第10話 近藤先生の秘密

「やっぱり近藤だった。近藤が未練仏の女子高生に話しかけてた」

優がヒソヒソ声で翔に中の様子を伝えた。翔は驚いた顔をし、うなずいた。『近藤だったのか‥‥でもなんで?なんで近藤が?』翔が疑問に思っていると、優もそれを察したかのように、うんうん、とうなずいていた。2人は近藤の様子が気になっていた。なぜここにいるのか?何を話しているのか?そして、女子高生とはどういう関係なのか?その女子高生が着ている制服は、翔達の学校のものとは違うのだから、ここの学校の生徒ではない。疑問は深まるばかりだった。

「もう少し寄ってみて、何を話しているのか聞いてみよう」

よっぽど疑問が多く気になったのだろう、珍しく翔から言い出した。初めはあまり乗り気ではなかった翔からの言葉に、優も驚いていた。優は何も言わずに頷いた。2人は静かに教室の扉の方へと近づく。2人並んで廊下に伏せ、中の様子を伺いに、ゆっくりと顔を教室の中へと向けた。『本当に近藤だ』翔は近藤の姿を初めて確認し、本当に近藤がいるということに改めて驚いた。ずっと顔を出していると、気づかれるかもしれないと思った2人は、一度顔を引っ込めて、静かに話を聞くことにした。2人は近藤の声に耳を澄ませた。

「あ、そうそう、そういえば今日持久走の授業があったんだけど、サボった奴がいてさ。裏門から校外に出ずに、校内で時間を潰してたみたいなんだ。俺が裏門で帰ってくる生徒を見張ってたんだけど、そいつの帰ってくる姿が見えなかったんだよ。それで校庭に行ったらそいつがいてさ。あっ、これはサボったなって思って問い詰めたんだ」

サボった奴とは翔のことだ、と2人は思い、顔を見合わせた。

「最初は否定してたんだけど、サボったことを認めてさ。後で職員室に来いって呼び出したんだ。えっ?あ、うんうん、別に叱りたいわけじゃないんだよ」

女子高生が、ジェスチャーをして近藤に何かを伝えたのか、近藤もそれに対して相槌を打ちながら話しているような感じだ。未練仏からは、言葉は聞こえないので、動きなどで何を伝えたいのかを汲み取るしかない。2人の呼吸が合っているように、話を理解し合っているように感じた。

「そいつは基本的に真面目な奴だからさ、どうしてサボったのか理由を聞きたいなって思って。でも、理由次第では叱るかもしれないけど‥‥‥うん、大丈夫大丈夫。頭ごなしに怒鳴ったりしないから。安心して。ちゃんと奈津子ナツコの分もしっかり背負って、いい先生を目指し続けるからさ」

今度は女子高生の方が相槌を打って、話を聞いているのだと感じた。その後、少し沈黙があった。ほんの数秒だったかもしれないが、息を潜めている翔と優にはとても長く感じた。そしてまた、近藤が話し出した。

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