第18話 謎の女性③

楽しい時間だったが、翔が何か女性に対して違和感を感じ始めた。『なにか‥‥変だな‥』女性はずっと踊り続けているのだか、その姿がさっきより薄くなっているように思えた。その様子に気づいた鈴が、翔に言った。

「カッくん、気にしたらダメだよ。楽しまないと」

翔はその言葉を聞いて、あっ、と思い、瞬時に悟った。そして再びその違和感を頭から消し去り、みんなと楽しんだ。

しかし、その女性の姿は明らかに薄くなってきていた。そして、ダンスも終わりへと差し掛かった。誰もが知っている曲をみんなが口ずさんでいたので、曲の流れから終わりの方だとわかったのだ。踊り続ける女性は、段々と姿が薄くなる。周りの人達は気づいているのか、いないのか、変わらずに楽しんでいた。このままずっとダンスを見せてほしいと思っていただろう。

そして、曲が終わった。女性のダンスも終わった。最後のポーズを決めたまま、女性は止まっている。数秒が経つと、女性はおもむろに顔を上げ、直立した。そして、見ていた人達に向かって、ゆっくりと深々と頭をさげた。その瞬間、拍手が巻き起こった。しかし、もうだいぶ女性の姿は薄くなっている。今にも消えそうだった。女性は顔を上げると、満面の笑顔で、ありがとうございました、と口を動かした。その直後、女性の姿は消えていった。女性の姿が見えなくなった後も、しばらく拍手は鳴り止まなかった。

「終わっちゃったね‥」

鈴が残念そうに言った。

「そうだね。凄いダンスだったね。俺、ダンスとか全然わからないけど、魅了されちゃったよ」

「うん、そうだね。なんか、魂が込もってるというか、迫力があった。踊ってるダンスも、ここの遊園地の音楽に合わせたダンスだったから、ねずみ遊園地のダンサーの人だったのかな」

「うん、そうかのかもね。事情はわからないけど‥」

きっとこのダンサーの人は、ねずみ遊園地のダンサーさんだったに違いないと2人は思った。この遊園地でダンサーとして、遊びに来たお客さんをなお一層楽しませたい、そういう思いを持って励んでいたが、志半ばで何か不運な出来事に見舞われ、亡くなってしまったのだろう。その未練が心の中に残ってしまい、未練仏となって遊園地の中に現れたのだ。そして、未練仏になった状態でダンスを披露し、自分を見て楽しんでくれたお客さんに達のおかげで、未練を晴らすことができ自然成仏していったのだ。

未練仏の成仏の仕方は2つある。1つは強制成仏という方法。もう1つは、残した未練を晴らし、自然成仏するという方法。しかし、どんな未練があって未練仏になってしまったのか、その理由を自分自身で考え出すこと自体、難しいことだった。自分が思っていることが、この世への未練とは限らないからだ。本人がわからない、心の奥底に眠っている未練がある場合も、未練仏になるからだ。

亡くなってしまったことは悲しい出来事ではあるが、未練仏になってみんなの前に現れ、暖かい人達に見守られ、この世に残した未練を晴らして成仏できたことは、とても心が暖まる話だ。

彼女が幸せな気持ちで成仏していますように、と2人は願いながら、その場を後にした。

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