第17話 謎の女性②

ふと、女性が顔を下げた。翔と鈴はどうかしたのかな?と思った。顔を下げて数十秒経った。そして意を決したかのように顔を上げて、頭を深々と下げておじぎをした。『なんだろう?』と思っていると、女性は手を左右に広げた。そして女性はダンス始めた。最初はその場でダンスを踊っていたのだか、段々と右へ左へ、前へ後ろへと移動しながら踊り進めた。集まっていたひとだまりも、その女性の動きに合わせて、段々と円が広がっていき、大きなドーナツの形になっていった。翔はダンスなどわからない。しかしそんな素人ながらも、ダンスが上手い人だとわかる踊りだった。見ている他の人も、同じことを感じたのだろうか、みんなその女性のダンスに見入っている。どこか見た事のあるような振り付けもあった。『あっ、これは』と翔が思った時に、鈴が言った。

「このダンス、ここの遊園地の人達がパレードで踊っているダンスだ。他にも、ショーとかでも踊る振り付けもある。昨日ネットの動画で見たから、なんとなくわかる」

この女性は、ここの遊園地のダンサーのようだ。時に優雅に、時に俊敏に、また時に柔らかくしなやかに女性は踊った。周りの人達もそのダンスを、知っているのだろうか、周りがざわついている。そのうちに、向こうの方から手拍子が聞こえてきた。最初はパチパチと弱々しい音だったが、その手拍子は見ている他の人達も巻き込んでいき、段々と大きな手拍子になっていった。翔と鈴も、手拍子をした。みんなの頭の中にも、ダンスの音楽が流れているのだろう、口ずさんだり、鼻で歌ったりしている。その一つ一つの声や鼻歌が重なり合い、大きな音となり、気付くとみんなが楽しそうに体でリズムを取ったりしながら、ダンスを見ている。その女性は何もない状態から、体一つの表現でここにいるみんなを楽しませ、巻き込んでしまった。翔と鈴もノリノリでみんなと体を揺らしていた。その時だった。人だまりの端の方から、「やめろー、やめろー」という声が聞こえてきた。きっとここの従業員の人が、女性を強制成仏させる為に、お坊さんを連れてきたのだと思った。しかし、ここにいる全員は女性に魅了されていた。従業員の必死の声が聞こえていたが、段々と増えていく人だまりにかき消され、聞こえなくなっていった。女性は踊り続けた。見ている人は、応援を続けた。とても楽しい時間だった。みんなが一つになっていた。女性の顔も段々と笑顔になっていった。

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