第12話 制服の謎

次の日の朝。

翔は、鈴とねずみ遊園地へ行く日を迎えた。寝坊することなく起床し、準備を終えて鈴と待ち合わせしている駅へと向かう。『もう鈴ちゃん着いてるかな。なんかワクワクしてきた。やっと実感が湧いてきた』翔はそんなことを思いながら、楽しみな気持ちから、段々と早足になっていることにさえ、気付かなかった。『まだ鈴ちゃん着いてないみたいだ』翔が先に駅に着いた。休日の早朝なので、駅前はほとんど人がいない。未練仏の姿も見えない。『平和な日だな』翔がそう思っていると

「カッくんおはよう」

手を振りながら鈴が到着した。

「うん、おはよう。行こうか」

翔がそう返すと、2人は手を繋いで駅の中へと向かった。駅の中にもほとんど人はおらず、電車も空いていた。2人は仲良く並んで座った。

「俺さ、今さっきやっとねずみ遊園地に行くんだって実感湧いてきたんだ」

翔がそう言うと、鈴はクスクスと笑った。

「私はこの1週間ずっと楽しみで、何着ていこうかなとか、どんな髪型にしようかなとか、ずっと考えてたよ」

その言葉を聞いて、そんなに楽しみにしててくれてたんだな、本当に鈴はカワイイ、と翔は心の底から思った。色々話をしているうちに、翔は昨日の近藤の出来事を思い出した。胸にしまっておこうと思っていたが、鈴になら話してもいいかなと思った。まだ目的の駅までは時間があったこともあり、翔は鈴に昨日の近藤の話をした。翔の話を聞き終えると、鈴が言った。

「そんなことがあったんだね。なんだか色々考えさせられるね」

「うん。俺も優も、なんかいたたまれない気持ちになって、その場を離れたんだ。その後どうなったのかはわからないけど、2人の時間を邪魔したくはなかったし、悪いことではないんだけど、見てはいけないものを見てしまった気がしてさ」

「そうだよね。本当に2人の純粋な想いが伝わるよね。近藤先生がなんで結婚してないのかも、謎が解けたね。きっとその人への気持ちが強いから、他の人へ気持ちが向かないんだろうね」

「うん。ただ、その女子高生の人なんだけど、俺達が見たことない制服着てたんだよな。それなのに、なんで旧校舎にいたのかわからないんだ」

「あ、カッくん達は知らないんだ。うちの高校の制服、3年前に変わったんだよ。私の4個上に幼馴染の先輩がいて、同じ高校通ってたから私達の先輩になるんだけど、私が合格したよって話した時に、自分の下の学年から新しい制服になってんだって話聞いたんだよ」

「あっ、そうなの?今の3年の先輩とかも同じ制服だから、全く気づかなかった」

「入学の時は、どの学年も新しい制服になってたから、わからないよね。その人は、新しい制服のがカッコよくていいんだよなぁって言ってた。私は前の古い制服のが好きだけど」

「へぇ、そうなんだね」

「うんうん。だからその女子高生の人は、私たちと同じ学校だったのかも」

「あ、それなら全部つじつまが合うね。あそこの教室にいた理由も腑に落ちる」

「ただ、何がどうなってあそこに縛られてしまったのかは、わからないね」

「うん‥‥まだまだ色々気になるところだけど、これ以上の詮索はしたくないなって思って」

「うん、そうだね。私も何も聞かなかったことにする」

「うん、ありがとう。やっぱり鈴は優しいね」

「カッくんだって優しいよ。そういう優しいところも大好きだよ」

世界に入り込んでいるカップルによくある、結局お互いにノロケるという形でこの話は終わった。そんな話をしているうちに、目的の駅に着いた。2人は変わらず仲良く寄り添い、手を繋いだり、腕を組んだりしながらねずみ遊園地のエントランスへと向かった。

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