラットホームの端で腕時計を見つめていた。ダークブラウンの肩丈ボブカットに、ダークブラウンの瞳。

 先刻、1通のメッセージが届いた。それに従い、最後尾の車両のドア位置マークの近くに立つ。

 やがて、列車が入ってきた。僅かにズレて止まり、ドアが開くと多数の乗客が吐き出される。その最後の1人の名を

「流雫!」

と呼ぶ少女。そう呼ばれたシルバーヘアの少年は

「澪!」

と返した。

 室堂澪むろどうみお。アルスが先刻ミオと言っていた少女。同い年の流雫とはトーキョーアタックの少し後にSNSで知り合い、今では恋人同士。一言で言えば、背中を安心して預けていられる存在。現に、そうやって幾度と無くテロと戦ってきた。

 デートは流雫の希望も有って、澪の地元東京の方が多い。だから列車のドア前で出迎え、ドア前で見送ると云うのが澪のマイルールになっていた。その方が、改札で会って改札で別れるよりも、数分だけながら長くいられるからだ。

 「何処行く?」

「……秋葉原かな、あのパンケーキ……」

と、澪の問いに答える流雫。以前澪に勧められて行った店のパンケーキが好きで、久々に堪能したいと思っていた。

「じゃあ、決まり!」

そう言って微笑む澪は、流雫の手を握る。2人の手首を飾るブレスレットが揺れる。

 2人揃って7月生まれ、だから流雫はルビーの三日月、澪はカーネリアンのティアドロップがチャーム。そして、その裏に送り主の名を刻んである。

 2人でいる時は、必ず着ける。ルールではないが、逆に着けていないと落ち着かない。


 秋葉原駅の改札を出ると、電気街口は相変わらずの賑やかさに包まれていた。そして、駅前は何やらイベントが開かれている。VR……バーチャルリアリティのゲームのイベントらしい。

 ゲームをしたことが無い流雫は、一度同様のイベントでVR体験をして、数十秒しか保たなかった。表向きはVR酔いを起こしたから、で半分当たってはいる。しかし、実際はそうではなかった。

 2人はその場所を避けようとして歩いていたが、

「あ、澪!流雫くんも!」

と前から声がした。ライトブラウンのショートカット、そして黒い三つ編みの少女2人が、目の前に立っている。

「結奈、彩花!」

と澪は名を呼び返した。

 立山結奈、黒部彩花。澪の同級生で、彼女を通じて流雫との面識も有る。2人一緒なのは、同性の恋人としても成り立っているからだ。

「ボクたちはVRイベントが見たかったからね」

と結奈は言うが、着いたばかりで今かららしい。折角だからと、4人で回ることになった。流雫も、澪がいるからとそれに乗ることになった。自分がVRで遊ばなければいい、それだけの話だ。

 1ヶ月後のクリスマスを睨んだ宣伝と云う形の、VRデバイスイベント。

「プレイバース……?」

と流雫は看板のロゴを読む。


 シアトルに本社を置く大手IT企業プログレッシブ社が展開するVRデバイスシリーズで、プレイとメタバースを組み合わせた造語。日本には東京の日本法人を通じて1年前に上陸し、VRの黒船だと注目された。

 XR……クロスリアリティをMR……マルチプルリアリティと称して、エンタメもビジネスもリアルとバーチャルのボーダーレス化、そしてメタバースのデファクトスタンダードになる。そのための足掛かりなのが、このプレイバースだった。

 試遊台が有り、結奈と彩花はデバイスを被る。澪はそれには並ばなかった。流雫がゲームをしない上にVRに手を出さない、澪は澪でスマートフォン用パズルRPGゲームにハマっていて、それで満足している。だから2人からすれば、単なる暇潰し状態だった。

「……退屈じゃない?」

と澪は問うが、流雫は

「でも、澪といるならね」

と言って微笑む。ただ、それは取り繕うのでは無く本音だった。

 試遊台の近くでは、VRゲーム大会が行われていた。最近人気のカテゴリー、FPS……ファースト・パーソン・シューティング、それのVR版。用意された大画面には、今行われている対戦の様子が表示されている。

 流雫はそれに目を向けようとしない。……だからFPSは生理的に受け付けない、その表情は最愛の少女にも判るし、それが何故なのかも判る。

 試合が終わった。デバイスを外すと、黒いショートヘアの少年と、ブラウンのポニーテールの少女が溜め息をつく。

「エキシビジョン、勝者アスミック!」

MCの声に、会場が盛り上がる。アスミックと呼ばれたのは少女の方。そして少年と並ぶ。一瞥した2人が自分と同年代に見えた流雫は、しかしふと目を逸らした。近くの試遊台で叫び声が上がったからだ。


 「流雫?」

その様子に気付いた澪の隣で、シルバーヘアの少年は

「……逃げて」

と囁く。

「まさか……」

ボブカットの少女がそう呟いた瞬間、小太りの男が銃を取り出し空に向けた。乾いた銃声が空気を切り裂き、

「逃げろ!!」

と怒号が上がる。

 ……数時間前、アルスが祈ると言っていた、そして流雫自身も願っていたことは、既に崩れた。

「……どうして……」

その言葉を途切れさせた流雫は、バッグからガンメタリック色の銃を取り出した。

 ……国民が持てる銃はオートマチック銃。3種類から選べるモデルの違いは、外観と口径。セーフティロックは本体とトリガーに2箇所。後者はトリガーの中心部に有り、トリガーごと強く引かなければ撃てない。

 弾倉は内部を上げ底にし、銃弾を6発に制限している。この制限は全モデル共通だが、警察のリボルバーと合わせる目的だ。そしてオートマチックなのは、弾倉の脱着を禁じるためだ。

 弾は所定の場所で、所定の手続きの上で補充する。その際にホログラムシールを貼ることで弾倉を封印する。これが銃が合法であることを証明する方法だった。これが剥がされた時点で違法銃となり、正当防衛のためであろうと処罰の対象になる。

 そして、流雫が持っているのは小口径。火薬の量も少なく、威力は最も弱く、至近距離に特化した形だ。ただ、反動が小さく扱いやすいと云う利点も有る。

「澪、2人を連れて……」

と流雫が言った瞬間、再度銃声が鳴った。

 澪が2人の方を向くと、試遊台のデバイスを半ば投げ捨てるように避難する連中に混ざっているのが見える。

「あたしは残る。2人は無事だから」

と言って、シルバーの銃を取り出す。流雫と同じ小口径。

 「でも危険だ!」

「流雫だって同じじゃない!」

と声を上げ、恋人に対して聞く耳を持たない少女。最愛の少年を、信じていないワケじゃない。しかし、だからこそ隣にいて、無事であることをそのダークブラウンの瞳で確かめなければ安心しない。

 銃口が流雫の方向に向く。……やっぱりか。流雫は思った。シルバーのショートヘアが目立つからか。それが理由で、ターゲットになったことすら有る。そして、今。

 ……流雫は覚悟を決めた。否、決めざるを得なかった。最愛の少女と、2人で戦うと。

 逃げないのではなく、逃げられない。だから、逃げ切るために戦うしか無い。そのことを、今まで何度、思い知らされてきたか。だが、同時にその後味の悪さも知っている。逆に、後味がよかった戦いを知らない。

「澪……」

その名を口にした流雫は、険しい目付きで犯人を見つめる。

「流雫」

そう名を呼び返した澪は、隣の恋人と同時にスライドを引く。その無機質な音が、高校生カップルを凜々しい戦士に変えていった。

 ブルートゥースイヤフォンを接続し、片耳だけ挿す。そしてメッセンジャーアプリをリンクさせ、通話状態にする。テレパシーが使えるワケでもないから、その代わりだ。半ば苦し紛れに似た部分は有るが。

「いくよ」

「うん」

その言葉を機に、2人が左右に散る。男は流雫を狙い続ける。音で判るが、威力で勝る大口径……。

 乾いた銃声、しかし標的が倒れることは無い。正気を失った目の下品な笑いに、陰りが見える。

 流雫は小径の曲線を描きながら、男に近寄る。動く物体への流し撃ちは流雫と言えど難しく、逆に言えば銃口の延長線上にいないことが撃たれない秘訣だった。

「目障りな……!」

男は声を上げる。

 流雫は、トレーニングシューズのグリップで一気に止まりながら、片手で銃を構える。しかし、撃たない。

「飾りか!」

男が叫ぶが、その瞬間背後から足音が大きくなるのに気付いた。

「何……!?」

そう反応した時には、既に遅かった。振り向いた男の頬を、シルバーの銃身が捉える。

「ぐっ!!」

聞き苦しい声と同時に、男の視界が90度曲がる。

 「あと3発……!」

澪は言った。既に男は3発撃っている。そして、銃身にはホログラムシールが貼られている。……合法銃。つまり残りは3発しか無い。弾切れにさせるのも方法ではある、が……。

「このや……!!」

首に手を当てる男の怒りが頂点に達する。完全に我を忘れている。その様子を見ていた澪の同級生2人には、既に結末が判っていた。先に冷静さを欠いた方に勝ち目は無い、と。

 「澪!!」

流雫が声を上げ、澪は咄嗟に男から離れる。地面を蹴った少年が、その大きな背中に向けて銃身を振った。

「ぎっ……!!」

背骨の辺りに、銃身が綺麗に入る。……撃つのは、あくまで最終手段。できることなら、撃たないまま仕留めたい。

 「撃て!!」

と叫び声が何処からか聞こえた。その声に

「やはりか……」

と呟き声で反応する流雫。……威嚇発砲から突然始まった、一種のデスゲーム。その結末を愉しもうとしているヤジ馬の声が、あまりにも煩わしく感じられる。

 「流雫……!」

澪が名を呼ぶ。彼が何を思っているのか、ボブカットの少女は誰より知っていた。

 ……それなら、最もつまらない結末を見せつけるだけだ。それは、2人のポリシーと合致する。

 動きを止め、警察に引き渡す。正当防衛とは云え殺さない。今までもそうだった。事件の真相を掴むならそれが最も手っ取り早いし、何しろ生き死にを賭けた戦いをデスゲームと同列に扱われることは、2人からすれば特大級の地雷でしかない。

 流雫は片手で銃を持ったまま、顔と手と足……それらの動きに意識を向けたまま後退る。……くたびれ気味のスニーカーが動いた。軽く地面を蹴って反転した少年は、ペデストリアンデッキを目指した。


 ロータリー前の交差点、その反対側のオフィスビルへショートカットするペデストリアンデッキ。その階段を身体を左右に振りながら駆け上がる少年に、男は銃口を向ける。しかし、照準を合わせられない。

「撃たれろ!」

男は叫ぶ。だが、撃たれれば死ぬ。撃たれるワケにはいかない。

 軽く息を切らした流雫が後ろを振り向くと、銃声が聞こえた。しかし銃弾は少年の斜め上を飛ぶ。残り2発……。

 逃げ場は一つ。5メートル下。

「待て!!」

その低い声を合図に、流雫は転落防止柵に足を乗せ、そして……身体の行方を重力に委ねた。

 薄いパーカーをはためかせる流雫の武器は、撹乱のための機動性、その象徴は初級程度のパルクール。海外の科学専門番組公式の3分間動画で学んだ物理法則に則っただけだが、これがターニングポイントになったケースも少なくない。

  「流雫!」

と声を上げながら、澪は階段を駆け上がる。男は柵から地面を見下ろすが、流雫はスーパーヒーローのように綺麗に着地し、階段側へ戻る。

「狂ってやがる……!」

そう男が声を上げ、地上へ戻ろうと踵を返す。しかし、後ろから女子高生が追ってきていた。

「退け!」

そう叫びながら、男は銃を女子高生に向け、引き金を引いた。しかし、ボブカットを掠めることすらできない。

「1……」

澪は呟く。その1発が怖い、威力に優れた大口径故に、反動が大きく扱いにくいとしても。

「澪!!」

流雫が声を張り上げ、同時に少女は踵を返す。一転して逃げる形になるが、勝機は有った。

 颯爽と階段を駆け下りる澪を追い始めた男は

「ふざっ……!!」

と声を上げる。しかし次の瞬間、足を踏み外した。足下を見ていなかった。

「うおあっ!!」

一際大きい声を上げたが、手摺に手が届かずステップの角伝いに滑り、やがて地上までの数十段を転げ落ちる。その音に振り返った澪の隣を、大口径の銃が転がっていった。

 流雫は銃を踏み付け、澪はうつ伏せのまま低い呻き声を上げる男の腕を掴んで背中に回した。

 「改正銃刀法違反、並びに殺人未遂の現行犯、かな」

そう言った澪の前から

「澪!!流雫くん!!」

と別の男の声が聞こえた。2人はその声に聞き覚えが有る。中年の男で体格はそこそこよく、グレーのスーツを着ている。そして、3時間前に家で見送っている。

 「何が有った!?」

「無差別発砲。これが犯人」

と、男に対して澪は淡々と答える。男は、その後ろから駆け付けた別の刑事に犯人の身柄を引き渡させた。

「よくやった。と言いたいところだが……また遭遇したのか」

と半ば呆れ口調の男に、立ち上がった澪は

「仕方ないじゃない。でも、流雫もあたしも無事だったんだから、未だマシでしょ?」

と返す。若めの刑事に

「室堂さん」

と呼ばれたベテラン刑事は、2人に背を向けた。

 ……室堂常願むろどうじょうがん。澪の父親で、テロ専従の現職刑事。母の美雪も元警察官、そして父親とは対立しているが澪本人も刑事になる夢を持っている。

 「……で?何が起きた?」

と常願は問う。銃を撃っていないからこそ、この場で早く済むのだが、2人のカップルは何度目かも覚えていない取調をこの場で受けることになった。

 呆気なく、そして面白くない結末に呆れながら散っていくヤジ馬を尻目に、刑事の娘とその恋人は淡々と質問に答えていく。何時しか、結奈と彩花も2人に寄っていた。

「あの犯人は病院で取り調べることになるだろうが……」

と常願は言った。急に試遊台で叫んだかと思いきや、発砲した。何が原因なのかは、病院での取調で明らかになっていくだろう。

 「……ただ、ゲームが原因で……となると……」

と言った澪に、流雫が

「カジュアルに事件が起きる……」

と続ける。……それはこの高校生カップルにとって、何よりも怖れていたことだった。

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